地には天を。

ゆきたな

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心の再会

交じり合った道①

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―――――あれから―――――

空翔と大地は、結局会話を交わせなくなってしまい、気が付くとふたりとも受験生になっていた。
3年生になったときに、大地とクラスが分かれた時には空翔は安堵していた。
本当はそんなことに安心なんかせずに、普通に大地と話したいのに。
一方草介とは同じクラスのままで、2人ともクラス発表の時には喜びを爆発させた。

けれど…

「おい、邪魔だ。どうせΩなんてろくな高校に行けないだから大人しく教室の隅にいろよな」

「ちょっと、Ωは静かにしててよ、うるさいなあ」

思春期を経ていくことで、αのΩへの偏見や差別意識は段々と強くなっていき、空翔も例に漏れず少しでも粗相をしようものならαからの罵声を浴びせられた。
しかも、去年の担任の先生はβだったけれど、今年の担任はα。
差別意識の強いαが担任になると、生徒たちによる偏見や差別、誹謗中傷の場面を見ても止めに入らないどころかニヤニヤと見ている始末だった。

「気にすんなよ空翔。あいつら、調子に乗ってるんだ。好きなように言わせておけよ」

「う…うん、ありがとう、草介」

そうは言うものの、空翔の心は参ってしまっていた。
草介に庇われるということすら、申し訳なさと情けなさを感じていて、決して良い気持ちにはならなかった。
このようなことは何も空翔の学校だけでなく、全国の中学3年生に起こる現象で、それが引き金となってΩは受験に対して前向きになれず、たとえ成績がよかったとしても上位の高校を選ばなくなる。
たとえ選んだとしても、その高校にいるのはほとんどがαで、さらなるいじめが待っているだけだった。
担任が差別意識の強いαだと、その傾向は顕著になる。
わざと低いレベルの高校を勧め、Ωが活躍できる芽を摘もうとしてくるからだ。

だから、空翔が自分で選んで進んだ高校で、大地の姿を見つけた時には…

「えっ」

「えっ」

と互いに顔を見合わせて、驚いたのだった。

……

空翔が選んだ白峰高校の生徒数は半数がβ、4割がΩ、αは1割いるかいないかくらいの構成だった。
性別によるクラス分けはされておらず、男女、αβΩ、どれも一緒の教室で授業を受ける。
この高校では一般の科目だけではなく、様々な分野の専門学習ができることが人気で、ここで学習したことは、その後、進学しようと就職しようと活かせるということが強みだった。
空翔は運動は苦手だった。
けれど、αにも引けを取らないほどの高い学力は持っていたため、Ωや大抵のβでも難しいと言われているこの高校には問題なく合格できた。
ちなみに草介も同じ高校に入学したのだが、草介は一般科目の多い方の学科へ進学したために普段顔を見合わせるということは無くなった。
そんな中で、同じ教室の中で見かけた大地の姿。

「だ、大地?なんで…ここに…」

αであればさらにレベルの高い学校へ行ったり、αだけが通う学校に行ったりする。
それなのに、αである大地が白峰高校の、しかも自分と同じ教室にいるなんて信じられないと言った顔で、空翔は口をパクパクさせていた。

「ぷっ…」

魚のように口をパクパクさせながら驚いている空翔に、大地は思わず吹き出した。

「な、なんで笑うんだよ!」

「はは…くく、ごめんごめん、だってさぁ、久々に見かけたのに、そんな顔してるから」

…あ、気まずくなる前の大地だ、空翔はそう思った。
理由も分からないまま話せなくなってしまう前の大地を見ているようで時が戻ったような感覚に一瞬だけ陥った空翔。
けれど、その感覚は一瞬で消えた。
いつの間にか自分よりも10cmくらい背も伸びて声も低くなっている大地の姿を見ると、時は留まることなく着実に進んでいるのだと思わされた。

「いろいろ話したいことはあんだけどさ、ここで話すのも何だし、帰りに飯でも食いに行こうぜ?」

「…うん」

入学してすぐの時期は、ほとんどが昼までで終わるオリエンテーションのみだ。
だから、空翔は帰ってから家にあるものを適当に食べるつもりでいた。
大地と一緒の教室にいて一緒に帰るのはいつぶりぐらいだろうと空翔は考えた。
『病院に行けよ』と言われたあの日以来だから2年近くになるだろうか。
信じられないと言った思いが強い空翔だったけれど、帰り道は並んで帰り、部活はどうするかとか、新学期すぐに始まる体育祭の話とか、とりとめもないことを延々と話せることに、長い年月の空白を感じることは無かった。

「飯は駅前のモルでいい?」

「うん、OKだよ!」

返事はぎこちなくなってしまうが、明るく努めようとして、空翔は大地と駅前にあるバーガーショップのモルモルバーガーへやって来た。
適当に好きなものを頼んで人の少ない方の席を取って座った。
何から話していいのか、話したいことはたくさんあるはずなのに…さっきまで話せていた空翔でも、いざ目の前に大地が座っていて向き合うと言葉が口から出てこなかった。
笑って話せても、結局中学の時のことを引きずってしまっていて、自分の決意なんて大地の家の前でインターホンを鳴らせなかったときから何も変わっていないんだと、空翔は思い知った。
拳を膝に置いて、ギュッと口を引き結ぶ空翔を、大地は眉を落としてしばらく黙っていた。
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