ザ・パラレル・ワールド・ウォー(FPSプレイヤーが1939年にタイムスリップ)

munetaka

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57.日中ソ連合軍首脳会談

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1943年11月15日 ポーランド王国 王都ワルシャワ 日中ソ連合軍総司令部

総司令部の会議室では俺と椿、遥、藤井先輩の4人で話し合いをしている。
藤井先輩は中国では毛沢東の軍事顧問ということになっているが、毛沢東から今回の会議について全権委任をされているため、実質日中ソのトップ会談となっている。

「だからぁ、何度も言ってますけどぉ、私の目的わぁ、アイザックとクラーラだけなんですぅ。講和なんか絶対に受け入れられないですぅ」

遥はいつもの笑顔で講和条件の話し合いの拒否を訴えてくる。ただし、目は一切笑っていない。それに対して椿が反論する。

「あなたは私的な理由でこれまでに何十万人のソ連兵とドイツ兵を死なせてきたんですか?さすがに呆れますね。モスクワ市民だって殺されたって言いたいのでしょうが、同じ数だけドイツ人を殺さないと気が済みませんか?もしそうなら、完全にサイコ野郎ですね」

「大事な人が殺された経験がない椿ちゃんには一生分からないでしょうねぇ。もし、日本と中国がドイツと講和すると言うのならぁ、ソ連はこれまで通り単独でドイツと戦うだけですぅ。皆さんも自由にやればいいじゃないですかぁ」

「遥ちゃん、とりあえず落ち着こう。橘さんもあんまり遥ちゃんを煽るなよ」
    
藤井先輩がヒートアップしていく遥と椿を宥めに入ったから、俺も藤井先輩の援護に回った。

「そうだよ、今日はワルシャワで一番有名なお菓子屋さんのクッキーとマカロンも用意してあるから、甘いものでも食べて一回落ち着こうよ。ねっ?」

俺はそう言って事前に用意してあったお菓子をテーブルの上に広げた。が、椿以外の二人は手を付けなかった。椿は左手にクッキー、右手にマカロンを持って幸せそうな顔で交互に食べている。

「遥ちゃん、同盟があるから、ソ連だけ受け入れないっていうのは無理だ。ここは俺たちの顔も立ててなんとか飲み込んでくれよ」

藤井先輩が和やかに遥の説得を試みるようだが、相変わらず遥かの目は笑っていない。

「それならぁ、私は同盟を抜けますねぇ。皆さんには迷惑はかけませんからぁ。それなら良いですよね?それじゃあ、私はこれで失礼いたしますぅ」

遥は人の話を全然聞こうとしないし、本当に自分のことしか考えてないな。俺がそう思ってイライラしてきたところで、藤井先輩が先にキレた。かなり早い段階だと思うが、やはり藤井先輩のキレやすい性格は健在のようだ。

「ガキのワガママかよ!おまえのワガママでどれだけの人が死ぬと思ってるんだ!少し考えれば分かることだろ!」

藤井先輩は立ち上がってテーブルを平手で思い切り叩いた。あれは多分あとから掌が真っ赤になるな。そろそろ止めないと俺の執務室をめちゃくちゃにされそうだ。

「藤井先輩、落ち着いてください!」

「誠司からも言ってやれよ!」

「わかりましたよ。だからとりあえず座りましょう。心配して外から衛兵が入って来ちゃいますよ」

俺が藤井先輩を宥めると、渋々ではあるが藤井先輩はイスに腰を落とした。

「それで、遥ちゃん。もうオーストリアまで解放したんだから、日中ソ連合軍としての面子は保てるんだし、ドイツもこれ以上の進軍はしないって言ってるんだから、無駄に死人を増やすのは間違っていると思う。これから遙さんがやろうとしていることはクラーラと同じなんじゃないかな?」

「あの女と一緒にしないで欲しいですぅ。いくら誠司さんでもぉ、これ以上は許しませんよぉ?」

「許さなかったらどうするの?クラーラがモスクワにしたみたいに、遥ちゃんが東京に爆弾落とすの?」
    
遥は立ち上がって俺の頬にフルスイングのビンタをした。突然の痛みに、手に持っていたマカロンを床に落としてしまった。
落としたマカロンを拾おうと思って立ち上がった見た瞬間、これまで幸せそうにクッキーとマカロンを食べていた椿が、凄い勢いで立ち上がり遥の顔面に拳を叩き込んだ。平手ではなく拳だ。
顔面に拳を喰らった遥は床に倒れたが、椿の追撃は止まらない。椿は遥の上に馬乗りになって、マウントポジションから顔面に何度も拳を叩き込んだ。俺と藤井先輩は突然のことに一瞬固まってしまってすぐに動けない間にも椿は手で頭を守ろうとしている遥の顔や頭に拳を叩きつけ続けていた。
正気に戻った俺は、慌てて椿を後から羽交い締めにして、なんとか遥から引き離すことに成功した。藤井先輩は遥の方を見に行ったが、遥は号泣しながら顔を抑えており、藤井先輩が呼びかけても大声で泣くばかりで全く返事をしない。床を見ると血のついた歯が二本転がっていた。

「うわっ!これどうすんの?」

泣きじゃくる遥の顔を覗き込んで藤井先輩が驚きの声を上げる。

「椿、流石にやり過ぎだろ」

「申し訳ございません。この女が閣下に手を上げた瞬間に頭が真っ白になって、気付いたときには閣下に羽交い絞めにされておりました」

こいつ冷静に見えて、めちゃくちゃ危ないやつだったよ。この歯どうすれば良いんだ?このまま押し込んだら戻らないかな?いや、戻るわけないよな…。しかも、よく見ると前歯だよなこれ。遥の方を見るとみるみる顔が腫れ上がっていく。この顔をソ連側に見られたら国際問題どころか戦争になるんじゃないだろうか。もうこうなったら開き直るしかない。俺は椿の耳元で小声で話しかけた。

「椿、俺はうちの陸軍のやつらに遥の部屋までのルートにソ連兵を近づけないように指示するから、お前は遥を脅して黙らせて、遥の私室まで連れて行け。そこで、心が折れるまで脅せ。で、講和会議への参加を了承させろ。もうこうなった以上はマインドコントロールしてでも、了承させるしかない。いいな?」

遥には申し訳ないし、本当はこんなことしたくないけど戦争になるよりはマシだ。それに、遥をこのままソ連陣営に戻すと、報復に椿が殺されてしまう。椿を守るためには仕方ない。
俺は木村三佐を呼んで今回のことを説明し、ソ連兵に怪しまれずに遥の私室までのルートを確保するように指示した。

椿は暴れる遥の口に猿ぐつわを装着して、手には手錠をかけ、引きずりながら遥の私室に運んだ。藤井先輩まで来ると話がさらに複雑になりそうなので、藤井先輩には人民解放軍の幹部にも今の状況を説明をして、協力を取り付けておくようお願いした。
そして、俺は別室にいた国家安全情報局の職員にも今の状況を説明して、10分後に女性職員2人に遥の部屋に来るように指示した。

なんとかソ連兵には見られずに遥を私室に運び、内側からカギをかけてから遥の猿ぐつわを外すと、いきなり大声で叫び始めたので、椿が遥の口をタオルで抑えて耳元で囁いた。

「騒ぐならこのまま窒息死させますけど、まだ騒ぎますか?」

腫れてほとんど開かない目を僅かに見開いて、大人しくなった遥が小さく首を横に振ると、椿は遥の口元に押し付けていたタオルを外した。

「どうしてこんな酷いことするの?」

遥が声を震わせて俺に話しかけてきた。いつもの猫撫で声で間延びした話し方ではない。

「あのまま遥ちゃんを帰してたら、日中とソ連の戦争になりかねないから、申し訳ないけどこうするしかなかったんだよ」

「誠司さんを叩いたのは私も悪かったから、椿ちゃんさえ引き渡してもらえれば大事にはしません。だから私を解放して!!お願いします!!」
    
椿が遙を睨みつけると、遥は椿から目を逸らして肩を震わせた。

「それはできないな。椿は楓の部下だから俺に椿を引き渡す決定権はないし、そもそも俺のために怒ってくれた人を売るような真似はできないからね」

「じゃあ、国際問題になってもいいの?」

「さっきも言ったけど、そうならないために不本意だけど、拘束させてもらったんだよ」

「私を殺せばその女の命だけじゃ解決できませんよ!」

「そうだね。でも、殺す以外にも方法はあるよ」

俺の話しが終わると、タイミングよく二人の国家安全情報局の女性局員がノックをせず静かにドアを開けて入室してきた。

「ソ連の書記長が錯乱されたようなので、こちらの指示に従うように説得してくれ」

「承知しました」

遥を国家安全保障局の局員に引き渡してから、俺は椿を連れて部屋の外に出た。

「任せて大丈夫でしょうか?」

ドアを閉めたところで椿が心配そうに聞いてきた。

「あぁ、あの二人はこういうのが専門だから大丈夫だ。俺らよりずっと上手く説得できると思う」

「では、執務室に戻ってマカロンを食べたいです」

こいつは自分のしたこと分かってるのか?まぁ、他にやることもないから良いか…。

「ああ、いいよ」

「ありがとうございます」
    
俺と椿が2時間ほど執務室でくつろいでいると、ドアがノックされた。

「閣下、説得が終わりました」

「よし、入っていいよ」

遥が二人に支えられながら執務室に入室してきた。服も乱れていないし、さっき見たときとあまり変わった様子はない。目からハイライトが消えていることを除けば。遥は応接セットのソファーに座らせられ、俺は立ったまま遥の様子を見ている。

「今どんな状態?」

「はい。閣下の言う事なら何でも従います」

何をしたらそういう状態になるんだ。恐ろしいから詳細は聞かないでおこう。それじゃあ、とりあえず何してもらおうかな。
「じゃあ、遥ちゃん。椿はとても良い人ですって言ってみてよ」

「椿はとても良い人です・・・」

遥は表情を変えずに俺が命令したとおりに言った。

「上出来だ!素晴らしい!これでなんとかなりそうだ!二人ともよくやってくれた!!」

「とんでもございません。自分達の仕事をしただけです」

「今日は俺が夕飯はご馳走するから、ワルシャワで1番高いレストランで好きなもの食べて良いよ。あとで連絡しておくから二人で行っておいで。もちろん俺個人からの奢りだから、安心して好きなもの頼んでいいからな」

「「ありがとうございます!」」

俺は改めて遥の対面のソファーに腰掛け、遥に話しかけた。
    
「遥さん、あなたの顔の怪我は街でドイツ人の暴漢に襲われたことにしてくれ。そして、司令部に戻って、ソ連軍は遥さんがペテルブルクに帰るまでの護衛として1個小隊だけ残して、全軍ソ連に引き揚げさせてください」

「はい・・・」
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