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第二章 騎士団編

第20話 理想の王子のお相手は? エミリオ視点

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 我が国、ジャイナス国が召喚した聖女、サーヤ様のせいでやっかいごとが舞い込んできた。

 サーヤ様は入団テストで襲撃犯を捕らえた女剣士に興味を持ち、是非とも自分の護衛のひとりとして加えたいと言ってきた。

 もちろん、サーヤ様には他国でそのような勝手な事は出来ないと一蹴したが。

 襲撃犯を捕らえたのは入団テスト中に対戦していた受験者の2人だったが、1人は獣人でケモ耳のある青年だった事もあり、その片方の女剣士に目を付けたようだ。

 どうもサーヤ様は魔力の少ない獣人族特有の姿態に嫌悪感があるらしい。

 我々獣人族は身体能力が人族より勝っているため戦闘時には魔力をほとんど必要としない。

 だが、入団テスト時に見せた女剣士の魔法を駆使した剣術は観ている者を魅了した。

 その可憐な容姿も相まって、さながら剣の舞を観ているようだった。

 そんな事もあり、諦めきれないサーヤ様は自分の護衛と侍女達に女剣士の情報を集めるように厳命していた。

 しかし、騎士団側がなぜか情報を秘匿していたため思うような情報は得られなかったようだ。

 それならそれで、サーヤ様が自然と諦めるだろうと傍観していた。

 だが、甘かった。
 サーヤ様の無駄にある行動力をなめていた。
 なんと、騎士団の入団式に乱入するという行動に出たのだ。

 侍女と護衛からの報告で慌てて、王子であるヘンドリックと共にサーヤ様を追いかけた。

 結果、サーヤ様の迷惑行動へのお詫びにヘンドリックが乗馬が出来ないという件の女剣士に乗馬の講師役をかってでたのだった。

 名前はアヤーネ。
 新人の女性騎士だ。

 面倒な事になった。
 それがとっさに思った感想だ。
 アヤーネ嬢は実にヘンドリックが、いや、獣人族の男が好意を持ちそうな容姿に性格だった。

 青い髪と瞳。
 ほんの少しだけつり気味の大きな目は子猫のように愛らしく、高すぎず、低すぎない鼻に艶々のピンク色の唇。
 それらが、小さな顔に絶妙なバランスで配置されている。

 小さな身長に折れそうほど細い手足、保護欲をそそるその容姿とは正反対の意志の強い瞳。

 ちょうど、入団式でアヤーネ嬢の勧誘をしにきた魔導師団と鉢合わせをしたときに見せた機転の利いた対応。

 ヘンドリックが興味を持つのに十分すぎる。

 子供の頃から一緒に育ったヘンドリックには是非とも想いを寄せる女性と添い遂げてもらいたいと思っている。

 でも彼女はダメだ。

 ゆくゆくはジャイナス国の王になるヘンドリック王子には誰もが認める女性でなければならないのだ。

 それは、他国の王女、高位貴族のご令嬢、女神様と聖霊様の名付けの愛し子のような神聖なる女性、そういったところか。

 騎士団の女性騎士ではないのは確かだ。

 それに守護獣である黒豹のジャイローの存在も忘れてはいけない。
 彼が認める女性。
 これが最も一番の条件かもしれない。

『守護獣の認める者は何者にも勝る尊き存在である』と言う言葉がジャイナス国にはあるくらいだ。

 今のところ、ジャイローと僕のお眼鏡にかなったのは名付けの愛し子のアヤカ様だけだ。

 ヘンドリックがアヤーネ嬢に好意を持つ前に、そして彼女がヘンドリックに好意を持つ前に排除しなければ……。

 そんな気持ちが日に日に増してきたある日、ヘンドリックの愛馬から降りたアヤーネ嬢がフラついてヘンドリック王子に抱き止められるのを目にした。

 アヤーネ嬢を見下ろしながら声をかけるヘンドリック。

 その優しげな目を見て一刻も早い対応をしなければと気が焦ってしまった。

「わざとフラついてヘンドリック様に媚びるなんてあざといな」気づけばそう言葉が口から出ていた。

「エミリオ様、私はわざとフラついたのではありません。それにヘンドリック様に媚びてなどいません」

「ふん、どうだか……ヘンドリック様は平民にも分け隔て無く接する心の広いお方だ。君のような者が勘違いをして纏わりつくのは甚だ迷惑だ。女はすぐに女の武器を使って近づいてくるからな。平民は平民らしく分をわきまえてくれ」

 わざとふらついたのではないと分かっていても彼女をヘンドリックから遠ざけたいと言う思いからキツイ言葉が口をつく。

「お言葉ですが、エミリオ様。乗馬の講師の件はヘンドリック様からのご提案ですよね? 違いますか? ですが、私もそのように蔑まされてまでヘンドリック様に乗馬の講師をお願いしようとは思いません。今日かぎりで教授は終わりと致します。お心の広いヘンドリック様の側近があなたのような心の曇った方で残念です。側近の程度で主の力量が問われる貴族社会です。お気をつけ下さい。ヘンドリック様へのお礼はデンナー隊長からしてもらうよう取りはからっておきます。それでは、これにて失礼致します」

 凛としたその態度と言葉が僕の胸をついた。
 彼女をヘンドリックから遠ざけるのに成功したのに心が重い。

「ま、待ってくれ、アヤーネ嬢。エミリオの非礼は私がお詫びする」
 ルドルフがアヤーネ嬢に何かを言っているが耳に入って来ない。

 僕は重苦しい気持ちのままアヤーネ嬢の凛とした後ろ姿を見送った。

 彼女が乗馬場の柵の外に出たとたん、しゃがみこんで何かに話しかけていた。
 それが何なのか次の瞬間でわかった。

 ジャイローだ。
 なんと、彼女は隠密術で姿を隠していたジャイローの首に抱きついたのだ。

 ルドルフが慌ててヘンドリックを呼びに行った。

 アヤーネ嬢は何事がジャイローに話しかけながら頭や首を撫でている。
 そのうちにヘンドリックとルドルフがアヤーネ嬢の名前を呼びながらこちらに向かって来た。

 それに反応してアヤーネ嬢はジャイローの頭にそっとキスをするとその場を去ってしまった。

「エミリオ! お前、アヤーネに何を言ったんだ?!」
 ヘンドリックが僕に向かってなにか叫んでいる。

 だが、今見た光景に動揺しているためヘンドリックの言葉が耳を素通りする。

 ジャイローがアヤーネ嬢が触れるのを許した?
 ……しかも頭にキスを……

 守護獣が認めた少女……。

 アヤーネ嬢は先ほど僕に何と言った?
『お心の広いヘンドリック様の側近があなたのような心の曇った方で残念です』

 心が曇っていると……ああ、なんてことだ。

 僕は間違えたのか?

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