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61.敵は総統官邸にあり
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1943年12月5日23:00ドイツ第三帝国 ベルリン 総統官邸
「総統大変です!敵襲です!陸軍が裏切りました!」
アイザックとクラーラの寝室に元ヒトラーユーゲントの少年兵ヘルムートが飛び込んできた。アイザック達の寝室がある3階北側のフロアはヘルムート小隊が専属で警備を担当しており、今日の当直はたまたまヘルムートだった。
「クラーラ!すぐ着替えて!」
「わかったわ」
クラーラはアイザックの声で飛び起きて、すぐにクローゼットに走っていった。アイザックもトランクス1枚で寝ていたので、ベッドの横に置いてあった総統服に着替えながらヘルムートに状況を聞いた。
「どうなってるの!?」
「官邸が陸軍によって完全に包囲されており、官邸警備の武装親衛隊が交戦中です!それ以外の状況は分かりませんが、ハイドリヒSS大将が防衛の指揮をしております!」
「わかった、それじゃあハイドリヒと合流するよ」
軍服に着替えたアイザックとクラーラはStG44突撃銃を装備して寝室を出た。3人が寝室を出た瞬間、陸軍の戦車砲が寝室の窓を直撃し、爆風で寝室の扉が吹き飛んだ。あと3秒部屋から出るのが遅かったら3人とも無事では済まなかっただろう。
「危なっ!僕らを生かして捕まえるつもりはないようだね。クラーラ、ヘルムート大丈夫?」
「耳があまり聞こえないけど大丈夫よ」
「僕は平気です!1階でハイドリヒSS大将が指揮を執っております。急ぎましょう!」
アイザック達は総統の居住スペースを警備していたRSD(総統警護専門の組織)に囲まれながら、ヘルムートと同室の姉を連れて1Fに駆け下りた。
1階では武装SS隊員達が窓の外へ発砲し、反乱軍に応戦していた。アイザック達は窓から死角になっている廊下の端にハイドリヒSS大将を見つけ、頭を低くして飛んでくる銃弾の下をくぐりながら、廊下まで辿り着いた。
「総統!ご無事でしたか!」
ハイドリヒが叫んだ。絶え間なく続く銃声と爆発音で、叫ばないと声が届かない。
「ハイドリヒ!状況は!?」
「フェードア・フォン・ボック元帥の第三装甲集団、第9軍がベルリン市街地に展開し、ベルリン市内の重要拠点を占拠しております。第1SS装甲師団が応戦しておりますが、兵数で圧倒されており状況は深刻です」
「第5から第5SS装甲師団は?」
「ベルリン市街の包囲している陸軍の第3軍、第2装甲集団と交戦しているとの報告です。中央軍集団はほぼ敵に回ったと考えるしかないようです。ベルリン以外の状況はまだ判明しておりません。ひとまず総統は地下壕に避難してください!!」
「総統!地下壕には脱出通路がありません!援軍の見込みが無い以上は地下壕に避難するよりも、ここを脱出しましょう!」
ヘルムートがハイドリヒの意見を否定して、アイザックに進言した。
「黙れ!ガキに何が分かる!ここは包囲されて既に逃げ道なんてない!」
ハイドリがヘルムートを非難する。
「アイザック、私も地下壕に避難するより脱出した方が良いと思うわ」
クラーラもヘルムートの意見に賛同したが、ハイドリヒはクラーラには何も言い返さなかった。
「そうだね、地下壕もシュトゥットガルトみたいに頑丈に作ってないし、籠城しても突破されるのは時間の問題だと思う。全員でベルリンを脱出しよう!」
そう言った直後、総統官邸の北側から陸軍の兵士が雪崩れ込んできた。
「くそっ!もう北側を突破されたのか!」
アイザック達が持っていたStG44突撃銃を侵入してきた陸軍兵士に向けた瞬間、陸軍兵士達は両手で武器を頭の上に上げて、敵意がないことを示すと、先頭にいた隊長が叫んだ。
「総統!味方です!我々は陸軍衛兵連隊です!シュプレー川までの退路を確保しております!飛行艇を用意してありますので、脱出してください!」
「総統!そいつらは陸軍です!後ろに隠れてください!」
RSDの警護員の内二人がアイザックの前に出てきて、ルガーを衛兵連隊に向けた。隊員は銃を向けられても構わずに弁明を続ける。
「反乱を起こしたのは陸軍ですが、我々衛兵連隊は総統の味方です!その証拠に北側の包囲を突破してここまで総統を迎えに来ました!」
衛兵連隊は普段は戦闘には参加せず、総統官邸の門の警備や儀仗兵として式典等に参加するエリート部隊であり、戦闘力は低いのだが総統への忠誠心は陸軍内でもトップクラスの部隊だった。
「銃を下ろして、彼らは大丈夫だよ」
アイザックが命令するとRSDは銃を下ろしたが、アイザックの前からは離れなかった。
「現在、グロースドイッチュラント師団がシュプレー川の飛行艇を死守しておりますので、急いで付いてきてください!」
グロースドイッチュラント師団は陸軍の中では総統護衛隊と呼ばれ、アイザックの護衛を担当し、最新の装備を優先的に与えられた最精鋭部隊である。彼らとRSDは全隊員に能力を使い、アイザックに従わせている部隊であり、裏切ることは絶対になかった。国防軍の幹部には命令に背くものは一人もいなかったので、ドイツ陸軍の幹部には能力を使う必要はないと判断していたが、その結果が現在の状況を招いてしまった。
「ありがとう!行こう!ハイドリヒも行くよ!」
「総統、ありがとうございます!しかし、私たちはここで総統が逃げる時間を稼ぎます!必ず生き延びてください!」
「ごめんね。もし、生きてまた会えたら、また一緒に鹿狩りに行こうよ」
「はい!あの時は本当に楽しかったです。是非また行きましょう!」
別れ際、アイザックは再会を願い、ハイドリヒを強く抱きしめた。総統官邸を北門から出ると、ハンナア=アーレント通りの両側を第1SS装甲師団が装甲車で道を塞いでおり、クーデター軍と戦闘をしていた。
そのままハンナア=アーレント通りを横切って、コラ=ベルリナー通りに入ると、第1SS装甲師団の隊員たちが待機しており、シュプレー川まで先導してくれることになった。
アイザック一行は周囲を警戒しながら、コラ=ベルリナー通りを北に進み突き当りを右折、ヴィルヘルム通りを左折した。
ウンター・デン・リンデンの手前で先導していた部隊が止まった。ウンター・デン・リンデンを確保していた部隊の半数以上が戦闘不能になっており、反乱軍が迫ってきているとのことだった。
先導をしていた部隊と衛兵連隊は反乱軍への応戦に参加し、時間を稼いでいる間に、ウンター・デン・リンデンを一気に駆け抜けた。その際にヘルムート小隊の隊員が1名流れ弾に当たって足を負傷した。彼は自分が付いていくと皆に迷惑をかけるから、ここに残って衛兵連隊と一緒に戦うと言って、足を引きずりながら反乱軍に向かって発砲していたが、3発目撃ったところで、反乱軍の銃弾に倒れた。その姿を見て涙を流すものもいたが、総統を守るために気持ちを切り替えて先に進んだ。
アイザック達はなんとかヴィルヘルム通りまで到達したが、後方からは敵が迫っているためまだ油断できる状況にはなかった。
「優香、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。あなたより体力に自信があるもの。射撃だってあなたより上手よ」
「そうだったね。優香はこっちに来てから毎日射撃訓練してたもんね」
「そうよ。だから私がアイザックを守ってあげるわ」
「それは心強いな。でも、もう少しでグロースドイッチュラント師団と合流できるから、優香の腕前を見る機会は無さそうだね。あっ、シュプレー川が見えてきたよ」
その時、アイザック達の後ろから銃声が聞こえたのと同時に、最後尾を走っていたヘルムート小隊の隊員2名が銃弾に倒れた。
「カバー!」
アイザックが叫んだのと同時に、全員が通りの両側の建物の影に身を隠した。撃たれた二人はまだ生きているようで、地面を這いながら必死に敵の射線から体を隠そうとしているが、敵からその姿が丸見えなため、さらに腕や足を撃たれていた。あえて殺さずに仲間が助けに来たところで、その仲間を撃つつもりだろう。
「くそっ!あと少しなのに追いつかれたか!」
突然優香が動き、片膝をついた低い姿勢で発砲した。頭を打ち抜かれた敵兵は短い悲鳴をあげ、その場に崩れ落ちた。
「どう?」
「流石はハーケンクロイツのメンバーだね。僕ならこの距離でヘッドショットは無理だよ」
アイザックはそう言いながら、ヘルムート小隊の隊員が肩に担いでいたパンツァーファウスト(携帯式対戦車擲弾発射器)をいつの間にか構えている。
真後ろにいた隊員が慌てて移動した後、弾頭が弧を描きバスに命中した。バスは爆発し、後ろに隠れていた敵兵を沈黙させた。
「僕はエイムが遅いからいつも、こういうの使ってたんだよね」
「エイム遅いのによくFPSやってたわね。この世界だとリスポーンできないから絶対弾に当たったらダメよ」
「わかってるよ。優香も当たらないようにね!」
しばらくは迫りくる敵に応戦していたが、残弾がゼロになった。
「くそっ!弾切だ。残弾報告して!」
全員の残弾を確認するが、全員が撃ち尽くしてしまったようで、アイザックも残っているのは黄金のルガーP08に入っている8発のみだった。
銃撃が止まってタイミングで敵が一気に距離を詰めようと迫ってきた。あと10mまで迫られたところで、ヘルムート小隊の一人が両手でM24手りゅう弾を4本抱えて、敵兵に向かって走っていった。
「総統!今のうちに逃げてください!!」
彼が最後の一言を言い終わった瞬間、敵の目の前でバラ撒いたM24手りゅう弾が爆発した。
彼が最後にくれた時間を無駄にしないために、優香の手を引いてシュプレー川に向かって全力で走った。最後に残ったRSDの隊員3名と、ヘルムートを含めて残った5人のヘルムート小隊の隊員もアイザック達に続いて、後ろを走り始めた。
数十秒後、手榴弾の爆発から逃れた敵兵達は、まだ土埃で周りが見えない中で闇雲に銃弾を撃ち込んできた。
ライヒシュタグーファー通りの角の建物の影に入るまで、あと3mということろで、アイザックの後ろを走っていたRSDの2名が倒れ、アイザックは右足のふくらはぎに強い衝撃を受けた。
「総統!!」
膝をついたアイザックにヘルムートが駆け寄って肩を貸し、なんとか建物の角に身を隠す。
「ヘルムート。ここまでありがとう。君はまだ死んじゃダメだ。君だけでも逃げて」
「いえ、総統の傍から死んでも離れるつもりはありません」
「ヘルムート…」
次の瞬間、マルシャル橋の上で待機していたグロースドイッチュラント師団のエレファント重駆逐戦車が、砲撃を放った。アイザック達は呆然としていたが、エレファントの巨体は敵を見据えたまま前進し、無慈悲に駆逐していった。
戦車の後ろに待機していた隊員達がアイザックの元に駆け寄り、アイザックを担いで階段から川に降りていった。
「総統大変です!敵襲です!陸軍が裏切りました!」
アイザックとクラーラの寝室に元ヒトラーユーゲントの少年兵ヘルムートが飛び込んできた。アイザック達の寝室がある3階北側のフロアはヘルムート小隊が専属で警備を担当しており、今日の当直はたまたまヘルムートだった。
「クラーラ!すぐ着替えて!」
「わかったわ」
クラーラはアイザックの声で飛び起きて、すぐにクローゼットに走っていった。アイザックもトランクス1枚で寝ていたので、ベッドの横に置いてあった総統服に着替えながらヘルムートに状況を聞いた。
「どうなってるの!?」
「官邸が陸軍によって完全に包囲されており、官邸警備の武装親衛隊が交戦中です!それ以外の状況は分かりませんが、ハイドリヒSS大将が防衛の指揮をしております!」
「わかった、それじゃあハイドリヒと合流するよ」
軍服に着替えたアイザックとクラーラはStG44突撃銃を装備して寝室を出た。3人が寝室を出た瞬間、陸軍の戦車砲が寝室の窓を直撃し、爆風で寝室の扉が吹き飛んだ。あと3秒部屋から出るのが遅かったら3人とも無事では済まなかっただろう。
「危なっ!僕らを生かして捕まえるつもりはないようだね。クラーラ、ヘルムート大丈夫?」
「耳があまり聞こえないけど大丈夫よ」
「僕は平気です!1階でハイドリヒSS大将が指揮を執っております。急ぎましょう!」
アイザック達は総統の居住スペースを警備していたRSD(総統警護専門の組織)に囲まれながら、ヘルムートと同室の姉を連れて1Fに駆け下りた。
1階では武装SS隊員達が窓の外へ発砲し、反乱軍に応戦していた。アイザック達は窓から死角になっている廊下の端にハイドリヒSS大将を見つけ、頭を低くして飛んでくる銃弾の下をくぐりながら、廊下まで辿り着いた。
「総統!ご無事でしたか!」
ハイドリヒが叫んだ。絶え間なく続く銃声と爆発音で、叫ばないと声が届かない。
「ハイドリヒ!状況は!?」
「フェードア・フォン・ボック元帥の第三装甲集団、第9軍がベルリン市街地に展開し、ベルリン市内の重要拠点を占拠しております。第1SS装甲師団が応戦しておりますが、兵数で圧倒されており状況は深刻です」
「第5から第5SS装甲師団は?」
「ベルリン市街の包囲している陸軍の第3軍、第2装甲集団と交戦しているとの報告です。中央軍集団はほぼ敵に回ったと考えるしかないようです。ベルリン以外の状況はまだ判明しておりません。ひとまず総統は地下壕に避難してください!!」
「総統!地下壕には脱出通路がありません!援軍の見込みが無い以上は地下壕に避難するよりも、ここを脱出しましょう!」
ヘルムートがハイドリヒの意見を否定して、アイザックに進言した。
「黙れ!ガキに何が分かる!ここは包囲されて既に逃げ道なんてない!」
ハイドリがヘルムートを非難する。
「アイザック、私も地下壕に避難するより脱出した方が良いと思うわ」
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「そうだね、地下壕もシュトゥットガルトみたいに頑丈に作ってないし、籠城しても突破されるのは時間の問題だと思う。全員でベルリンを脱出しよう!」
そう言った直後、総統官邸の北側から陸軍の兵士が雪崩れ込んできた。
「くそっ!もう北側を突破されたのか!」
アイザック達が持っていたStG44突撃銃を侵入してきた陸軍兵士に向けた瞬間、陸軍兵士達は両手で武器を頭の上に上げて、敵意がないことを示すと、先頭にいた隊長が叫んだ。
「総統!味方です!我々は陸軍衛兵連隊です!シュプレー川までの退路を確保しております!飛行艇を用意してありますので、脱出してください!」
「総統!そいつらは陸軍です!後ろに隠れてください!」
RSDの警護員の内二人がアイザックの前に出てきて、ルガーを衛兵連隊に向けた。隊員は銃を向けられても構わずに弁明を続ける。
「反乱を起こしたのは陸軍ですが、我々衛兵連隊は総統の味方です!その証拠に北側の包囲を突破してここまで総統を迎えに来ました!」
衛兵連隊は普段は戦闘には参加せず、総統官邸の門の警備や儀仗兵として式典等に参加するエリート部隊であり、戦闘力は低いのだが総統への忠誠心は陸軍内でもトップクラスの部隊だった。
「銃を下ろして、彼らは大丈夫だよ」
アイザックが命令するとRSDは銃を下ろしたが、アイザックの前からは離れなかった。
「現在、グロースドイッチュラント師団がシュプレー川の飛行艇を死守しておりますので、急いで付いてきてください!」
グロースドイッチュラント師団は陸軍の中では総統護衛隊と呼ばれ、アイザックの護衛を担当し、最新の装備を優先的に与えられた最精鋭部隊である。彼らとRSDは全隊員に能力を使い、アイザックに従わせている部隊であり、裏切ることは絶対になかった。国防軍の幹部には命令に背くものは一人もいなかったので、ドイツ陸軍の幹部には能力を使う必要はないと判断していたが、その結果が現在の状況を招いてしまった。
「ありがとう!行こう!ハイドリヒも行くよ!」
「総統、ありがとうございます!しかし、私たちはここで総統が逃げる時間を稼ぎます!必ず生き延びてください!」
「ごめんね。もし、生きてまた会えたら、また一緒に鹿狩りに行こうよ」
「はい!あの時は本当に楽しかったです。是非また行きましょう!」
別れ際、アイザックは再会を願い、ハイドリヒを強く抱きしめた。総統官邸を北門から出ると、ハンナア=アーレント通りの両側を第1SS装甲師団が装甲車で道を塞いでおり、クーデター軍と戦闘をしていた。
そのままハンナア=アーレント通りを横切って、コラ=ベルリナー通りに入ると、第1SS装甲師団の隊員たちが待機しており、シュプレー川まで先導してくれることになった。
アイザック一行は周囲を警戒しながら、コラ=ベルリナー通りを北に進み突き当りを右折、ヴィルヘルム通りを左折した。
ウンター・デン・リンデンの手前で先導していた部隊が止まった。ウンター・デン・リンデンを確保していた部隊の半数以上が戦闘不能になっており、反乱軍が迫ってきているとのことだった。
先導をしていた部隊と衛兵連隊は反乱軍への応戦に参加し、時間を稼いでいる間に、ウンター・デン・リンデンを一気に駆け抜けた。その際にヘルムート小隊の隊員が1名流れ弾に当たって足を負傷した。彼は自分が付いていくと皆に迷惑をかけるから、ここに残って衛兵連隊と一緒に戦うと言って、足を引きずりながら反乱軍に向かって発砲していたが、3発目撃ったところで、反乱軍の銃弾に倒れた。その姿を見て涙を流すものもいたが、総統を守るために気持ちを切り替えて先に進んだ。
アイザック達はなんとかヴィルヘルム通りまで到達したが、後方からは敵が迫っているためまだ油断できる状況にはなかった。
「優香、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。あなたより体力に自信があるもの。射撃だってあなたより上手よ」
「そうだったね。優香はこっちに来てから毎日射撃訓練してたもんね」
「そうよ。だから私がアイザックを守ってあげるわ」
「それは心強いな。でも、もう少しでグロースドイッチュラント師団と合流できるから、優香の腕前を見る機会は無さそうだね。あっ、シュプレー川が見えてきたよ」
その時、アイザック達の後ろから銃声が聞こえたのと同時に、最後尾を走っていたヘルムート小隊の隊員2名が銃弾に倒れた。
「カバー!」
アイザックが叫んだのと同時に、全員が通りの両側の建物の影に身を隠した。撃たれた二人はまだ生きているようで、地面を這いながら必死に敵の射線から体を隠そうとしているが、敵からその姿が丸見えなため、さらに腕や足を撃たれていた。あえて殺さずに仲間が助けに来たところで、その仲間を撃つつもりだろう。
「くそっ!あと少しなのに追いつかれたか!」
突然優香が動き、片膝をついた低い姿勢で発砲した。頭を打ち抜かれた敵兵は短い悲鳴をあげ、その場に崩れ落ちた。
「どう?」
「流石はハーケンクロイツのメンバーだね。僕ならこの距離でヘッドショットは無理だよ」
アイザックはそう言いながら、ヘルムート小隊の隊員が肩に担いでいたパンツァーファウスト(携帯式対戦車擲弾発射器)をいつの間にか構えている。
真後ろにいた隊員が慌てて移動した後、弾頭が弧を描きバスに命中した。バスは爆発し、後ろに隠れていた敵兵を沈黙させた。
「僕はエイムが遅いからいつも、こういうの使ってたんだよね」
「エイム遅いのによくFPSやってたわね。この世界だとリスポーンできないから絶対弾に当たったらダメよ」
「わかってるよ。優香も当たらないようにね!」
しばらくは迫りくる敵に応戦していたが、残弾がゼロになった。
「くそっ!弾切だ。残弾報告して!」
全員の残弾を確認するが、全員が撃ち尽くしてしまったようで、アイザックも残っているのは黄金のルガーP08に入っている8発のみだった。
銃撃が止まってタイミングで敵が一気に距離を詰めようと迫ってきた。あと10mまで迫られたところで、ヘルムート小隊の一人が両手でM24手りゅう弾を4本抱えて、敵兵に向かって走っていった。
「総統!今のうちに逃げてください!!」
彼が最後の一言を言い終わった瞬間、敵の目の前でバラ撒いたM24手りゅう弾が爆発した。
彼が最後にくれた時間を無駄にしないために、優香の手を引いてシュプレー川に向かって全力で走った。最後に残ったRSDの隊員3名と、ヘルムートを含めて残った5人のヘルムート小隊の隊員もアイザック達に続いて、後ろを走り始めた。
数十秒後、手榴弾の爆発から逃れた敵兵達は、まだ土埃で周りが見えない中で闇雲に銃弾を撃ち込んできた。
ライヒシュタグーファー通りの角の建物の影に入るまで、あと3mということろで、アイザックの後ろを走っていたRSDの2名が倒れ、アイザックは右足のふくらはぎに強い衝撃を受けた。
「総統!!」
膝をついたアイザックにヘルムートが駆け寄って肩を貸し、なんとか建物の角に身を隠す。
「ヘルムート。ここまでありがとう。君はまだ死んじゃダメだ。君だけでも逃げて」
「いえ、総統の傍から死んでも離れるつもりはありません」
「ヘルムート…」
次の瞬間、マルシャル橋の上で待機していたグロースドイッチュラント師団のエレファント重駆逐戦車が、砲撃を放った。アイザック達は呆然としていたが、エレファントの巨体は敵を見据えたまま前進し、無慈悲に駆逐していった。
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