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第二章 騎士団編

第30話 お披露目会とデビュタント②

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 アヤーネに変身して会場へ向かう。

 あ、リベルトだ!

 会場のドアの前に先輩騎士と警備をしているリベルトがいた。
 出るときは気づかなかったから今、交代したのかな?

「おう、アヤーネ。どうした? お前、アヤカ様に付いていなくて良いのか?」

「あ、うん。アヤカ様は今、お友達のリリアン様と休憩室にいるんだ。お二人のためにワインを取りに来たの。部屋の前にはアヤカ様の護衛の人もいるから」

「そうか、じゃあ、ほら行ってこい」
 とリベルトがドアを開けてくれた。

 そっとダンスフロアに目を向けると、ちょうどデビュタントのご令嬢達のダンスが始まっていた。

 アランフィード様、レイ様、オル様がそれぞれ純白のドレスの令嬢とダンスをしていた。

 オル様と手を取って踊っている女の子を見るとズキンと胸が痛くなった。
 同時にビビアナ様をエスコートして会場入りしたオル様のことも思い出し、さらに胸が締め付けられる。
 私はギュッと目をつぶってその映像を頭から追い出す。
 唯一の救いはオル様の表情が不機嫌そうだったことだ。
 はぁ~思わずそっとため息をつく。

 さあ、シモンヌ達を探さなきゃ。

「アヤーネじゃないか。アヤカとは一緒じゃないのかい?」

 マー君だ。

 ご令嬢達に囲まれながら私を見つけて声をかけたようだ。
 おかげで皆さんにすごい目つきで睨まれてますよ。

「ええっと、アヤカ様は今、リリアン様と休憩室にいます。私はお二人のためにワインを取りに来ました」

「そうか、アヤカは休憩室か」

 なんとなく嬉しそうなマー君に首を傾げながら、「それでは、これで」と言ってその場を離れる。

 あ、シャーリー発見。
 サーヤ様の警護に付いているシャーリーを見つけて小さく手を振る。
 シャーリーも気づいて頷いてくれた。

 後は、シモンヌとカミラだ。
 きっと二人は一緒にいるに違いない。
 何てったって、魔族のベロニカ様とビビアナ様の警護担当だもの。

 二人を捜しながらボーイさんからワイングラスが乗ったトレイをもらう。

 おう、いたいた。

 案の定、魔族のお二人は一緒にいて少し離れたところに、シモンヌとカミラが見守る形で警護にあたっていた。

 私は近づいてそっと声をかけた。

「シモンヌ、カミラ、お疲れ様」

「あら、アヤーネ。アヤカ様に付いていなくてよろしいの?」

「うん。休憩室にいるアヤカ様とリリアン様にワインを持って行くところ」

 シモンヌと私が会話をしていると、ビビアナ様がこちらに目を向けた。

「ちょっと、あなた。そのワイン、オリゲール様と踊っているあの子に転んだフリをしてかけてきなさいよ」

 は? ビビアナ様が言ったことに思考が追いつかずに固まってしまった。

 今、なんて言ったんだろう?

「聞いてるの?! あなたに言っているのよ! ボケッとしてないでサッサとやって来なさいよ! あの女、私のオリゲール様に色目を使って許せないわ!」

 私のオリゲール様?
 え? どういうこと?

 ビクトールのように整った美貌のビビアナ様が凄むと大変な迫力だ。

 あまりの怖さに後ずさると、ベロニカ様が私をかばうように前に立ちはだかった。

「ビビアナ様、どうしたの? あなたらしくないわ」

 ベロニカ様の言葉にハッと息を飲むビビアナ様。

「や、やだわ。私ったら何を言っているのかしら……」

 真っ青になって口を押さえているビビアナ様にカミラが駆け寄る。

「ビビアナ様、綺麗な空気を吸いに行きましょう」
 そう言って会場の吐き出し窓を開けてベンチの置いてあるテラスにビビアナ様を誘導した。

 呆然とそれを見送っていた私にベロニカ様が声をかける。

「驚かせてしまったわね。ちょっとビビアナ様は疲れているみたい。このことは内密にお願いね」

 頷くと同時にミリアさんからイヤーカフに連絡が入る。

『アヤカ様、マサキ様が休憩室に向かってます。今、ディランさんが何とか引き留めようとしてますが、早く休憩室へお急ぎください』

 げっ、な、なんでマー君が?

 急がないと!

 ベロニカ様とシモンヌにぺこりと頭を下げて、その場を後にする。

 持っていたワイングラスが乗っているトレイを近くにいたボーイさんに渡すと、私は化粧室に急いだ。

 だって今から走っても間に合わない、それならここから近い化粧室の個室から転移と変身同時発動だ。



 突然、アヤカ仕様で現れた私を見て、のんびりとお茶を飲んでいたリリアン様が吹き出した。

 こらこら、どんなに驚いてもそれは令嬢としてダメダメでしょ。

 ローテーブルの上にこぼれたお茶をリタさんが拭いている間に、シミになった純白のドレスを状態復元の魔法できれいにする。

「わあ、さすがです。アヤカ様! ありがとうございます」

 いえいえ。

 程なくするとドアの外がザワザワとしだした。
 その状況でリリアン様は私が慌ててこの部屋に現れた理由を察したようだ。

 そっと内側からドアを開けて顔を出すとナリスさんがあからさまにホッとした顔をした。

「あ、マー君。どうしたの?」

「アヤが休憩室にいると聞いたから来たんだ。お嬢様達の相手に疲れた。ちょっと休ませてくれ」


「ふふふ、マー君、モテモテだったものね。ちょうど、リリアン様とお茶を飲んでいるところなの。一緒にどうぞ」


「お茶? あれ? そう言えば、さっきアヤーネがワインを取りに会場に来たぞ」

 あ! そうだ、どうしよう?

「アヤカ様、私、そろそろ会場に戻りますね。アヤーネさんにワインはもういらないと言っておきますね」

 ナイスフォローです、リリアン様。

「そうしてもらえると助かります。会場へはマサキ兄様と戻るので、こちらに来なくても良いと伝えてもらえる?」

「はい。アヤーネさんに伝えておきますね。では、マサキ様私はこれで失礼します」

 リリアン様が出て行ってリタさんがマー君と私にお茶を入れてくれた。
 これでアヤーネがここに来なくてもマー君に怪しまれないね。
 ホッとして、しばしマー君とお茶の一時です。

 それにしても先ほどのビビアナ様は怖かった。

 アヤカとして接していた時は怖いなんて思ったことなかったけど、もしかしてさっきのが本来のビビアナ様なの?

 でもベロニカ様はビビアナ様は疲れていると言ってたよね。

「なんだ、アヤも疲れたのか?」
 もの思いに浸っているとマー君が私の顔を覗き込みながら言った。

「あ、大丈夫。そろそろ会場に戻ろっか? クリストファー様と踊る約束もしてるから」

「わかった。でもアヤと踊るのは俺が先だ。会場まで俺がエスコートする」

 マー君にエスコートされて舞踏会の会場に戻るとちょうどスローテンポのダンスナンバーが演奏されていた。

 どうやらデビュタント達のダンスタイムは終了しているようだ。

 そのままマー君とダンスフロアに足を運ぶ。

 歓声のような声と痛いほどの視線を受けながらここで怯んでは負けだと言い聞かせた。

 微笑みながら何とか踊りきった。

 えらいぞ! 私!

「アヤカ、次はどうか私と踊ってくれ」とクリス様がスッと私に近づきマー君の手から私の手を自然な形で奪っていた。

 おお、あまりにも自然でイヤミがない。
 さすが大人だ。

 そうなるとマー君も譲るしかなく苦笑いをしながらサッと身を引いた。

「クリス様、よろしくお願いします」
 にっこりと笑いクリス様のリードに身を任せた。

「クリス様はご令嬢達に囲まれて大変だったんじゃありません? マサキ兄様も疲れて先ほど私の休憩室に避難してきたんですよ」クスクス笑いながらそう言うとクリス様が答えた。

「私は王族でも勇者でもないので囲まれたりしないよ。それより、アヤカの方が大変だろ? 魔族の王子からも気に入られてるようだね」

「え? ハビー様のことですか? あの方は何か勘違いをしてるんです。いくら説明してもわかってくれないのでそのまま放置してます」

「勘違い? でもアヤカに好意をもっているのは本当だと思うよ。アヤカにダンスを申し込もうとしている紳士達に威嚇と威圧を仕掛けてビビらせているからね。まあ、私には効かないが」

 威嚇と威圧って、まったくハビー様、何やってるんですか。

 クリス様とのダンスが終わり少し食べようと二人で食事エリアに行く。

 わあ、どれも美味しそう。
 今日は長い1日なのでコルセットも少しゆるめ。と言うか、騎士団の訓練で無駄な贅肉がないので締める必要がない。

 筋肉は自前のコルセットなのだ。

 さあ、食べるぞ!

 意欲満々でお皿に料理を取ろうとしたら誰かに皿を奪われた。

「アヤカ、暴飲暴食は厳禁だ。オレの選んだ物だけ食べろ」

 あーハビー様だ。
 どこから現れたんだ。

「ちょっと、返してください。ハビー様。何度も言いますけど、全部ハビー様の勘違いですからね」

「ダメだ。またお腹を壊すぞ」

「だから、食べ物でお腹壊したことなんて無いんです。私は本当に普通の人間なんですってば」

「いや、アヤカが普通じゃないことはオレが一番良く知っている」

「ハビー様、誤解を受ける発言はやめて下さい。私は誰が見ても普通ですから」

「わかった、わかった。そう言う事にしておこう。でもアヤカは量の加減が出来ないだろう?」」

 おいおい、どんだけ食いしん坊と思われているんだ。
 って言うか、本当に普通の人間なんだっての!

 クリス様も笑っているではないか。

「へー、随分とハビーと仲が良いんだな、アヤカ。それに僕がいない間にクリストファー殿まで誑し込んでるなんて思わなかったな」

 その言葉に振り向くとオル様が超絶不機嫌な顔をしてこちらを睨んでいた。

 た、誑し込む?

 その言葉にカチンときた私はおもむろにオル様に向き直ると声をあげた。


「お言葉ですが、私のエスコートは出来ないのにビビアナ様のエスコートは出来るオル様には言われたくないですね」

「そ、それはいろいろと事情があってのことだ。アヤカだって僕がエスコート出来ないことをなんとも思っていないようだったじゃないか」

「は? なんとも思っていない訳ないじゃないですか!」

「はい、そこまでだ。ここでは人目がありすぎる。場所変えて二人で話しをしてくることをお勧めするよ」

 そのクリス様の言葉でハッとする。

 周りを見ると怪訝な顔をして見られている。
 オル様も同じように感じたらしく目が泳いでいた。
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