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62.我が逃走
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シュプレー川にはDo26飛行艇が2機、エンジンがかかった状態で待機していた。
「総統!すぐに飛行艇にお乗りください!」
飛行艇の前で待っていたグロースドイッチュラント師団の隊員の誘導でアイザックと優香、ヘルムート、ヘルムート小隊の隊員2名、RSDの隊員1名が飛行艇に乗り込んだ。
余った席にはグロースドイッチュラント師団の隊員らが乗り込み、飛行艇はシュプレー川から飛び立った。続いてもう1機の飛行艇も無事に離水し、多くの犠牲を払いながらベルリンからの脱出に成功した。
「カーティス大佐、この飛行艇はどこに向かっているんだ?」
アイザックは一緒に乗り込んできた中で1番階級の高い、カーティス大佐に聞いた。グロースドイッチュラント師団の隊員にはアイザックは何度もあったことがあり、アイザックはカーティス大佐の顔も名前も覚えていた。
「ベルヒテスガーデンです。あそこには親衛隊しかおりませんし、住民もナチス党員しかおりません」
「なるほど、じゃあ進路をパリに変更させて」
「パリですか?パリは未だ連合軍に包囲されており、かなり危険かと思われます」
想定外の指示にカーティスは思わず反論してしまった。
「カーティス大佐の言いたいことは分かるけど、パリは西側連合軍に包囲されているからこそ、クーデター軍は手を出しにくいんだよね。それに、レッシェンが2基も設置してあって未だ200万人を超えるパリ市民を人質に取っていて食料の供給は止めれないから、持久戦にも耐えられる。それに、パリには陸軍を配置する代わりに武装SSしかいない。今の僕達にとってはパリより安全な場所は無いと思うよ」
飛行艇はアイザックの提案により進路をパリに変更した。このままフランス領空に入ると、西側連合軍に迎撃される可能性が高いので、ベルリンからパリの間にあるすべての空軍機基地に、パリまでの護衛を派遣するように要請し、それらの基地にあった全ての戦闘機と爆撃機がアイザック達の飛行艇の編隊に加わった。
「総統。もう少しで西側連合軍の支配空域にはいります。ヘルメット、防弾ベスト、シートベルトを着用してください。当機に総統をお乗せすることができて光栄です」
機長からの機内アナウンスがあり、機内は緊張で張りつめていた。
「思ったより空軍は集まってくれたね」
ベルリンからパリに向かう途中で合流した空軍の航空機は400機を超え、アイザックは窓から大編隊になった護衛機を見ながら呟いた。
「元々陸軍と空軍はあまり仲が良くないから、ナチス党員と様子見が半々といったところだと思うわ」
優香の予想は概ね当たっており、実際にはナチス党員は2割、残り8割は様子見である。積極的に陸軍のクーデターに手を貸す司令官はいなかった。
「伝統を重んじる陸軍に比べて空軍は実力主義だからね。僕が直接司令官に任命した人もたくさんいて、その司令官達が今回命を懸けて集まってくれんだね」
「パリに着いたら、みんなにお礼をしたら良いんじゃないかしら」
「うん、パリにあるナチス党のワイナリーを皆に解放して、好きな銘柄のワインを飲みたいだけ振る舞うことにするよ」
「いいわね。きっと皆喜ぶわよ」
そう言って優香はアイザックの肩にもたれかかり、アイザックが優香の髪を優しく撫でていると、また機長からの機内アナウンスが流れた。
「パリまで100kmを切りましたが、米軍のP-63 キングコブラが上がって来ました。見えるだけで100機以上おります。当機はこのまま全速力で突き進みますので、衝撃に備えてください」
前方を飛んでいたドイツ軍の護衛戦闘機が、まだ高度を上げている途中のキングコブラ戦闘機の編隊に襲い掛かった。元々性能ではドイツの戦闘機が米軍機を圧倒しており、今回は数でも勝っているため、みるみる米軍のキングコブラを落としていき、数分ですべてのキングコブラを撃墜した。一方、迎撃に向かったドイツ軍機の被害は1割を切っていた。
アイザック達が乗る飛行艇に近づけることなく、米軍機を退けたため、アイザック達は少し安心していたが、今度は先ほどの3倍近い数のP-51 マスタングが上がってきた。
約300機の戦闘機はさすがに数が多すぎた。精鋭揃いのドイツ空軍でも、飛行艇から離れた前方の位置で処理をしきれなくなり、乱戦になってしまった。
アイザック達の飛行艇もマスタングの機銃から発射された弾が数発被弾した。弾は飛行艇の胴体部分を貫通し乗員に怪我人が出たが、運よく死者は出ず、アイザックと優香、ヘルムートは無事だった。
アイザック達の編隊はボロボロになりながらもどうにかマスタング約300機を退けることに成功した。しかし、約半数がこの2回の米軍の襲撃により犠牲となった。
パリに近づくと新手の戦闘機により迎撃はなかったが、連合軍の対空砲火の弾幕が濃くなり、さらにそこで数を減らし、弾幕を潜り抜けてドイツ軍がパリ占領後に建設したパリ飛行場に着陸できたのは、全体の4分の1の約100機だった。損耗率が75%を超えるという状況で、アイザック達の飛行艇がここまで辿り着けたのは、護衛の戦闘機がアイザックの身代わりに敵機からの攻撃を引き受けていたからだった。
マンシュタイン元帥率いるドイツ陸軍によるクーデター計画はアイザックを逃すという大失態を犯したものの、ナチス党の幹部の逮捕や、ドイツ国内のSSの無力化には成功し、主要都市の制圧も完了してかところで、誠司に今回の顛末を報告した。
「総統!すぐに飛行艇にお乗りください!」
飛行艇の前で待っていたグロースドイッチュラント師団の隊員の誘導でアイザックと優香、ヘルムート、ヘルムート小隊の隊員2名、RSDの隊員1名が飛行艇に乗り込んだ。
余った席にはグロースドイッチュラント師団の隊員らが乗り込み、飛行艇はシュプレー川から飛び立った。続いてもう1機の飛行艇も無事に離水し、多くの犠牲を払いながらベルリンからの脱出に成功した。
「カーティス大佐、この飛行艇はどこに向かっているんだ?」
アイザックは一緒に乗り込んできた中で1番階級の高い、カーティス大佐に聞いた。グロースドイッチュラント師団の隊員にはアイザックは何度もあったことがあり、アイザックはカーティス大佐の顔も名前も覚えていた。
「ベルヒテスガーデンです。あそこには親衛隊しかおりませんし、住民もナチス党員しかおりません」
「なるほど、じゃあ進路をパリに変更させて」
「パリですか?パリは未だ連合軍に包囲されており、かなり危険かと思われます」
想定外の指示にカーティスは思わず反論してしまった。
「カーティス大佐の言いたいことは分かるけど、パリは西側連合軍に包囲されているからこそ、クーデター軍は手を出しにくいんだよね。それに、レッシェンが2基も設置してあって未だ200万人を超えるパリ市民を人質に取っていて食料の供給は止めれないから、持久戦にも耐えられる。それに、パリには陸軍を配置する代わりに武装SSしかいない。今の僕達にとってはパリより安全な場所は無いと思うよ」
飛行艇はアイザックの提案により進路をパリに変更した。このままフランス領空に入ると、西側連合軍に迎撃される可能性が高いので、ベルリンからパリの間にあるすべての空軍機基地に、パリまでの護衛を派遣するように要請し、それらの基地にあった全ての戦闘機と爆撃機がアイザック達の飛行艇の編隊に加わった。
「総統。もう少しで西側連合軍の支配空域にはいります。ヘルメット、防弾ベスト、シートベルトを着用してください。当機に総統をお乗せすることができて光栄です」
機長からの機内アナウンスがあり、機内は緊張で張りつめていた。
「思ったより空軍は集まってくれたね」
ベルリンからパリに向かう途中で合流した空軍の航空機は400機を超え、アイザックは窓から大編隊になった護衛機を見ながら呟いた。
「元々陸軍と空軍はあまり仲が良くないから、ナチス党員と様子見が半々といったところだと思うわ」
優香の予想は概ね当たっており、実際にはナチス党員は2割、残り8割は様子見である。積極的に陸軍のクーデターに手を貸す司令官はいなかった。
「伝統を重んじる陸軍に比べて空軍は実力主義だからね。僕が直接司令官に任命した人もたくさんいて、その司令官達が今回命を懸けて集まってくれんだね」
「パリに着いたら、みんなにお礼をしたら良いんじゃないかしら」
「うん、パリにあるナチス党のワイナリーを皆に解放して、好きな銘柄のワインを飲みたいだけ振る舞うことにするよ」
「いいわね。きっと皆喜ぶわよ」
そう言って優香はアイザックの肩にもたれかかり、アイザックが優香の髪を優しく撫でていると、また機長からの機内アナウンスが流れた。
「パリまで100kmを切りましたが、米軍のP-63 キングコブラが上がって来ました。見えるだけで100機以上おります。当機はこのまま全速力で突き進みますので、衝撃に備えてください」
前方を飛んでいたドイツ軍の護衛戦闘機が、まだ高度を上げている途中のキングコブラ戦闘機の編隊に襲い掛かった。元々性能ではドイツの戦闘機が米軍機を圧倒しており、今回は数でも勝っているため、みるみる米軍のキングコブラを落としていき、数分ですべてのキングコブラを撃墜した。一方、迎撃に向かったドイツ軍機の被害は1割を切っていた。
アイザック達が乗る飛行艇に近づけることなく、米軍機を退けたため、アイザック達は少し安心していたが、今度は先ほどの3倍近い数のP-51 マスタングが上がってきた。
約300機の戦闘機はさすがに数が多すぎた。精鋭揃いのドイツ空軍でも、飛行艇から離れた前方の位置で処理をしきれなくなり、乱戦になってしまった。
アイザック達の飛行艇もマスタングの機銃から発射された弾が数発被弾した。弾は飛行艇の胴体部分を貫通し乗員に怪我人が出たが、運よく死者は出ず、アイザックと優香、ヘルムートは無事だった。
アイザック達の編隊はボロボロになりながらもどうにかマスタング約300機を退けることに成功した。しかし、約半数がこの2回の米軍の襲撃により犠牲となった。
パリに近づくと新手の戦闘機により迎撃はなかったが、連合軍の対空砲火の弾幕が濃くなり、さらにそこで数を減らし、弾幕を潜り抜けてドイツ軍がパリ占領後に建設したパリ飛行場に着陸できたのは、全体の4分の1の約100機だった。損耗率が75%を超えるという状況で、アイザック達の飛行艇がここまで辿り着けたのは、護衛の戦闘機がアイザックの身代わりに敵機からの攻撃を引き受けていたからだった。
マンシュタイン元帥率いるドイツ陸軍によるクーデター計画はアイザックを逃すという大失態を犯したものの、ナチス党の幹部の逮捕や、ドイツ国内のSSの無力化には成功し、主要都市の制圧も完了してかところで、誠司に今回の顛末を報告した。
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