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歯車
ピース5
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「空翔くん、もう身体は大丈夫なの?」
「すごく心配してたんだよ、空翔くん」
空翔が教室に入るや否や、みな実と瞬が心配そうな様子で声をかけてきた。
「ご、ごめんね、心配かけて。突然のことで自分もびっくりしちゃってさ」
この2人はどこまでの事情を知っているのだろうという疑問も抱いた空翔だったけれど、自分が2人に心配をかけてしまったことに変わりはないと、まずはそのことを謝った。
「Ωって、フツーの女子よりも大変そう…」
みな実が突如、そんなことをぽろっと呟いた。
「うん、実際すごく大変なんだよ。僕も抑制剤が合わなくて、何度も体調を崩しながらやっと体に合う今の薬を処方してもらうことができたからね」
瞬がそう答えると、空翔に思いを寄せるようにつらそうな表情を見せた。
「つらいときは無理せず、身体を優先させてね。大地くんだけじゃなくて僕たちもできることを手伝うから」
「そうよそうよ!私たちのことを忘れられちゃ困るしね!」
「みな実さんは自己主張強すぎ」
まるでコントのようなみな実と瞬とのやり取りを見て、空翔はクスクスと笑った。
「ありがとう、2人のおかげで元気出てきた」
不安を抱えながら教室に入った空翔だったけれど、あたたかく迎え入れてくれた友達の存在に安堵し、またこれから一緒に過ごせるという喜びをかみしめていた。
……
「・・・」
「お~い、どうしたんだよ大地、ボーっとしてさあ」
「…別に…」
空翔たちを見ていた大地が、サッカー部の仲間に声をかけられ素っ気無く返事をした。
「なんだよ、ツレない奴だな~」
ふざけてそんなことを言ってみせたその友達に、大地はそれ以上の返事をしなかった。
大地は空翔が、自分がΩだということをひどく責めていたことが気にかかっていた。
「(Ωだろうと何だろうと関係ねえのに)」
でも…今朝みたいなことが起きて、もしまた空翔に何かあったら、と大地は不安に思っていた。
そして、不安と共に、以前まで対等だった自分と空翔との関係が「体の違い」だけで、いつしか守り守られる関係に変化していっているのも大地にとっては歯がゆかった。
「(あいつに何かあったら守ってやりたい。でも、俺がそう思って行動する度に空翔のプライドを傷つけることになるかもしんねえ)」
余計な考えが、空翔との関係のぎこちなさに拍車をかけてしまうということくらい分かっているのに。
それでも大地は、昔のままじゃいられない空翔との関係を悶々と考えてしまい、好きという気持ちを伝えたことさえ、身体の負担の大きな空翔にとっては軽はずみなものだったろうかと自分を責めざるを得なかった。
……
授業と部活動が始まって1週間が過ぎた。
大地は当然のようにサッカー部に入部したものの、空翔は結局やりたい部活が決まらないままだった。
それは瞬にとっても同じで、2人は部活に入らないまま一緒に帰るということが多くなった。
2人は駅前のモルに寄って、たくさん話をする機会が増えた。
空翔にとって瞬はよき友達でありながら、Ωとして色々なことを相談できる相手でもあった。
「空翔くんの最初のヒートは中二の時だったんだよね?」
「うん、授業中に突然来てさ。しかも薬をもらう前日って言うめちゃくちゃタイミング悪い時でさ」
「大変だったんだね。僕はちょっと遅くてさ、中三の秋に来たんだ。受験勉強で大変だったときに自分に合う薬がなかなか見つからなくて、受験はうまくいったんだけど学校は冬前から休みがちになっちゃって、さいごはあまり行けなかったんだ」
こういう話は、やっぱりみな実のいる前ではできないなと互いに思いながら、互いの体験談を打ち明けた。
「空翔くんって、大地くんとすごく仲良くて…距離も近いけれど、彼ってαなんだよね?」
瞬の言おうとしていることが、空翔はすぐにわかって表情が曇った。
「・・・いや、これ以上は訊かないよ。僕だって訊かれたら嫌だし…と言っても、僕はαの人と交流したことさえないから」
「え、でも中学にはαの生徒だっていたんでしょ?」
「そうなんだけど、僕の住んでる地区は他よりもα第一主義の考えが強くって、αと友達になんてとてもじゃないけれどなれなかったんだ」
「そうだったんだ、それって俺よりも大変だったと思う」
当たり前のように、これまで大地と仲良くして来れたということが本当はすごく特別なことだったんだと空翔は実感した。
「そうでもないよ。おかげでβとΩの友達はたくさんできたからさ」
αがαだけでグループを作る分、βとΩでそれぞれグループや友達の輪が広がっていったのだと言う。
「(社会的な組織を見ても、そっちの方が普通なんだよな…)」
空翔は少し俯き考えた。
これからの人生、αとΩは番になる人以外は見下し見下される関係になっていく。
もし、大地の好きという気持ちに応えることができなければ、俺と大地はどんどん離れて、関わることもなくなって…。
もしかしたら、見下されたりするのかな…。
いや、大地に限ってそんな他のαと同じようなことなんてしないはずだ。
空翔は瞬と別れて自宅に帰る間も、一人自問自答をくりかえし、悶々と考え込んでいた。
「すごく心配してたんだよ、空翔くん」
空翔が教室に入るや否や、みな実と瞬が心配そうな様子で声をかけてきた。
「ご、ごめんね、心配かけて。突然のことで自分もびっくりしちゃってさ」
この2人はどこまでの事情を知っているのだろうという疑問も抱いた空翔だったけれど、自分が2人に心配をかけてしまったことに変わりはないと、まずはそのことを謝った。
「Ωって、フツーの女子よりも大変そう…」
みな実が突如、そんなことをぽろっと呟いた。
「うん、実際すごく大変なんだよ。僕も抑制剤が合わなくて、何度も体調を崩しながらやっと体に合う今の薬を処方してもらうことができたからね」
瞬がそう答えると、空翔に思いを寄せるようにつらそうな表情を見せた。
「つらいときは無理せず、身体を優先させてね。大地くんだけじゃなくて僕たちもできることを手伝うから」
「そうよそうよ!私たちのことを忘れられちゃ困るしね!」
「みな実さんは自己主張強すぎ」
まるでコントのようなみな実と瞬とのやり取りを見て、空翔はクスクスと笑った。
「ありがとう、2人のおかげで元気出てきた」
不安を抱えながら教室に入った空翔だったけれど、あたたかく迎え入れてくれた友達の存在に安堵し、またこれから一緒に過ごせるという喜びをかみしめていた。
……
「・・・」
「お~い、どうしたんだよ大地、ボーっとしてさあ」
「…別に…」
空翔たちを見ていた大地が、サッカー部の仲間に声をかけられ素っ気無く返事をした。
「なんだよ、ツレない奴だな~」
ふざけてそんなことを言ってみせたその友達に、大地はそれ以上の返事をしなかった。
大地は空翔が、自分がΩだということをひどく責めていたことが気にかかっていた。
「(Ωだろうと何だろうと関係ねえのに)」
でも…今朝みたいなことが起きて、もしまた空翔に何かあったら、と大地は不安に思っていた。
そして、不安と共に、以前まで対等だった自分と空翔との関係が「体の違い」だけで、いつしか守り守られる関係に変化していっているのも大地にとっては歯がゆかった。
「(あいつに何かあったら守ってやりたい。でも、俺がそう思って行動する度に空翔のプライドを傷つけることになるかもしんねえ)」
余計な考えが、空翔との関係のぎこちなさに拍車をかけてしまうということくらい分かっているのに。
それでも大地は、昔のままじゃいられない空翔との関係を悶々と考えてしまい、好きという気持ちを伝えたことさえ、身体の負担の大きな空翔にとっては軽はずみなものだったろうかと自分を責めざるを得なかった。
……
授業と部活動が始まって1週間が過ぎた。
大地は当然のようにサッカー部に入部したものの、空翔は結局やりたい部活が決まらないままだった。
それは瞬にとっても同じで、2人は部活に入らないまま一緒に帰るということが多くなった。
2人は駅前のモルに寄って、たくさん話をする機会が増えた。
空翔にとって瞬はよき友達でありながら、Ωとして色々なことを相談できる相手でもあった。
「空翔くんの最初のヒートは中二の時だったんだよね?」
「うん、授業中に突然来てさ。しかも薬をもらう前日って言うめちゃくちゃタイミング悪い時でさ」
「大変だったんだね。僕はちょっと遅くてさ、中三の秋に来たんだ。受験勉強で大変だったときに自分に合う薬がなかなか見つからなくて、受験はうまくいったんだけど学校は冬前から休みがちになっちゃって、さいごはあまり行けなかったんだ」
こういう話は、やっぱりみな実のいる前ではできないなと互いに思いながら、互いの体験談を打ち明けた。
「空翔くんって、大地くんとすごく仲良くて…距離も近いけれど、彼ってαなんだよね?」
瞬の言おうとしていることが、空翔はすぐにわかって表情が曇った。
「・・・いや、これ以上は訊かないよ。僕だって訊かれたら嫌だし…と言っても、僕はαの人と交流したことさえないから」
「え、でも中学にはαの生徒だっていたんでしょ?」
「そうなんだけど、僕の住んでる地区は他よりもα第一主義の考えが強くって、αと友達になんてとてもじゃないけれどなれなかったんだ」
「そうだったんだ、それって俺よりも大変だったと思う」
当たり前のように、これまで大地と仲良くして来れたということが本当はすごく特別なことだったんだと空翔は実感した。
「そうでもないよ。おかげでβとΩの友達はたくさんできたからさ」
αがαだけでグループを作る分、βとΩでそれぞれグループや友達の輪が広がっていったのだと言う。
「(社会的な組織を見ても、そっちの方が普通なんだよな…)」
空翔は少し俯き考えた。
これからの人生、αとΩは番になる人以外は見下し見下される関係になっていく。
もし、大地の好きという気持ちに応えることができなければ、俺と大地はどんどん離れて、関わることもなくなって…。
もしかしたら、見下されたりするのかな…。
いや、大地に限ってそんな他のαと同じようなことなんてしないはずだ。
空翔は瞬と別れて自宅に帰る間も、一人自問自答をくりかえし、悶々と考え込んでいた。
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