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第二章 騎士団編

第9話 入団テスト⑧ トライアルクラッシャー

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 本日最終試合と言うことで観客席も大盛り上がりだ。

 しかもグランドの中央にはトライアルクラッシャーとして名を知られている男が仁王立ちしている。

 名前はリベルト・ダレーマ。
 王都の冒険者ギルドでも上級レベルらしい。

 リベルト・ダレーマはもちろんだが、観客もトライアルクラッシャーの対戦相手に一体どんな男が登場するのか興味津々の様子だ。

 早く出てこいと熱烈コールが響く中、私はゆっくりとグランドに足を踏み入れる。

 シーン……

 今までの喧騒が嘘のように静まり返る。

 ううー地味にヘコむなぁ~ 期待はずれ感満載のこの反応。

 対戦相手のリベルト・ダレーマも驚きの顔で私のことを見ている。

 静まり返る会場内を怯むことなく進んでいくと遠目には分からなかったがリベルトの頭にケモ耳を発見!

 まるでケモ耳のカチュウーシャをしているみたいに銀髪のミデアムヘアから同色のケモ耳がひょっこりと出ている。

 獣人だ! 初めて見るケモ耳に思わず浮足立つ。

 獣人族の国の王子様と側近達にはなかったからね。

 歳のころは20代半ばぐらいかな?
 淡いイエローグリーンの瞳で鋭い目つきだがなかなか整った容貌をしている。

 身長190cmはありそうな長身に程よい筋肉。

 獣人は魔力が少ないと種族の特徴が姿態に出るって聞いたから、リベルトは魔力が少ないのだろう。

 リベルトは不機嫌そうに眉を寄せながら口を開いた。

「おい、おい、冗談はやめてくれよ。これ、何かの間違いだろう?俺に子供のお守りをさせるつもりかよ」

 むう~誰が子供だ! 失礼な!

 でもケモ耳がピコピコ動くのを見ると何とも可愛らしい。

 あの耳は犬だろうか?

「な! 犬じゃねぇ、俺の種族は誇り高い銀狼だ!」

 あ、聞こえてた。
 さすが銀狼、耳が良いね。

「その誇り高い銀狼さんが私のような小娘に負けたら面目が立たないですものね。どうします?私と対戦せずに逃げ出しますか? その場合、不戦勝で私の勝ちですが。」

 私はそういうとニッコリと笑ってみせた。

「なんだと?! 俺がお前みたいな小娘に負けるわけないだろう! 俺にそんな口がきけねぇようにたたきのめしてやる。剣をかまえろ!」

 はいよ! 望むところです。
 私はリベルトに向けて剣を構えた。

 私達の動向を固唾をのんで見守っていた観客が一斉に諦めのため息をついた。

 トライアルクラッシャーに対して無謀にも喧嘩を売った小娘に皆さんあきれているようだ。

 見ていられないとばかりに片手で顔を覆う人や、試合を見るのも我慢ならないと立ち上がり帰ろうとする人もいる。

 そんな観客席のざわつきを尻目に私はリベルトに向けて剣を大きく振りかぶった。

 動体視力強化、敏捷の術、そして自分に重力三倍加算で打ち込む剣力を割増した。

 重力操作術は軽減するだけじゃなく、その逆も出来るのだ。

 私の素早い打ち込みにとっさに剣を構えて受け止めるリベルト。

 私の見た目からは想像を超える剣の重さにリベルトの踏ん張った右足がズッズと後ずさる。

 驚いた顔をして私を見るリベルトの右脇腹に間髪入れず、剣を振り下ろす。

 私の余りにも速い動きに反応が遅れたリベルトの脇腹に綺麗に剣が入った。

 冒険者用のしっかりとしたベストを着ていてもこれはかなり効いただろう。

 案の定、リベルトは右の脇腹を押さえて顔をしかめた。

 でもさすが上級冒険者だ。
 直ぐに体制を整えて私に向けて剣を構えた。

 その瞬間、観客席からどよめきが起きた。

 あ、小娘が意外にも健闘してるから皆さん驚いてるんだね。

 さっき帰りかけた人達もまた戻って来たようだ。

「へぇ~俺に剣を打ち込めるなんてなかなかやるじゃないか。まぁ、俺も油断してたからな。今からはそう簡単には行かないからな」
 リベルトはそういうと目を細めてニヤリと笑った。

 不適なその笑いはピンと立ったケモ耳のせいで恐さが半減。

 やっぱり犬に見える。うー触ってみたい。

 イケメンの頭にケモ耳なんてどんだけ萌えポイントが高いんだ。

 はっ! まさかそれが奴の狙いか?
 どんなに萌えても負けてなんてあげないぞ。

 私は剣を握りしめる手に力を込めた。

 リベルトが地面を蹴って私に向かって剣を振り上げる。
 その剣を受け止めると両手に物凄い衝撃が走った。

 うっく、強い。

 咄嗟に両手腕に筋力強化、敏捷の術で振り払う。

 振り払いざま、重力軽減で飛び上がり、リベルト目掛けて剣を振りかぶる。

 私の速さに目が慣れたのかリベルトは難なく剣を受け止め、なおかつその剣をはじき飛ばすように振り払った。

 剣はあっさりと私の両手から離れ高く飛び上がった。

 動体視力強化をしている私の目にはそれがスローモーションのように見え、私は咄嗟に重力軽減、風魔法で飛び上がり手から離れた剣を掴むと透明の壁を作った。

 飛びながらその透明の壁を蹴り、その反動を利用して斜め上からの角度でリベルトに切り込む。

 一連の私の動きに唖然としているリベルトがハッとして防御体制に入る。

 もう少しで私とリベルトの剣が交差するという瞬間に私達の間を赤黒い火矢のようなものがすごい速さで通り抜けた。

 え? なに?

 リベルトもそれに気がついたようで私達は剣を交えながら火矢が向かった方向に顔を向けた。

 それは王族の席だった。
 結界が張られているらしく、赤黒い火矢はそれに当たると赤黒い煙りを立てて消えた。

 瘴気だ。

 なぜだか直感的にそう確信した。

 咄嗟にリベルトと距離を取ると私は王族の席の前で燻っている赤黒い煙りに浄化の魔力を飛ばした。

 リベルトは剣先を私に向け威嚇するように口を開いた。
「おい、なんだあの火矢は? 攻撃魔法はこの入団テストではご法度だぞ!」

 それに対し私も剣を向けながら答える。

「私じゃありません。私は攻撃魔法の適性がないので」

「は? お前、攻撃魔法が使えないのか? それでよく騎士団に入団なんてしようと思ったな」

「攻撃魔法は使えませんが、防御魔法は使えますよ。防御は最大の攻撃です」
 そう胸を張って言う私にリベルトは苦笑いをしながら言った。

「逆だろそれ。攻撃は最大の防御だ。それより、どうして誰も騒がない。騎士団の審判はどうしたんだ?」

「どうやらあれが見えたのは、私達だけのようですね。あの赤黒い炎は瘴気の塊のようです。とりあえず、標的になりにくくするためにこのまま剣を交えながら話しましょう。犯人がどこにいるのかわからない今、下手に騒いでここにいる観客を人質に取られると厄介です」

「瘴気の塊? それは本当か?! いや、瘴気なら獣鬼を討伐した時に何度も見ているがあんな火矢の塊なんて見たことないぞ。なんで俺達にしか見えないんだ?」

 私の提案通りに剣を軽快に交えながら会話をする。

「リベルトさんの属性は何ですか?」

「俺の属性は光と水と風だ。属性は多い方だが魔力は少ない」

 リベルトの返答に私は頷きながら言った。

「おそらく瘴気自体、光属性を持っている人にしか見えないのでしょう。そして今、この会場では観客席に安全のためグランドを一周するように結界の壁が張られています。王族の席は観客席よりも強力な結界が。それが瘴気の塊の火矢を見えにくくしているようです」

 そんな会話をしているとまた私達の頭上を瘴気の火矢が王族の席目掛けて飛んできた。
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