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椿の華と狼
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バタバタと慌ただしく足音が響く。それと共に怒号も飛ぶ。目の前にある凄惨な場面を眺めながら、女は今調査されている目の前の事件がヴェレーノの起こしたものであると判断した。しかも、十年前の事件と同じ殺され方をされてるのを見て、同一犯の可能性が高い。
十年前に捕まる事なく今まで隠れていたのだろう。
事件現場を厳しく睨むアイスブルーの瞳、背中の中頃までの銀のストレートヘアの女性――レイカは何故ここに居るのか。それは彼女の所属する組織、メディチーナから【十年前から少女を殺して回るトカゲの人外が、イタリアから日本に渡った可能性がある。トカゲの人外が日本に来ている可能性がとれたのち、討伐せよ】と命令が下されたのだ。
その為こうして事件現場に行き、トカゲの人外に殺された者なのか確認していた。
「レイカ、何か証拠になりそうなものは見つかったか?それがなければ、俺達は動けん」
「安心してくださいまし。斗真、ここをご覧なさいな。ここに鱗でできたであろう傷がございますの。手口もあのトカゲのヴェレーノと一緒と言ってもいいくらいでしたわ。そのままであれば、模倣犯の可能性もありましたけれど、でもこの鱗の跡がございます」
「ああ……確か、鱗がある種族は鱗が指紋みたいに個人特定できるんだったな。だとしたら跡だけでなく、鱗本体も欲しい所だな」
「そうですわね。確実性を求めるならば、鱗そのものの方がいいですわね。斗真、探しますわよ」
言うだけ言って、レイカは斗真から離れ無惨な姿になった少女の亡骸に近づく。斗真はため息を吐きながら、レイカに何かあればすぐ動けるようにそばに控える。
自分のすぐそばに斗真が控えてくれているのが分かっているからこそ、レイカは好き勝手に動いてるとも言えるが。それが彼らの信頼の証であり、親愛の証だからだ。
「ん?レイカ止まれ。そこになんか落ちている」
斗真の指摘に足を止めたレイカは、斗真が指示した場所を覗き込む。すると、少女の遺体のそばに何やら鈍く光る物が刺さっているのが分かった。
「あら、本当ですわ。斗真、とって下さいまし」
「ああ、了解した。俺のフィオレ」
斗真は遺体に近づき、ゴム手袋をした手で遺体のそばに刺さっているソレを慎重に引き抜いた。引き抜かれ出てきたソレは、血に染まってはいるものの、アッシュグレーの色をした鱗。
取り出した鱗を小さなジップロックに入れる。
「鱗さえ手に入ったのなら、メディチーナでトカゲのヴェレーノなのか検査ができますわ。一旦戻りましょう。斗真、メディチーナまで走って下さる?」
「それが俺のフィオレの願いなら」
レイカの願いを聞き届けるために、斗真の体が人型から大きな狼の姿に変わっていく。
あらわになる白銀の狼。瞳の金が良く映え、毛並みの色と相まって神々しく感じる。
「いつ見ても、美しいですわね。斗真のフィオレに選ばれたのは、わたくしの誇りですわ」
その言葉に斗真の尻尾はパタパタと振られている。嬉しかったのだろう。感情を隠せない素直な尻尾にレイカは「まあ、可愛らしい事」と、言いながら斗真の背中にまたがる。
レイカがまたがったのを確認し、斗真はレイカが振り落とされないように、それでもバイクのように速いスピードで走り出した。
向かう先はメディチーナ。人外と絆を結んだフィオレ、またはフィオレと出会ってない人外の保護施設。
どれだけ走っただろう。二人の目の前には立派な建物がそびえ立っていた。自動ドアをくぐり、受付に名前を言う。
その間に斗真は白銀の狼の姿から人型へと姿を変えた。
「警察からの依頼で、犯行が人外かどうかの確認の任務に行っておりました、レイカですわ。ただいま帰りました。早速報告したい事がございますの。関係者の方の都合はつきますでしょうか?」
「レイカさんですね。お話は伺っております。皆様、会議室1でお帰りをお待ちしておりました。戻ったばかりで申し訳ないのですが、向かってもらえますでしょうか?」
「ええ、構いませんわ。直ぐに参ります。斗真、会議室1に行きますわよ」
「了解した。レイカ」
斗真は歩き出したレイカを当然の様にエスコートする。会議室1は2階にあるため、奥のエレベーターで2階に行かなければならない。
1階はあくまでメディチーナに所属していない人外とフィオレ、または人外やフィオレに関わりがある人への相談場所なのだ。
既に所属している者は2階以降を使っている。
ボタンを押しエレベーターを呼ぶ。たいして時間もかからず、エレベーターが1階に降りてきた。開いたエレベーターのドアをくぐり、2階のボタンを押す。
チン、という軽い音を立ててエレベーターのドアが閉まり、2階へと上昇した。
エレベーターが上昇する際の、胃の腑がフワっと浮くようなこの感覚が斗真は苦手だった。
また軽やかな音を立ててエレベーターは止まりドアが開く。エレベーターから出て、左手側のすぐ近くにあるドアには、【第一会議室】というプレートがかかっていた。
第一会議室のドアをノックする。すると中から「入れ」と声がした。斗真はレイカに扉を開けてやる。レイカが部屋に入るのを確認してから、斗真も部屋へと入りレイカの背後に待機する。
「情報部隊所属、レイカと斗真。ただ今帰還致しましたわ。報告したい事があるのですけれど、今お時間大丈夫でしょうか?」
「構いません。あの【トカゲ】が日本に来日したと言う証拠が、見つかったからこそ報告に来たのでしょうし」
そう言って、このメディチーナと言う組織をまとめあげる実質のボス。所長が顔を上げた。
長く艶やかな黒髪を後頭部で丸めて簪でとめ、余った髪を丸めた髪の下からそのまま背中に流している。アーモンド型の形のいい瞼の中にはまっているのは、アズールブルーで彩られた瞳。
女性にしては高い170cmの身長のせいで高圧的に見られがちだが、根がとても真面目で彼等人外と絆を結んだフィオレを、そしてそのパートナーたる人外をとても大事にしている。
そしてそれが伝わってくるからこそ、メディチーナに所属するフィオレと人外も、彼女の事を尊重するし無下に扱いはしない。
フィオレでもない者が彼等の事を理解し、それを尊重してくれる人間等、どれほど居ただろう。
ゆえに、彼女からの命令に否やを言う者は居ないのだ。
アズールブルーの目がレイカと斗真を見据える。
「それで?何かめぼしい物でもありましたか?」
「ええ、ありましたわ。実際に殺害された場所と、殺害された方の遺体を見に行きましたの。ですが、そこへ行く途中で新たな遺体を発見しました」
「そう、それで?」
「すぐに近くの警察に連絡し、調べてもらっておりますわ。その殺害された場所にあった、鱗で引きづられたかのような跡、遺体にはっきりついた締め付けられたであろう鱗の跡も【トカゲ】の特徴と一致しますわ」
「それだけではない。遺体の近くに【トカゲ】のものであろう鱗が埋まっているのを発見した。持ち帰っているので、確認してくれ」
「そう。よくやりました。その鱗をすぐに検査して【トカゲ】か、どうかすぐに確認しましょう。レイカ、斗真、疲れたでしょう。次の任務の通達があるまでの間、ゆっくりと休んでください」
「ありがとうございます、ローラ所長。ゆっくりと休ませてもらいますわ」
「失礼する」
レイカと斗真はローラに礼をしてから、第一会議室を退出した。2人が背中を向け出ていくと、それまでシンっと静まり返っていた会議室が途端に騒がしくなる。
十年前に捕まる事なく今まで隠れていたのだろう。
事件現場を厳しく睨むアイスブルーの瞳、背中の中頃までの銀のストレートヘアの女性――レイカは何故ここに居るのか。それは彼女の所属する組織、メディチーナから【十年前から少女を殺して回るトカゲの人外が、イタリアから日本に渡った可能性がある。トカゲの人外が日本に来ている可能性がとれたのち、討伐せよ】と命令が下されたのだ。
その為こうして事件現場に行き、トカゲの人外に殺された者なのか確認していた。
「レイカ、何か証拠になりそうなものは見つかったか?それがなければ、俺達は動けん」
「安心してくださいまし。斗真、ここをご覧なさいな。ここに鱗でできたであろう傷がございますの。手口もあのトカゲのヴェレーノと一緒と言ってもいいくらいでしたわ。そのままであれば、模倣犯の可能性もありましたけれど、でもこの鱗の跡がございます」
「ああ……確か、鱗がある種族は鱗が指紋みたいに個人特定できるんだったな。だとしたら跡だけでなく、鱗本体も欲しい所だな」
「そうですわね。確実性を求めるならば、鱗そのものの方がいいですわね。斗真、探しますわよ」
言うだけ言って、レイカは斗真から離れ無惨な姿になった少女の亡骸に近づく。斗真はため息を吐きながら、レイカに何かあればすぐ動けるようにそばに控える。
自分のすぐそばに斗真が控えてくれているのが分かっているからこそ、レイカは好き勝手に動いてるとも言えるが。それが彼らの信頼の証であり、親愛の証だからだ。
「ん?レイカ止まれ。そこになんか落ちている」
斗真の指摘に足を止めたレイカは、斗真が指示した場所を覗き込む。すると、少女の遺体のそばに何やら鈍く光る物が刺さっているのが分かった。
「あら、本当ですわ。斗真、とって下さいまし」
「ああ、了解した。俺のフィオレ」
斗真は遺体に近づき、ゴム手袋をした手で遺体のそばに刺さっているソレを慎重に引き抜いた。引き抜かれ出てきたソレは、血に染まってはいるものの、アッシュグレーの色をした鱗。
取り出した鱗を小さなジップロックに入れる。
「鱗さえ手に入ったのなら、メディチーナでトカゲのヴェレーノなのか検査ができますわ。一旦戻りましょう。斗真、メディチーナまで走って下さる?」
「それが俺のフィオレの願いなら」
レイカの願いを聞き届けるために、斗真の体が人型から大きな狼の姿に変わっていく。
あらわになる白銀の狼。瞳の金が良く映え、毛並みの色と相まって神々しく感じる。
「いつ見ても、美しいですわね。斗真のフィオレに選ばれたのは、わたくしの誇りですわ」
その言葉に斗真の尻尾はパタパタと振られている。嬉しかったのだろう。感情を隠せない素直な尻尾にレイカは「まあ、可愛らしい事」と、言いながら斗真の背中にまたがる。
レイカがまたがったのを確認し、斗真はレイカが振り落とされないように、それでもバイクのように速いスピードで走り出した。
向かう先はメディチーナ。人外と絆を結んだフィオレ、またはフィオレと出会ってない人外の保護施設。
どれだけ走っただろう。二人の目の前には立派な建物がそびえ立っていた。自動ドアをくぐり、受付に名前を言う。
その間に斗真は白銀の狼の姿から人型へと姿を変えた。
「警察からの依頼で、犯行が人外かどうかの確認の任務に行っておりました、レイカですわ。ただいま帰りました。早速報告したい事がございますの。関係者の方の都合はつきますでしょうか?」
「レイカさんですね。お話は伺っております。皆様、会議室1でお帰りをお待ちしておりました。戻ったばかりで申し訳ないのですが、向かってもらえますでしょうか?」
「ええ、構いませんわ。直ぐに参ります。斗真、会議室1に行きますわよ」
「了解した。レイカ」
斗真は歩き出したレイカを当然の様にエスコートする。会議室1は2階にあるため、奥のエレベーターで2階に行かなければならない。
1階はあくまでメディチーナに所属していない人外とフィオレ、または人外やフィオレに関わりがある人への相談場所なのだ。
既に所属している者は2階以降を使っている。
ボタンを押しエレベーターを呼ぶ。たいして時間もかからず、エレベーターが1階に降りてきた。開いたエレベーターのドアをくぐり、2階のボタンを押す。
チン、という軽い音を立ててエレベーターのドアが閉まり、2階へと上昇した。
エレベーターが上昇する際の、胃の腑がフワっと浮くようなこの感覚が斗真は苦手だった。
また軽やかな音を立ててエレベーターは止まりドアが開く。エレベーターから出て、左手側のすぐ近くにあるドアには、【第一会議室】というプレートがかかっていた。
第一会議室のドアをノックする。すると中から「入れ」と声がした。斗真はレイカに扉を開けてやる。レイカが部屋に入るのを確認してから、斗真も部屋へと入りレイカの背後に待機する。
「情報部隊所属、レイカと斗真。ただ今帰還致しましたわ。報告したい事があるのですけれど、今お時間大丈夫でしょうか?」
「構いません。あの【トカゲ】が日本に来日したと言う証拠が、見つかったからこそ報告に来たのでしょうし」
そう言って、このメディチーナと言う組織をまとめあげる実質のボス。所長が顔を上げた。
長く艶やかな黒髪を後頭部で丸めて簪でとめ、余った髪を丸めた髪の下からそのまま背中に流している。アーモンド型の形のいい瞼の中にはまっているのは、アズールブルーで彩られた瞳。
女性にしては高い170cmの身長のせいで高圧的に見られがちだが、根がとても真面目で彼等人外と絆を結んだフィオレを、そしてそのパートナーたる人外をとても大事にしている。
そしてそれが伝わってくるからこそ、メディチーナに所属するフィオレと人外も、彼女の事を尊重するし無下に扱いはしない。
フィオレでもない者が彼等の事を理解し、それを尊重してくれる人間等、どれほど居ただろう。
ゆえに、彼女からの命令に否やを言う者は居ないのだ。
アズールブルーの目がレイカと斗真を見据える。
「それで?何かめぼしい物でもありましたか?」
「ええ、ありましたわ。実際に殺害された場所と、殺害された方の遺体を見に行きましたの。ですが、そこへ行く途中で新たな遺体を発見しました」
「そう、それで?」
「すぐに近くの警察に連絡し、調べてもらっておりますわ。その殺害された場所にあった、鱗で引きづられたかのような跡、遺体にはっきりついた締め付けられたであろう鱗の跡も【トカゲ】の特徴と一致しますわ」
「それだけではない。遺体の近くに【トカゲ】のものであろう鱗が埋まっているのを発見した。持ち帰っているので、確認してくれ」
「そう。よくやりました。その鱗をすぐに検査して【トカゲ】か、どうかすぐに確認しましょう。レイカ、斗真、疲れたでしょう。次の任務の通達があるまでの間、ゆっくりと休んでください」
「ありがとうございます、ローラ所長。ゆっくりと休ませてもらいますわ」
「失礼する」
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