4 / 4
終編
しおりを挟む
死に戻りした件を話してからセイは過保護になった。
シャロンが少し外出するだけで過剰に反応した。
「シャロンちゃん、どうしても行くの?」
「はい」
「じゃあ俺もついて行く」
「いえ、すぐそこなので」
今も玄関扉の前でこんな攻防を繰り返していた。
ゴミ袋を持つシャロンを後ろから抱き締めて阻止するセイ。
もう、奴らを警戒する必要はないのに…。
「うーん、シャロンちゃんは可愛いから心配だなぁ」
「ただのゴミ出しですよ、旦那さま」
「そっかー、ただのゴミ出しなら俺だけで行ってくるねー」
「あっ…旦那さまったら…もう…」
セイはシャロンからゴミ袋を優しく奪うと、素早く外に出ていった。
これがお決まりのパターンと化している。
セイは、愛する妻が、もし…妙な事に巻き込まれて理不尽な扱いを受けたら…と心配で仕方ないのだ。
それだけではない…美しいシャロンが変な虫に目をつけられないか気が気ではない。
あれからシャロンは元の姿で生活している…相変わらず本人に自覚がなく、セイを悩ませていた。
だが…悩んでいるのはシャロンも同じだった。
ゴミ出しバトルに敗北し、朝食作りもしてもらい、後片付けと掃除と洗濯まで役割を取られ…ベッドでゴロゴロやさぐれていた。
(私…奥さんらしい事できていないわ…)
そう…朝昼晩の三食、間食からお茶まで…食事の全てはセイが用意してくれている。
一緒に買い物に行くものの、荷物は全てセイが持ち、異空間アイテムボックスにすら入れさせてくれない。
掃除、洗濯、食器洗いなども一緒にやっているが…ほとんどセイが終わらせてしまう。
(確かに…セイさんの作る食事の方が美味しいし、遥かに手際も良いけど…)
シャロンは元お嬢様だが、別に家事が苦手というわけではない。
尽くしてくれているだけだとわかっているが…シャロンだってセイに尽くしたいのだ。
(最近は私好みの服や下着まで手作りしてくれて…逆にセイさんに出来ない事ってあるのかしら…)
楽な格好が好きな妻のため、お洒落で着心地の良いものをプロクオリティで作ってくれる旦那は、世界中を探してどれだけいるだろうか…。
(えっちも私が寝不足になって体を壊してから控えてくれてるし…私…もらってばかりだわ…)
その日は繊細なガラス細工になった気分だった。
部屋の何処に行くにも、セイに横抱きにされて移動していた。
相当気にしているのか…誘っても、甘やかされながら断られる。
(お金も全く払わせてくれないし…あれ…?私ってヒモ…?もしかしてヒモなの…?奥さんという名のヒモ…)
自分で思って自分でショックを受ける。
このままではいけない。
立派な奥さんにならないと、今は良くても…いつかはセイに愛想をつかされてしまう……可能性もなくはない。
(代わりに愛情表現を人一倍……いや、余計にヒモっぽいわ。どうしたら………あっ!)
どうやってもいつものパターンになってしまう…と悩むシャロンに一筋の光が見えた。
(セイさんは私が協力したいって言うからやらせてくれない。つまり…おねだりとしてお願いすればいいのだわ)
セイのためにやりたいと言うから、気にしなくていいと言われる。
なら…それを『私はこれがやりたいのっ!』という言い方にすれば、セイはシャロンのお願いを聞いてくれるかもしれない…という事だ。
「これで旦那さまに…!」
尽くせる…と、瞳をキラキラさせる。
激しく尻尾を振る子犬のように喜ぶシャロン。
今の気持ちを具現化できるなら、周囲にはきっとハートマークが飛び散っている事だろう。
だからか…シャロンは耳元で囁かれるまでセイの気配に気付かなかった。
「俺に、なぁに?」
「っ!…え…だ、旦那さまっ!?」
甘い低音に力が抜け、首筋から背筋にかけてキュンと蕩けるような弱い快感が走る。
いつの間にか背後にいた愛しい夫。
そのまま正面に回り込まれ、シャロンを横抱きにしてベッドに腰を掛けるセイ。
「そんな可愛い顔をしてどうしたの?」
ちゅっ、ちゅっ…と頬に優しく当たる柔らかい感触。
飄々としているが…静かに呟かれる言葉は、とにかく砂糖が溶けて絡み付くよう。
「だんなしゃま…♡」
不意打ち攻撃に思考が溶かされそうになるが、すんでで耐えて目的を思い出す。
「あ、あの…私……シャロンね、お願いがあるのっ」
子犬が『キューンキューン…』と切なく鼻を鳴らすように幼く切り出した。
甘える時や、おねだりをする時は、上目遣いでこういう言い方がいいとセイから学んだシャロン。
「!…ん、なぁに♡」
それに対し、簡単にデレデレになるセイ。
何でも聞いてあげるという雰囲気を醸し出しながら返事をかえす。
「あのね…シャロン、もっと家事やりたいの…」
「!…ふーん」
「だめぇ?」
「はは…へぇ…♡考えたね、シャロンちゃん♡」
控え目に頬擦りをしながらおねだりをするシャロンの意図にすぐに気がついたセイ。
甘やかしながらも、余裕そうに妖しく微笑んだ。
「どうしよっかなぁ…俺の趣味なんだけど?」
「ーーー!」
そうきたか。
趣味と言い換えれば、シャロンもおねだりを強く通す事が出来ず、この件は平行線になる。
「今日はチキンピラフを作ろうと思ったんだけどなぁ~」
「っ…チ、チキンピラフ…!!」
「あっ、チキンの照り焼き丼とかも良いよね~」
そ、そう、きたか…。
更にシャロンの大好きな肉と米の組み合わせで誘惑し、早々に折れてもらうとしている。
こうなったら…少し卑怯だが、セイが慎重にならざるを得ない選択をさせてもらおう。
「……………シャロンの料理…食べたくないの…?」
わざと視線を伏せてから、叱られた子犬のように上目遣いで切なく見詰めた。
すると…飄々と笑っていたセイの表情が変わった。
「違う、違うよ。ごめんね…俺の言い方が悪かった」
あからさまに動揺し、即座に主導権をシャロンに手渡してきたのだ。
(俺とした事が…間接的にそう思わせる言い方をしてしまった)
シャロンの作戦だとわかっていても、そう言わせてしまった自分をセイは責めていた。
大事に包んでいたが故、こんな形で裏目に出るとは。
セイはシャロンに対してだけ心を動かし、砕き、激しく乱す。
らしくもなく焦る姿は、その全てを表したようだった。
(う…ごめんなさい…)
そんなセイの気持ちを利用し、罪悪感という名の痛みに襲われるが…やはり片方だけが片方に尽くすというのは間違っている。
ギュッとセイの服を握ると、諦めたように体の力を抜いたのがわかった。
「これは、俺が折れるしかないか…料理は交互にお願いしちゃおうかな?」
可愛い可愛いシャロンのため、ため息を吐きながら困ったように微笑むセイ。
額と額を優しく擦り合わせ…顔を離す際にはシャロンを甘やかす、軽い唇の感触が額に残った。
「!…はいっ」
一歩前進した。
シャロンはセイに尽くせる第一歩を踏めて、蕾が花開いたように喜んだ。
さて、何を作ろうか。
煮込み料理にしようか、それとも揚げ物…いや、オーブン料理も良いかもしれない。
「シャロンちゃん…」
不意に、セイから掠れた色っぽい声がもれた。
その声にハッとする。
ウキウキして考えていたせいで、無意識にセイに抱きつき、全身で『好き♡好き♡』を表現しながら頬擦りをしていた。
つい…全力のキラキラはしゃぐ子犬ムーブをしてしまった。
「あ、ごめんなさーーーえ…?」
横抱きの状態でそんなを事されたら動けない…。
困らせてしまったようだと慌てて上半身を離すと、お尻にゴリッとした何かが当たる。
(え、え…これって…この位置って…というか、さっきの色っぽい声って、こういう事…?)
そう…セイの肉棒が勃起していたのだ。
それはもう、完璧に。
「…はは、そんな可愛くおっぱい押し付けられたら…ねぇ?」
体調を崩したシャロンのため、ここ暫く我慢していたせいか…溜まりに溜まった欲望が刺激されたようだ。
(………………これは…チャンスだわ!)
そちらの奉仕もしたいと思っていたシャロンは、キラーンと鋭く瞳を光らせた。
何より、シャロンもしたいのだ。
「じゃあ…もっといっぱいしちゃいます…♡」
愛らしく表情をとろけさせ、またセイの逞しい胸に自分の柔らかな胸を押し付けた。
今度は…愛撫するようにねっとりと上下させた。
「っ…シャロンちゃんって、そういうトコあるよね…俺の事は良いから…」
「違いますっ!私が旦那さまの、お、おちんぽが、ほ、欲しいんです…♡」
「…………はぁ…もう、ホント敵わないなぁ……尻に敷かれるってこういう事なのか…料理は明日からだね…」
今回は逃げられないとセイが諦めると、二人は時が止まったように見詰め合い…溶け合うように口付けをした。
***
そのまま激しく求めーーー合わなかった。
いや、正しくは求め合ってはいるのだが…非常に優しく…そう、壊れ物のように扱われていた。
ずっとシャロンのペースに合わせくれている。
どうやら、まだ体調を崩した事を気にして自分の欲望を抑えているらしい…。
「むぅ……あんっ♡」
何故だ、解せぬ…もう大丈夫なのに。
シャロンはくすぐったい程の甘い刺激を感じながらむくれていた。
感覚的な事を言えば、八分目くらいのところを負担なく気持ち良くしてもらっている状況だ。
「どーしたの?まさか痛い…?」
ほら…今も心配そうにシャロンの頬を撫でながら、動きを止め、慎重に抜こうとしている。
「んっ♡き、きもちぃですっ…けど、だんな、さまが…」
「はは、俺もすっごくきもちーよ♡」
絶対に嘘だと、シャロンは思う。
この言い方は『シャロンちゃんが気持ち良いなら俺は精神的に大満足♡』という意味だからだ。
ーーー何という精神力だろう。
本当は奥まで容赦なく攻め立てて本能的に求めたいはずなのに。
その証拠に…愛する夫の愛しい愛しい肉棒様がずっと苦しそうに我慢しているのだ。
思う存分欲望をぶつけて欲しいシャロンは、セイが抜けないように両足を腰に絡めてホールドした。
不意を突かれ、ずちゅ…と奥に押し込まれた肉棒。
一瞬、電撃のような鋭い快感がシャロンの体を駆け巡った。
「んあっ♡もっとぉ…もっとするのぉ…♡」
「うっ…!?…っ…ちょっと、今のは効いた、かな…」
自ら腰を動かし、奥に誘おうとするが…さすがは『シャロン馬鹿』のセイ…まだ自制心が勝っているらしい。
「や、やぁあ…」
さて…言うまでもなく、力で勝てるわけないので押し切るのは無理。
言葉で説得するのも、半分以上溶けた思考で無理。
今もシャロンを傷付けないようにゆるく抵抗している。
(こ、このままだとっ…!)
もうシャロンはなりふり構っていられなかった。
「ほしいのっ…奥にほしいの…いっぱいほしいのぉ…」
「え、シャロンちゃん…」
「いっぱい、ちゅーするのぉ…いっぱい、おくに、ずうっと、ぱちゅぱちゅびゅーびゅーがいいのぉ…ぬいちゃ、やぁあっ!」
「!?」
説明しよう。
通訳すると『行為中はたくさんキスしながら、たくさん激しく奥を突いて欲しい。連続で中に出す程。だから抜いては嫌』だ。
「はは…可愛いが過ぎる…」
甘えん坊全開で熱列なおねだりをされ、下半身の熱が更に高まる。
こう言われてしまえばセイもたまらない…最後の理性が簡単に崩れてしまった。
ズンッ…と欲望のまま押し込み、小刻みにゆるい動きで奥を擦った。
まるでシャロンの奥を撫でて愛でるように。
「あんっ!?あ…ああっ♡」
先ほどまでとは違う刺激に驚いたものの、シャロンはすぐにとろとろメロメロになる。
段々と動きが大きくなり、激しさが増していく。
セイはうっとり蕩けた瞳でシャロンを見詰め、息を乱してねっとり甘く囁いた。
「はっ…はぁ…きもちいねぇ、シャロンちゃんっ♡」
「う、うんっ…♡きも、ち…♡んむっ!?ん、んっ…♡
ちゅっ♡ぢゅっ♡だ、だん、なさ、ま…あっ…ああぁあーーーっ♡」
「くっ…はぁ…あっ…」
返事の途中で強引に唇を奪われ、貪るように舌を吸われてしまい…背中に甘い快感が走り、身体中の力が抜ける。
その隙に、奥を強く抉るように突いてきた肉棒。
許容を越えた快感がシャロンを襲い、瞳をチカチカさせながら達してしまった。
脱力しながらも、セイの首に両手を回してギュッと抱き付き、精子を吐き出しても変わらない状態のものに愛しさを募らせる。
「もっ、と…♡だんな、さま…びゅ、びゅー、まだ…あっ♡」
「んっ…そ、だねっ…♡いっぱいびゅーびゅーしていーい?」
「うんっ♡しゃろんに、いっぱい、ちょーだい♡」
「ははっ…いいこ♡今度は…俺の上に乗ってほしーな♡」
頭を撫でられながら褒められて喜んでいると、まさかのセイからのリクエスト。
シャロンは待ってましたと食い付いたが…そうするためには『ある事』をしないといけない。
「はーいっ♡……でも、ぬいちゃうの…?」
「…くっ…大丈夫っ♡こうやって、くるんってすれば♡」
「えっ…ひゃっ!?ああんっ♡はぁ…あっ…♡」
セイはシャロンが痛みを感じないようにくるりと回って体勢を逆にした。
その際に…また奥をゴリッと抉られ、シャロンは所謂甘イキをしてしまった。
(はっ……バ、バテているばあいじゃないの…!)
暫くセイの上で休憩していたシャロンは自分を叱咤して、むくりと上半身を起こした。
「…ゆっくりでいいからね、無理はしないで」
理性がやられても、やはりシャロンファーストのセイ…結局はシャロンを優先してしまう。
「だ、だいじょ、ぶっ…あっ…」
それに甘える訳にはいかないと頑張って動き出すシャロン。
だけど…体に力が入らず、上手く腰を上下する事ができない。
「……シャロンちゃん、いい子いい子♡乗ってくれるだけで良かったのに、頑張ってくれてとっても嬉しいよ♡」
シャロンが震える子犬のように瞳を潤ませて気落ちしていると…セイが少しだけ体を起こし、安心させるように頬を撫でてくれた。
「ね、おてて繋ごうか?」
セイはシャロンの両手を取ると、指を絡ませて支えるように握った。
甘えたなシャロンは嬉しそうに幼く笑い、その無防備さがセイの胸をキュンッとときめかせる。
「だんな、しゃま…しゅきぃ…♡だいしゅき…♡」
「ははっ…かぁわい♡俺も大好きだよ♡」
「えへへっ…うれしっ…あっ…ん……で、でも、しゃろんのほうが、しゅきなのっ♡しゅき…しゅきっ♡だいしゅきっ♡しゃろんだけの、だんなしゃま…♡しゅき、しゅーきっ…だぁいしゅきっ♡」
「…っ……くっ……参ったな…」
何ていう破壊力であろう。
シャロンの『好き好き攻撃』に柄にもなく頬を赤くするセイ…珍しく本気で照れている。
セイ限定で何処までも素直にデレるシャロンは限度を知らない。
改めて、それを実感したセイであった。
愛し、愛させる…とはなんて幸せな事だろう。
「動いて、いーい…?」
「い、よっ♡いっぱい、しゅきにしてぇ♡」
殺し文句を食らい…シャロンに配慮していたセイもいよいよ動きたくなり、ゆるく腰を動かし始める。
「あっ♡ああっ♡んぅっ♡」
「はぁ…いい子だねっ♡頑張って揺れて、おっぱいまで俺に『好き好き大好き』って伝えてくれる♡」
何処もかしこも愛らしいシャロン。
ぷるんぷるんっと揺れる白いたわわは非常に卑猥で、その先の薄ピンクも舐めるように見詰める。
「え、へへっ…♡あっ…ひゃあぁあーーーっ♡」
幸せそうに恍惚とした笑みを浮かべるシャロンの奥に、今日一番の刺激が愛情たっぷりに届いた。
***
ーーー数日後。
セイは深皿に入ったクリームシチューをうっとりしながら食べていた。
「シャロンちゃん、美味しいよ」
「ほ、ほんとうですかっ!?」
「うん。チェダーチーズのコクがとてもいいし、肉と野菜が多めにゴロゴロ入ってて美味しい」
シャロンは内心『やったぁ!』と喜びながら、わざわざ具体的な感想を言ってくれるセイに『また甘やかされているなぁ…』と半分ときめき、半分拗ねていた。
「ホワイトソースがこんなに美味しいなら…次はグラタンが食べたいなぁ♡」
しかも更に褒めながら、無理のない範囲でさりげなく次のリクエストをしてくる。
何だろう…この、家事をしていなくても理想の旦那具合は…こんな素晴らしい旦那、世界中を探してどのくらいいるだろう。
「息しているだけで偉いのに、シャロンちゃんは料理まで上手で……もういい子過ぎ…天使かな?」
「だ、旦那さまは…もお…」
この無限で本気の甘やかしがある限り、シャロンが立派な奥さんになる道のりは険しいだろう。
シャロンが少し外出するだけで過剰に反応した。
「シャロンちゃん、どうしても行くの?」
「はい」
「じゃあ俺もついて行く」
「いえ、すぐそこなので」
今も玄関扉の前でこんな攻防を繰り返していた。
ゴミ袋を持つシャロンを後ろから抱き締めて阻止するセイ。
もう、奴らを警戒する必要はないのに…。
「うーん、シャロンちゃんは可愛いから心配だなぁ」
「ただのゴミ出しですよ、旦那さま」
「そっかー、ただのゴミ出しなら俺だけで行ってくるねー」
「あっ…旦那さまったら…もう…」
セイはシャロンからゴミ袋を優しく奪うと、素早く外に出ていった。
これがお決まりのパターンと化している。
セイは、愛する妻が、もし…妙な事に巻き込まれて理不尽な扱いを受けたら…と心配で仕方ないのだ。
それだけではない…美しいシャロンが変な虫に目をつけられないか気が気ではない。
あれからシャロンは元の姿で生活している…相変わらず本人に自覚がなく、セイを悩ませていた。
だが…悩んでいるのはシャロンも同じだった。
ゴミ出しバトルに敗北し、朝食作りもしてもらい、後片付けと掃除と洗濯まで役割を取られ…ベッドでゴロゴロやさぐれていた。
(私…奥さんらしい事できていないわ…)
そう…朝昼晩の三食、間食からお茶まで…食事の全てはセイが用意してくれている。
一緒に買い物に行くものの、荷物は全てセイが持ち、異空間アイテムボックスにすら入れさせてくれない。
掃除、洗濯、食器洗いなども一緒にやっているが…ほとんどセイが終わらせてしまう。
(確かに…セイさんの作る食事の方が美味しいし、遥かに手際も良いけど…)
シャロンは元お嬢様だが、別に家事が苦手というわけではない。
尽くしてくれているだけだとわかっているが…シャロンだってセイに尽くしたいのだ。
(最近は私好みの服や下着まで手作りしてくれて…逆にセイさんに出来ない事ってあるのかしら…)
楽な格好が好きな妻のため、お洒落で着心地の良いものをプロクオリティで作ってくれる旦那は、世界中を探してどれだけいるだろうか…。
(えっちも私が寝不足になって体を壊してから控えてくれてるし…私…もらってばかりだわ…)
その日は繊細なガラス細工になった気分だった。
部屋の何処に行くにも、セイに横抱きにされて移動していた。
相当気にしているのか…誘っても、甘やかされながら断られる。
(お金も全く払わせてくれないし…あれ…?私ってヒモ…?もしかしてヒモなの…?奥さんという名のヒモ…)
自分で思って自分でショックを受ける。
このままではいけない。
立派な奥さんにならないと、今は良くても…いつかはセイに愛想をつかされてしまう……可能性もなくはない。
(代わりに愛情表現を人一倍……いや、余計にヒモっぽいわ。どうしたら………あっ!)
どうやってもいつものパターンになってしまう…と悩むシャロンに一筋の光が見えた。
(セイさんは私が協力したいって言うからやらせてくれない。つまり…おねだりとしてお願いすればいいのだわ)
セイのためにやりたいと言うから、気にしなくていいと言われる。
なら…それを『私はこれがやりたいのっ!』という言い方にすれば、セイはシャロンのお願いを聞いてくれるかもしれない…という事だ。
「これで旦那さまに…!」
尽くせる…と、瞳をキラキラさせる。
激しく尻尾を振る子犬のように喜ぶシャロン。
今の気持ちを具現化できるなら、周囲にはきっとハートマークが飛び散っている事だろう。
だからか…シャロンは耳元で囁かれるまでセイの気配に気付かなかった。
「俺に、なぁに?」
「っ!…え…だ、旦那さまっ!?」
甘い低音に力が抜け、首筋から背筋にかけてキュンと蕩けるような弱い快感が走る。
いつの間にか背後にいた愛しい夫。
そのまま正面に回り込まれ、シャロンを横抱きにしてベッドに腰を掛けるセイ。
「そんな可愛い顔をしてどうしたの?」
ちゅっ、ちゅっ…と頬に優しく当たる柔らかい感触。
飄々としているが…静かに呟かれる言葉は、とにかく砂糖が溶けて絡み付くよう。
「だんなしゃま…♡」
不意打ち攻撃に思考が溶かされそうになるが、すんでで耐えて目的を思い出す。
「あ、あの…私……シャロンね、お願いがあるのっ」
子犬が『キューンキューン…』と切なく鼻を鳴らすように幼く切り出した。
甘える時や、おねだりをする時は、上目遣いでこういう言い方がいいとセイから学んだシャロン。
「!…ん、なぁに♡」
それに対し、簡単にデレデレになるセイ。
何でも聞いてあげるという雰囲気を醸し出しながら返事をかえす。
「あのね…シャロン、もっと家事やりたいの…」
「!…ふーん」
「だめぇ?」
「はは…へぇ…♡考えたね、シャロンちゃん♡」
控え目に頬擦りをしながらおねだりをするシャロンの意図にすぐに気がついたセイ。
甘やかしながらも、余裕そうに妖しく微笑んだ。
「どうしよっかなぁ…俺の趣味なんだけど?」
「ーーー!」
そうきたか。
趣味と言い換えれば、シャロンもおねだりを強く通す事が出来ず、この件は平行線になる。
「今日はチキンピラフを作ろうと思ったんだけどなぁ~」
「っ…チ、チキンピラフ…!!」
「あっ、チキンの照り焼き丼とかも良いよね~」
そ、そう、きたか…。
更にシャロンの大好きな肉と米の組み合わせで誘惑し、早々に折れてもらうとしている。
こうなったら…少し卑怯だが、セイが慎重にならざるを得ない選択をさせてもらおう。
「……………シャロンの料理…食べたくないの…?」
わざと視線を伏せてから、叱られた子犬のように上目遣いで切なく見詰めた。
すると…飄々と笑っていたセイの表情が変わった。
「違う、違うよ。ごめんね…俺の言い方が悪かった」
あからさまに動揺し、即座に主導権をシャロンに手渡してきたのだ。
(俺とした事が…間接的にそう思わせる言い方をしてしまった)
シャロンの作戦だとわかっていても、そう言わせてしまった自分をセイは責めていた。
大事に包んでいたが故、こんな形で裏目に出るとは。
セイはシャロンに対してだけ心を動かし、砕き、激しく乱す。
らしくもなく焦る姿は、その全てを表したようだった。
(う…ごめんなさい…)
そんなセイの気持ちを利用し、罪悪感という名の痛みに襲われるが…やはり片方だけが片方に尽くすというのは間違っている。
ギュッとセイの服を握ると、諦めたように体の力を抜いたのがわかった。
「これは、俺が折れるしかないか…料理は交互にお願いしちゃおうかな?」
可愛い可愛いシャロンのため、ため息を吐きながら困ったように微笑むセイ。
額と額を優しく擦り合わせ…顔を離す際にはシャロンを甘やかす、軽い唇の感触が額に残った。
「!…はいっ」
一歩前進した。
シャロンはセイに尽くせる第一歩を踏めて、蕾が花開いたように喜んだ。
さて、何を作ろうか。
煮込み料理にしようか、それとも揚げ物…いや、オーブン料理も良いかもしれない。
「シャロンちゃん…」
不意に、セイから掠れた色っぽい声がもれた。
その声にハッとする。
ウキウキして考えていたせいで、無意識にセイに抱きつき、全身で『好き♡好き♡』を表現しながら頬擦りをしていた。
つい…全力のキラキラはしゃぐ子犬ムーブをしてしまった。
「あ、ごめんなさーーーえ…?」
横抱きの状態でそんなを事されたら動けない…。
困らせてしまったようだと慌てて上半身を離すと、お尻にゴリッとした何かが当たる。
(え、え…これって…この位置って…というか、さっきの色っぽい声って、こういう事…?)
そう…セイの肉棒が勃起していたのだ。
それはもう、完璧に。
「…はは、そんな可愛くおっぱい押し付けられたら…ねぇ?」
体調を崩したシャロンのため、ここ暫く我慢していたせいか…溜まりに溜まった欲望が刺激されたようだ。
(………………これは…チャンスだわ!)
そちらの奉仕もしたいと思っていたシャロンは、キラーンと鋭く瞳を光らせた。
何より、シャロンもしたいのだ。
「じゃあ…もっといっぱいしちゃいます…♡」
愛らしく表情をとろけさせ、またセイの逞しい胸に自分の柔らかな胸を押し付けた。
今度は…愛撫するようにねっとりと上下させた。
「っ…シャロンちゃんって、そういうトコあるよね…俺の事は良いから…」
「違いますっ!私が旦那さまの、お、おちんぽが、ほ、欲しいんです…♡」
「…………はぁ…もう、ホント敵わないなぁ……尻に敷かれるってこういう事なのか…料理は明日からだね…」
今回は逃げられないとセイが諦めると、二人は時が止まったように見詰め合い…溶け合うように口付けをした。
***
そのまま激しく求めーーー合わなかった。
いや、正しくは求め合ってはいるのだが…非常に優しく…そう、壊れ物のように扱われていた。
ずっとシャロンのペースに合わせくれている。
どうやら、まだ体調を崩した事を気にして自分の欲望を抑えているらしい…。
「むぅ……あんっ♡」
何故だ、解せぬ…もう大丈夫なのに。
シャロンはくすぐったい程の甘い刺激を感じながらむくれていた。
感覚的な事を言えば、八分目くらいのところを負担なく気持ち良くしてもらっている状況だ。
「どーしたの?まさか痛い…?」
ほら…今も心配そうにシャロンの頬を撫でながら、動きを止め、慎重に抜こうとしている。
「んっ♡き、きもちぃですっ…けど、だんな、さまが…」
「はは、俺もすっごくきもちーよ♡」
絶対に嘘だと、シャロンは思う。
この言い方は『シャロンちゃんが気持ち良いなら俺は精神的に大満足♡』という意味だからだ。
ーーー何という精神力だろう。
本当は奥まで容赦なく攻め立てて本能的に求めたいはずなのに。
その証拠に…愛する夫の愛しい愛しい肉棒様がずっと苦しそうに我慢しているのだ。
思う存分欲望をぶつけて欲しいシャロンは、セイが抜けないように両足を腰に絡めてホールドした。
不意を突かれ、ずちゅ…と奥に押し込まれた肉棒。
一瞬、電撃のような鋭い快感がシャロンの体を駆け巡った。
「んあっ♡もっとぉ…もっとするのぉ…♡」
「うっ…!?…っ…ちょっと、今のは効いた、かな…」
自ら腰を動かし、奥に誘おうとするが…さすがは『シャロン馬鹿』のセイ…まだ自制心が勝っているらしい。
「や、やぁあ…」
さて…言うまでもなく、力で勝てるわけないので押し切るのは無理。
言葉で説得するのも、半分以上溶けた思考で無理。
今もシャロンを傷付けないようにゆるく抵抗している。
(こ、このままだとっ…!)
もうシャロンはなりふり構っていられなかった。
「ほしいのっ…奥にほしいの…いっぱいほしいのぉ…」
「え、シャロンちゃん…」
「いっぱい、ちゅーするのぉ…いっぱい、おくに、ずうっと、ぱちゅぱちゅびゅーびゅーがいいのぉ…ぬいちゃ、やぁあっ!」
「!?」
説明しよう。
通訳すると『行為中はたくさんキスしながら、たくさん激しく奥を突いて欲しい。連続で中に出す程。だから抜いては嫌』だ。
「はは…可愛いが過ぎる…」
甘えん坊全開で熱列なおねだりをされ、下半身の熱が更に高まる。
こう言われてしまえばセイもたまらない…最後の理性が簡単に崩れてしまった。
ズンッ…と欲望のまま押し込み、小刻みにゆるい動きで奥を擦った。
まるでシャロンの奥を撫でて愛でるように。
「あんっ!?あ…ああっ♡」
先ほどまでとは違う刺激に驚いたものの、シャロンはすぐにとろとろメロメロになる。
段々と動きが大きくなり、激しさが増していく。
セイはうっとり蕩けた瞳でシャロンを見詰め、息を乱してねっとり甘く囁いた。
「はっ…はぁ…きもちいねぇ、シャロンちゃんっ♡」
「う、うんっ…♡きも、ち…♡んむっ!?ん、んっ…♡
ちゅっ♡ぢゅっ♡だ、だん、なさ、ま…あっ…ああぁあーーーっ♡」
「くっ…はぁ…あっ…」
返事の途中で強引に唇を奪われ、貪るように舌を吸われてしまい…背中に甘い快感が走り、身体中の力が抜ける。
その隙に、奥を強く抉るように突いてきた肉棒。
許容を越えた快感がシャロンを襲い、瞳をチカチカさせながら達してしまった。
脱力しながらも、セイの首に両手を回してギュッと抱き付き、精子を吐き出しても変わらない状態のものに愛しさを募らせる。
「もっ、と…♡だんな、さま…びゅ、びゅー、まだ…あっ♡」
「んっ…そ、だねっ…♡いっぱいびゅーびゅーしていーい?」
「うんっ♡しゃろんに、いっぱい、ちょーだい♡」
「ははっ…いいこ♡今度は…俺の上に乗ってほしーな♡」
頭を撫でられながら褒められて喜んでいると、まさかのセイからのリクエスト。
シャロンは待ってましたと食い付いたが…そうするためには『ある事』をしないといけない。
「はーいっ♡……でも、ぬいちゃうの…?」
「…くっ…大丈夫っ♡こうやって、くるんってすれば♡」
「えっ…ひゃっ!?ああんっ♡はぁ…あっ…♡」
セイはシャロンが痛みを感じないようにくるりと回って体勢を逆にした。
その際に…また奥をゴリッと抉られ、シャロンは所謂甘イキをしてしまった。
(はっ……バ、バテているばあいじゃないの…!)
暫くセイの上で休憩していたシャロンは自分を叱咤して、むくりと上半身を起こした。
「…ゆっくりでいいからね、無理はしないで」
理性がやられても、やはりシャロンファーストのセイ…結局はシャロンを優先してしまう。
「だ、だいじょ、ぶっ…あっ…」
それに甘える訳にはいかないと頑張って動き出すシャロン。
だけど…体に力が入らず、上手く腰を上下する事ができない。
「……シャロンちゃん、いい子いい子♡乗ってくれるだけで良かったのに、頑張ってくれてとっても嬉しいよ♡」
シャロンが震える子犬のように瞳を潤ませて気落ちしていると…セイが少しだけ体を起こし、安心させるように頬を撫でてくれた。
「ね、おてて繋ごうか?」
セイはシャロンの両手を取ると、指を絡ませて支えるように握った。
甘えたなシャロンは嬉しそうに幼く笑い、その無防備さがセイの胸をキュンッとときめかせる。
「だんな、しゃま…しゅきぃ…♡だいしゅき…♡」
「ははっ…かぁわい♡俺も大好きだよ♡」
「えへへっ…うれしっ…あっ…ん……で、でも、しゃろんのほうが、しゅきなのっ♡しゅき…しゅきっ♡だいしゅきっ♡しゃろんだけの、だんなしゃま…♡しゅき、しゅーきっ…だぁいしゅきっ♡」
「…っ……くっ……参ったな…」
何ていう破壊力であろう。
シャロンの『好き好き攻撃』に柄にもなく頬を赤くするセイ…珍しく本気で照れている。
セイ限定で何処までも素直にデレるシャロンは限度を知らない。
改めて、それを実感したセイであった。
愛し、愛させる…とはなんて幸せな事だろう。
「動いて、いーい…?」
「い、よっ♡いっぱい、しゅきにしてぇ♡」
殺し文句を食らい…シャロンに配慮していたセイもいよいよ動きたくなり、ゆるく腰を動かし始める。
「あっ♡ああっ♡んぅっ♡」
「はぁ…いい子だねっ♡頑張って揺れて、おっぱいまで俺に『好き好き大好き』って伝えてくれる♡」
何処もかしこも愛らしいシャロン。
ぷるんぷるんっと揺れる白いたわわは非常に卑猥で、その先の薄ピンクも舐めるように見詰める。
「え、へへっ…♡あっ…ひゃあぁあーーーっ♡」
幸せそうに恍惚とした笑みを浮かべるシャロンの奥に、今日一番の刺激が愛情たっぷりに届いた。
***
ーーー数日後。
セイは深皿に入ったクリームシチューをうっとりしながら食べていた。
「シャロンちゃん、美味しいよ」
「ほ、ほんとうですかっ!?」
「うん。チェダーチーズのコクがとてもいいし、肉と野菜が多めにゴロゴロ入ってて美味しい」
シャロンは内心『やったぁ!』と喜びながら、わざわざ具体的な感想を言ってくれるセイに『また甘やかされているなぁ…』と半分ときめき、半分拗ねていた。
「ホワイトソースがこんなに美味しいなら…次はグラタンが食べたいなぁ♡」
しかも更に褒めながら、無理のない範囲でさりげなく次のリクエストをしてくる。
何だろう…この、家事をしていなくても理想の旦那具合は…こんな素晴らしい旦那、世界中を探してどのくらいいるだろう。
「息しているだけで偉いのに、シャロンちゃんは料理まで上手で……もういい子過ぎ…天使かな?」
「だ、旦那さまは…もお…」
この無限で本気の甘やかしがある限り、シャロンが立派な奥さんになる道のりは険しいだろう。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
512
この作品の感想を投稿する
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる