78 / 107
第二章 騎士団編
第20話 理想の王子のお相手は? エミリオ視点
しおりを挟む
我が国、ジャイナス国が召喚した聖女、サーヤ様のせいでやっかいごとが舞い込んできた。
サーヤ様は入団テストで襲撃犯を捕らえた女剣士に興味を持ち、是非とも自分の護衛のひとりとして加えたいと言ってきた。
もちろん、サーヤ様には他国でそのような勝手な事は出来ないと一蹴したが。
襲撃犯を捕らえたのは入団テスト中に対戦していた受験者の2人だったが、1人は獣人でケモ耳のある青年だった事もあり、その片方の女剣士に目を付けたようだ。
どうもサーヤ様は魔力の少ない獣人族特有の姿態に嫌悪感があるらしい。
我々獣人族は身体能力が人族より勝っているため戦闘時には魔力をほとんど必要としない。
だが、入団テスト時に見せた女剣士の魔法を駆使した剣術は観ている者を魅了した。
その可憐な容姿も相まって、さながら剣の舞を観ているようだった。
そんな事もあり、諦めきれないサーヤ様は自分の護衛と侍女達に女剣士の情報を集めるように厳命していた。
しかし、騎士団側がなぜか情報を秘匿していたため思うような情報は得られなかったようだ。
それならそれで、サーヤ様が自然と諦めるだろうと傍観していた。
だが、甘かった。
サーヤ様の無駄にある行動力をなめていた。
なんと、騎士団の入団式に乱入するという行動に出たのだ。
侍女と護衛からの報告で慌てて、王子であるヘンドリックと共にサーヤ様を追いかけた。
結果、サーヤ様の迷惑行動へのお詫びにヘンドリックが乗馬が出来ないという件の女剣士に乗馬の講師役をかってでたのだった。
名前はアヤーネ。
新人の女性騎士だ。
面倒な事になった。
それがとっさに思った感想だ。
アヤーネ嬢は実にヘンドリックが、いや、獣人族の男が好意を持ちそうな容姿に性格だった。
青い髪と瞳。
ほんの少しだけつり気味の大きな目は子猫のように愛らしく、高すぎず、低すぎない鼻に艶々のピンク色の唇。
それらが、小さな顔に絶妙なバランスで配置されている。
小さな身長に折れそうほど細い手足、保護欲をそそるその容姿とは正反対の意志の強い瞳。
ちょうど、入団式でアヤーネ嬢の勧誘をしにきた魔導師団と鉢合わせをしたときに見せた機転の利いた対応。
ヘンドリックが興味を持つのに十分すぎる。
子供の頃から一緒に育ったヘンドリックには是非とも想いを寄せる女性と添い遂げてもらいたいと思っている。
でも彼女はダメだ。
ゆくゆくはジャイナス国の王になるヘンドリック王子には誰もが認める女性でなければならないのだ。
それは、他国の王女、高位貴族のご令嬢、女神様と聖霊様の名付けの愛し子のような神聖なる女性、そういったところか。
騎士団の女性騎士ではないのは確かだ。
それに守護獣である黒豹のジャイローの存在も忘れてはいけない。
彼が認める女性。
これが最も一番の条件かもしれない。
『守護獣の認める者は何者にも勝る尊き存在である』と言う言葉がジャイナス国にはあるくらいだ。
今のところ、ジャイローと僕のお眼鏡にかなったのは名付けの愛し子のアヤカ様だけだ。
ヘンドリックがアヤーネ嬢に好意を持つ前に、そして彼女がヘンドリックに好意を持つ前に排除しなければ……。
そんな気持ちが日に日に増してきたある日、ヘンドリックの愛馬から降りたアヤーネ嬢がフラついてヘンドリック王子に抱き止められるのを目にした。
アヤーネ嬢を見下ろしながら声をかけるヘンドリック。
その優しげな目を見て一刻も早い対応をしなければと気が焦ってしまった。
「わざとフラついてヘンドリック様に媚びるなんてあざといな」気づけばそう言葉が口から出ていた。
「エミリオ様、私はわざとフラついたのではありません。それにヘンドリック様に媚びてなどいません」
「ふん、どうだか……ヘンドリック様は平民にも分け隔て無く接する心の広いお方だ。君のような者が勘違いをして纏わりつくのは甚だ迷惑だ。女はすぐに女の武器を使って近づいてくるからな。平民は平民らしく分をわきまえてくれ」
わざとふらついたのではないと分かっていても彼女をヘンドリックから遠ざけたいと言う思いからキツイ言葉が口をつく。
「お言葉ですが、エミリオ様。乗馬の講師の件はヘンドリック様からのご提案ですよね? 違いますか? ですが、私もそのように蔑まされてまでヘンドリック様に乗馬の講師をお願いしようとは思いません。今日かぎりで教授は終わりと致します。お心の広いヘンドリック様の側近があなたのような心の曇った方で残念です。側近の程度で主の力量が問われる貴族社会です。お気をつけ下さい。ヘンドリック様へのお礼はデンナー隊長からしてもらうよう取りはからっておきます。それでは、これにて失礼致します」
凛としたその態度と言葉が僕の胸をついた。
彼女をヘンドリックから遠ざけるのに成功したのに心が重い。
「ま、待ってくれ、アヤーネ嬢。エミリオの非礼は私がお詫びする」
ルドルフがアヤーネ嬢に何かを言っているが耳に入って来ない。
僕は重苦しい気持ちのままアヤーネ嬢の凛とした後ろ姿を見送った。
彼女が乗馬場の柵の外に出たとたん、しゃがみこんで何かに話しかけていた。
それが何なのか次の瞬間でわかった。
ジャイローだ。
なんと、彼女は隠密術で姿を隠していたジャイローの首に抱きついたのだ。
ルドルフが慌ててヘンドリックを呼びに行った。
アヤーネ嬢は何事がジャイローに話しかけながら頭や首を撫でている。
そのうちにヘンドリックとルドルフがアヤーネ嬢の名前を呼びながらこちらに向かって来た。
それに反応してアヤーネ嬢はジャイローの頭にそっとキスをするとその場を去ってしまった。
「エミリオ! お前、アヤーネに何を言ったんだ?!」
ヘンドリックが僕に向かってなにか叫んでいる。
だが、今見た光景に動揺しているためヘンドリックの言葉が耳を素通りする。
ジャイローがアヤーネ嬢が触れるのを許した?
……しかも頭にキスを……
守護獣が認めた少女……。
アヤーネ嬢は先ほど僕に何と言った?
『お心の広いヘンドリック様の側近があなたのような心の曇った方で残念です』
心が曇っていると……ああ、なんてことだ。
僕は間違えたのか?
サーヤ様は入団テストで襲撃犯を捕らえた女剣士に興味を持ち、是非とも自分の護衛のひとりとして加えたいと言ってきた。
もちろん、サーヤ様には他国でそのような勝手な事は出来ないと一蹴したが。
襲撃犯を捕らえたのは入団テスト中に対戦していた受験者の2人だったが、1人は獣人でケモ耳のある青年だった事もあり、その片方の女剣士に目を付けたようだ。
どうもサーヤ様は魔力の少ない獣人族特有の姿態に嫌悪感があるらしい。
我々獣人族は身体能力が人族より勝っているため戦闘時には魔力をほとんど必要としない。
だが、入団テスト時に見せた女剣士の魔法を駆使した剣術は観ている者を魅了した。
その可憐な容姿も相まって、さながら剣の舞を観ているようだった。
そんな事もあり、諦めきれないサーヤ様は自分の護衛と侍女達に女剣士の情報を集めるように厳命していた。
しかし、騎士団側がなぜか情報を秘匿していたため思うような情報は得られなかったようだ。
それならそれで、サーヤ様が自然と諦めるだろうと傍観していた。
だが、甘かった。
サーヤ様の無駄にある行動力をなめていた。
なんと、騎士団の入団式に乱入するという行動に出たのだ。
侍女と護衛からの報告で慌てて、王子であるヘンドリックと共にサーヤ様を追いかけた。
結果、サーヤ様の迷惑行動へのお詫びにヘンドリックが乗馬が出来ないという件の女剣士に乗馬の講師役をかってでたのだった。
名前はアヤーネ。
新人の女性騎士だ。
面倒な事になった。
それがとっさに思った感想だ。
アヤーネ嬢は実にヘンドリックが、いや、獣人族の男が好意を持ちそうな容姿に性格だった。
青い髪と瞳。
ほんの少しだけつり気味の大きな目は子猫のように愛らしく、高すぎず、低すぎない鼻に艶々のピンク色の唇。
それらが、小さな顔に絶妙なバランスで配置されている。
小さな身長に折れそうほど細い手足、保護欲をそそるその容姿とは正反対の意志の強い瞳。
ちょうど、入団式でアヤーネ嬢の勧誘をしにきた魔導師団と鉢合わせをしたときに見せた機転の利いた対応。
ヘンドリックが興味を持つのに十分すぎる。
子供の頃から一緒に育ったヘンドリックには是非とも想いを寄せる女性と添い遂げてもらいたいと思っている。
でも彼女はダメだ。
ゆくゆくはジャイナス国の王になるヘンドリック王子には誰もが認める女性でなければならないのだ。
それは、他国の王女、高位貴族のご令嬢、女神様と聖霊様の名付けの愛し子のような神聖なる女性、そういったところか。
騎士団の女性騎士ではないのは確かだ。
それに守護獣である黒豹のジャイローの存在も忘れてはいけない。
彼が認める女性。
これが最も一番の条件かもしれない。
『守護獣の認める者は何者にも勝る尊き存在である』と言う言葉がジャイナス国にはあるくらいだ。
今のところ、ジャイローと僕のお眼鏡にかなったのは名付けの愛し子のアヤカ様だけだ。
ヘンドリックがアヤーネ嬢に好意を持つ前に、そして彼女がヘンドリックに好意を持つ前に排除しなければ……。
そんな気持ちが日に日に増してきたある日、ヘンドリックの愛馬から降りたアヤーネ嬢がフラついてヘンドリック王子に抱き止められるのを目にした。
アヤーネ嬢を見下ろしながら声をかけるヘンドリック。
その優しげな目を見て一刻も早い対応をしなければと気が焦ってしまった。
「わざとフラついてヘンドリック様に媚びるなんてあざといな」気づけばそう言葉が口から出ていた。
「エミリオ様、私はわざとフラついたのではありません。それにヘンドリック様に媚びてなどいません」
「ふん、どうだか……ヘンドリック様は平民にも分け隔て無く接する心の広いお方だ。君のような者が勘違いをして纏わりつくのは甚だ迷惑だ。女はすぐに女の武器を使って近づいてくるからな。平民は平民らしく分をわきまえてくれ」
わざとふらついたのではないと分かっていても彼女をヘンドリックから遠ざけたいと言う思いからキツイ言葉が口をつく。
「お言葉ですが、エミリオ様。乗馬の講師の件はヘンドリック様からのご提案ですよね? 違いますか? ですが、私もそのように蔑まされてまでヘンドリック様に乗馬の講師をお願いしようとは思いません。今日かぎりで教授は終わりと致します。お心の広いヘンドリック様の側近があなたのような心の曇った方で残念です。側近の程度で主の力量が問われる貴族社会です。お気をつけ下さい。ヘンドリック様へのお礼はデンナー隊長からしてもらうよう取りはからっておきます。それでは、これにて失礼致します」
凛としたその態度と言葉が僕の胸をついた。
彼女をヘンドリックから遠ざけるのに成功したのに心が重い。
「ま、待ってくれ、アヤーネ嬢。エミリオの非礼は私がお詫びする」
ルドルフがアヤーネ嬢に何かを言っているが耳に入って来ない。
僕は重苦しい気持ちのままアヤーネ嬢の凛とした後ろ姿を見送った。
彼女が乗馬場の柵の外に出たとたん、しゃがみこんで何かに話しかけていた。
それが何なのか次の瞬間でわかった。
ジャイローだ。
なんと、彼女は隠密術で姿を隠していたジャイローの首に抱きついたのだ。
ルドルフが慌ててヘンドリックを呼びに行った。
アヤーネ嬢は何事がジャイローに話しかけながら頭や首を撫でている。
そのうちにヘンドリックとルドルフがアヤーネ嬢の名前を呼びながらこちらに向かって来た。
それに反応してアヤーネ嬢はジャイローの頭にそっとキスをするとその場を去ってしまった。
「エミリオ! お前、アヤーネに何を言ったんだ?!」
ヘンドリックが僕に向かってなにか叫んでいる。
だが、今見た光景に動揺しているためヘンドリックの言葉が耳を素通りする。
ジャイローがアヤーネ嬢が触れるのを許した?
……しかも頭にキスを……
守護獣が認めた少女……。
アヤーネ嬢は先ほど僕に何と言った?
『お心の広いヘンドリック様の側近があなたのような心の曇った方で残念です』
心が曇っていると……ああ、なんてことだ。
僕は間違えたのか?
0
お気に入りに追加
2,295
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢はお断りです
あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。
この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。
その小説は王子と侍女との切ない恋物語。
そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。
侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。
このまま進めば断罪コースは確定。
寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。
何とかしないと。
でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。
そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。
剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が
女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。
そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。
●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
●毎日21時更新(サクサク進みます)
●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)
(第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
従姉の子を義母から守るために婚約しました。
しゃーりん
恋愛
ジェットには6歳年上の従姉チェルシーがいた。
しかし、彼女は事故で亡くなってしまった。まだ小さい娘を残して。
再婚した従姉の夫ウォルトは娘シャルロッテの立場が不安になり、娘をジェットの家に預けてきた。婚約者として。
シャルロッテが15歳になるまでは、婚約者でいる必要があるらしい。
ところが、シャルロッテが13歳の時、公爵家に帰ることになった。
当然、婚約は白紙に戻ると思っていたジェットだが、シャルロッテの気持ち次第となって…
歳の差13歳のジェットとシャルロッテのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる