ザ・パラレル・ワールド・ウォー(FPSプレイヤーが1939年にタイムスリップ)

munetaka

文字の大きさ
上 下
44 / 85

44.ハイル・マイン・フューラー

しおりを挟む
1942年6月20日 ドイツ第三帝国 ベルヒテスガーデン ケールシュタインハウス

クラーラの思惑が外れて、アメリカはドイツとイタリアに対して徹底抗戦を宣言し、ソ連もナチスに対して殲滅戦を宣言した。
ソ連に関しては当初の情報部からの報告では、小川と遥は作戦当日は二人ともモスクワにいる予定のはずだった。しかし、遥の予定が急遽変更になり、遥だけが生き残ってた。その後、小川に代わって書記長に就任し、ドイツへの殲滅戦を宣言した。
クラーラの予定では、モスクワの壊滅と小川を始めとする軍や共産党の幹部がいなくなって混乱した隙に、電撃作戦でウラル山脈の西側まで短期間で占領する計画だった。
アメリカもソ連も思惑とは真逆の結果となり、クラーラはこの戦争での勝ち目がなくなったことを確信した。
クラーラは元の世界の歴史で、広島と長崎に原爆を落とされてからすぐに日本が無条件降伏をしたように、アメリカとソ連も原子爆弾の威力を目の当たりにすれば、ドイツからの降伏勧告に応じると考えていたのだ。
この戦争で負ければ必ずクラーラとアイザックは二人とも戦犯とされて処刑される。いくら核兵器があっても被害を恐れずに殲滅戦を挑んでくる敵にはほとんど意味を為さないのだ。

アイザックとクラーラは1週間前からケールシュタインハウスで二人きりで引きこもっていた。
これまでは戦争や政治の話ばっかりだったクラーラが、一切戦争の話をしなくなり、元の世界の学校の友達の話、家族の話、どこのお店のスイーツが美味しくて、どこのブランドの服が好みだったか、そんな話ばかりするよになった。アイザックは誠司達に連絡をして、この状況から助けて欲しいと思っていたが、モスクワへの原子爆弾の投下を最終的に指示したのは自分であり、小川を殺した自分を誠司達が助けてくれるはずがないと思い、誠司達に助けを求めるのは諦めた。

「ねぇ、アイザック。ちゃんと私の話を聞いてるの?」

「うん、ちゃんと聞いてるよ。あのさ、クラーラ、もう1週間も二人でここにいるけど、軍の人達もみんな困ってるんじゃないかな?そろそろベルリンに戻ろう?」

「嫌よ。それに私はクラーラじゃなく、優香よ。もうクラーラって呼ばないで。アイザックだってずっと二人きりでいたいって言ってたじゃない」

「そうだけど、今凄く大変はことになってるよ。みんな困ってるってハイドリヒが優香を訪ねて来てたし、ボルマンなんかケールシュタインハウスの前に机と電話を置いて仕事してるしさ」

優香はアイザックが仕事の話をすると、手で耳を塞いで聞こえないというポーズをする。

「優香!聞いて!」

アイザックは優香の手を掴んで耳から手を離させる。そのまま優香を抱きしめ、耳元で話始める。

「優香、このまま黙って僕の話を聞いて。優香がもう辞めたいってい言うなら、辞めてもいいから。でもね、このまま何もしなきゃ二人とも殺されちゃうんだよ。僕は優香に生きて欲しいんだ。こうなったのは、今まで何でも優香に任せっきりだった僕が悪いんだ。だから、優香は何も悪くないよ。これからは僕が優香を守る。世界を敵に回してもって、よくテレビで聞くセリフだけどさ、今の世界でそれを実現できるのは僕だけだね。だって、僕はヒトラーだもん。だから、優香を守るために僕は世界と戦うよ。今日から優香は副総統でもSSでもない、僕の恋人で普通の女の子の優香」

優香は力いっぱいアイザックを抱き締めて、声を上げて泣き始めた。

「ごめんね。ごめんねアイザック。ごめんね」

アイザックは優香の髪を撫でながら、優香が落ち着くのを待った。

「優香、僕はベルリンに戻るから、安全になるまで優香はここで待っていてくれる?」

「嫌よ!アイザックと離れるなんて無理!ベルクホーフでも指示は出せるでしょ?」

「ごめん。僕も優香とずっと一緒にいたいけど、優香が一緒にいると優香の安全を一番に考えちゃって、思い通りに戦えないと思うんだ。だから、優香は今一番安全なこの家で待っていて欲しいんだ。それに、ボイスチャットでいつだって話すことができるから寂しくないよ」

優香はしばらく黙っていたが、ゆっくりと頷いた。

「分かったわ。でも、落ち着いたら必ず戻ってくるのよ?いい?約束よ?」

アイザックは満面の笑みで優香の顔の前に右手の小指を出した。

「うん。約束するよ。指切りしよ」

アイザックは優香と指切りをして、優しくキスをしてから立ち上がった。

「じゃあ、良い子で待っててね。行ってきます」

そう言ってアイザックは約1週間振りにケールシュタインハウスの外に出た。入口の前で仕事をしていたマルティン・ルートヴィヒ・ボルマンに声をかけた。

「ボルマン、待たせたね。クラーラは副総裁を解任して、ただの僕の恋人になったから、今日からボルマンが副総裁ね。あと、ここの警備人数は今の3倍にして、対空陣地も今の3倍の規模にして」

「はい!ありがとうございます総統!」

「それと、今からベルリンに戻るから、前線にいる将軍以外の幹部は全員大至急ベルリンに集合させて」

「はい!」

 アイザックはそのまま空軍の輸送機でベルリンの総統官邸に戻り、すぐに閣僚と陸海空軍、親衛隊の将軍達を集めて戦略会議を始めた。

「みんな、1週間も不在にしてごめん。クラーラをすべての役職から解任して、今日からはボルマンが副総統、ラインハルト・ハイドリヒが親衛隊全国指導者に昇格。それと、今から今後のことを指示するから。カイテル元帥、ヨードル本部長は前線の将軍たちにも伝えてあげて。」

「「はい!」」

「まず、スペインとポルトガル、北アフリカ、東ヨーロッパから全軍引き揚げ、防衛ラインを西はフランス、スペイン国境、東はポーランド、チェコ、オーストリアの東側国境まで下げる。北はノルウェー、スウェーデンを放棄してデンマークまで下げて。それと、引き揚げの際は米軍の移動速度を落とすために、典型的な焦土作戦をする。港湾、空港、線路、橋はできるだけ破壊して。それと、食料は可能な限り接収して、民家を燃やして、畑は焼き払い、家畜は殺すように。その際は民間人はなるべく殺さないようにね。米軍は上陸後に餓えた住民に足止めされ、進軍速度が遅くなるはずだから」

「「はい!」」

「それから、イギリスについては現在の防衛ラインを維持したままで、後方部隊を本国に撤退させて、後方部隊の撤退が完了してから防衛ラインをロンドンまで前線を下げて、米英連合軍から包囲されないように、ロンドンになるべく多くの連合軍を引き付けつつ前線部隊もロンドンから撤退。海軍にはUボートで少しでも日本海軍を足止めしてもらう。日本海軍がイギリス海峡まで到達したら、制海権は完全に失うものと考えて、イギリスからの撤退は1か月以内に終わらせる。そして…、今すぐにロンドンにレッシェンを一基運んで、手動で起爆できるように大英図書館に設置。米英連合軍がロンドンを占領したところで、レッシェンを起爆する。レッシェン起爆には最後に1中隊のみを残して、起爆が完了するまでレッシェンを守らせて欲しい。この任務を担当する中隊は志願兵のみとし、配偶者がいる場合には配偶者が亡くなるまで陸軍中尉の給与と同額の年金を支給、子供がいる場合は子供が成人するまで政府が学費や生活費など一切の面倒を見る。独身の場合は両親に一時金で陸軍中尉の給与の10年分を支給。あとは、出身小学校か中学校のどちらかの校名を志願者の名前に変えて、ドイツ第三帝国が続く限り英雄としてその名を後世に伝えよう。そんなことで、残された家族が納得しないことは分かっているけど、ドイツ人8000万人を救うために犠牲になってもらう。もちろん、卑怯な作戦だということはもちろん理解している。だけど、プライドだけじゃ祖国は救えない。責任はすべて僕が取るから、皆はただ僕だけを信じて付いてきてほしい」

集まった幹部達は全員起立し会議室は大きな拍手で包まれた。ナチ党結成からの幹部には「総統がお戻りになられた!」と泣き出すものまでいた。

「みんな、ありがとう。この作戦が成功すれば、イギリスにいる米英軍の主力はほぼ壊滅、以降は同様の作戦をドイツが使うと思って、気軽に進軍できなくなるだろう。そこで、稼いだ時間を無駄にせずに、国境の防衛線の強化、レッシェンとHo233X、迎撃戦闘機をできる限り量産、アメリカとソ連が二度とドイツに歯向かえないように、奴らの文明を消すつもりでいく。ここが僕たちドイツ第三帝国の正念場だよ!ここにいるみんなは、世界からドイツを守るために死ぬつもりで戦ってほしい!」

会議場は興奮に包まれて、全員が頬を日照らせて「ハイル・マイン・フューラー!」と繰り返し叫ぶのだった。    
    
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

転生少女は大戦の空を飛ぶ

モラーヌソルニエ
ファンタジー
薄っぺらいニワカ戦闘機オタク(歴史的知識なし)が大戦の狭間に転生すると何が起きるでしょう。これは現代日本から第二次世界大戦前の北欧に転生した少女の空戦史である。カクヨムでも掲載しています。

武蔵要塞1945 ~ 戦艦武蔵あらため第34特別根拠地隊、沖縄の地で斯く戦えり

もろこし
歴史・時代
史実ではレイテ湾に向かう途上で沈んだ戦艦武蔵ですが、本作ではからくも生き残り、最終的に沖縄の海岸に座礁します。 海軍からは見捨てられた武蔵でしたが、戦力不足に悩む現地陸軍と手を握り沖縄防衛の中核となります。 無敵の要塞と化した武蔵は沖縄に来襲する連合軍を次々と撃破。その活躍は連合国の戦争計画を徐々に狂わせていきます。

転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春
SF
二〇二〇年の現代から、一九三六年の世界に転生した八人の若者たち。彼らはスマートフォンでつながっている。 第二次世界大戦直前の緊張感が高まった世界で、彼ら彼女らはどのように歴史を改変していくのか。

大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜

雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。 そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。 これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。 主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美 ※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。 ※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。 ※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

処理中です...