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相手は元々、陸地の生き物だ。陸の方が動ける。ぺルラが陸に上がった瞬間、ヴェレーノはぺルラの尾を掴み、思い切り投げ飛ばした。もちろん陸地のさらに奥に向けて。簡単には海の中へと逃げていかないように。
叩きつけられた衝撃と、傷口の痛みで意識を失う寸前、ぺルラは細工をしていた。こんなところで死ぬつもりなどもうとう無かったから。
ぺルラの自分の領域にいるから逃げ切れるという油断、そして大事な真珠の反応が近いという焦り、その全てが合わさった結果だった。
「だからこの怪我はオレの自業自得なんだよ。あのクソ野郎がオレを閉じ込めたのは多分目の届くところに置いておきたかったからとかじゃね?」
ぺルラ自身も分からないと首を傾げながらも、ここに閉じ込められるまでをルイに教えてくれていた。あっけらかんと話すぺルラにルイは安心する。そのままぺルラが殺されていたら、ルイと再会することなど一生なかったのだから。
「よかった。ぺルラが殺されないで、もし殺されていたら僕はぺルラと再会できなかった」
ルイの安堵のため息とともに吐き出された言葉に、ぺルラは目を丸くしたのち苦笑する。優しくルイの頭を撫でながら、大丈夫だと悪戯っぽく笑う。
「オレが殺されることはないよ。意識失う前に歌って、あいつの感覚狂わしたから。人魚の歌が惑わしや魅了の効果があるのは有名でしょ」
「知ってるけど……おとぎ話や伝説だけかと思ってた」
「まぁ、素直」
ふざけるペルラにルイは笑う。ルイの笑顔を見たペルラは安心したように微笑み、ルイの頬を撫でる。
「よかった……笑ってくれた」
ぺルラの言葉にルイは気づく。確かにここに連れてこられてから笑っていないかもしれないと。笑えていたとしても、心からの笑顔では無かったはずだ。まがりなりにもヴェレーノの住処にいる事から無意識に顔がこわばっていたのだろう。
ぺルラが居て安心感を得ていたのも事実だが、慣れぬ場所。ましてや死体がある場所に閉じ込められて緊張しないでいるなどできなかった。普通に暮らしていて死体とまみえる事など無いだろうから。
「笑えるようになったなら、動いてもよさそうだね。ここ、地下みたいだからさ。とりあえず地上に出ようか」
「うん。ぺルラが一緒だから大丈夫だよ」
「当たり前でしょ?でも、上に行けばあのクソ野郎とも会うかもだし、慎重にね」
「ふふ。分かった」
ゆっくり立ち上がり、今までいた部屋から出る。ぺルラに手をひかれ、地下から地上へと続く階段を探す。今、二人がいる部屋は出口だろう扉に近いという事は、地下にあった出口は非常口と考えていいだろう。つまりは、地上に出るには非常口の反対側に階段があるはずだ。地下の出口には鍵が掛かていた。ならば、それを開けられる鍵が必ず存在するはず。この地下がヴェレーノにとっての、いらない者を捨てる場所ならば、鍵は地上にあるだろう。脱出するのに必要なら、取りに行くまで。いつまでもここに居る道理も、義理も二人にはない。
暗い道を懐中電灯の明かりだけを頼りに戻っていく。途中、強く鼻に届く血の匂いは気にしないように、ルイの負担が少しでも減る様に、ぺルラは会話をして気を反らす。コツリ、コツリと二人分の足音が響く中、ぺルラの視界の端にボゥっと懐中電灯とは違う明かりが映った。
「ん?ねぇみてルイ。あそこ、なんかあるよ」
「え?どこ」
ぺルラの声に顔を上げたルイは、薄ぼんやりと光る何かが壁に埋まっているのを見た。間違っていなければ、おそらくは地上に行くための階段である可能性が高い。この暗闇の中でほぼ一直線であったが、それはぺルラがルイを誘導したから迷わず真っすぐにこれたのだ。
少し緊張しながら、二人はゆっくりと明かりに向かって歩いていく。近づくにつれてそれは輪郭を現した。岩壁に埋まる形で足元を照らすランプの明かりは、あまり強い明かりではないらしく、うっすらと足元が分かる程度のものだった。けれども無いよりはマシで、二人は階段を上がっていく。途中、懐中電灯の明かりでヴェレーノに気づかれてはいけないと、懐中電灯の明かりを切った。
「……随分、暗いな……これ、ルイには見えてんの?大丈夫?」
「かろうじて見えているかな。足元が分かる程度だけど、無いよりはマシ」
「そっか。なら、こけそうになったら……いや、こけそうにならなくても、オレにつかまってな」
「うん。そうさせてもらう」
ぺルラの申し出に、ルイは有難くぺルラの腕に自身の腕を絡めて支えてもらう。少しもよろけることなく支えられ、階段を上がるのをエスコートしてくれる。階段を上がるだけでエスコートなんて必要ないとルイは思うが、エスコートをしているぺルラ本人が楽しそうなので黙っている事にした。
二人で階段を何事もなく上がり切ると、ぺルラはルイを背中に庇い、階段の上にあるドアの向こうに気配がないか探り始める。
「……多分、誰も居ないと思うけど。一応、オレの近くから離れないでね。ルイ」
「うん。離れないよ」
ゆっくりとドアを開け、周りに人外が居ないか確認すると地下から出る。そこはどうやら階段の下に作られた地下へのドアがあったらしく、目の前には壁。右側からは光が漏れていた。
光が漏れていた右側に行ってみれば、地下への階段があったドアはエントランスの階段の見えない部分だったらしく、吹き抜けのホールと天井からぶら下がっているシャンデリアが美しい。
一階の入り口である玄関を正面に、吹き抜けのエントランスホールがあり、両端には二階へと続く階段が。階段に沿う形で壁とその壁に1つずつ扉がある。右側の階段に沿う扉を開ければ、そこは長い廊下があり等間隔に並んだ扉とその扉へかけられたネームプレートに、そこが使用人のための部屋である事が分かった。左側の扉を開ければ、そこもまた右側と同じく使用人の為の部屋でいっぱいだ。
「……ここってエントランスだったんだね」
「そこに入り口らしき物もあるけど、出れそうにねぇな。鎖でとってがグルグルだし、その鎖に南京錠がかかってる」
「扉自体も凄く重そうな鉄扉だね」
「人間なら、よほど鍛えてないと無理じゃねぇかな」
2階の窓から注ぐ朝日が今の時間を教えてくれている。あのヴェレーノにルイが攫われてから、すでに一日が経過しているのだ。そこでペルラはふと気づく。ルイが一日、何も食べていない事に。ペルラは焦った。人間は何日も食べなければ死んでしまう。何かルイに食べさせなければいけない。その為には食料がいる。探さなければ。
「そういや、何も食べさせてなかったね。ごめんね、人間は何日も食べなかったら死んじゃうんでしょ?」
「いや、一日食べなかったくらいで死んだりはしないよ。ただひもじいだけで」
その言葉にペルラは泣きそうになる。例えそうだとしても、お腹が空いている事には変わりないだろう。フィオレを飢えさせる人外なんて、どんな甲斐性なしなんだ、と。
ペルラは一階をグルリと探索しだした。エントランスの階段を通り過ぎて中央、そこにある大きな両開きの扉を開ければ、中は食堂だったのか長いテーブルと等間隔で並べられた椅子。そして美しい装飾の施された燭台が置かれていた。
「ここが食堂なら、近くに厨房があるかも。そこに何か食べられないモノが無いか探そうか」
「そうだね。食べられるのが残っているといいけど」
食べられるモノが残っているか心配するルイに、ペルラは「あのクソ野郎が生活しているのだから、何か必ずあるはずだ」と励まし、探し当てた厨房に行く扉を開ける。そこには吊るされたベーコンの塊も、美味しそうなパンも、温めればまだ食べられそうなスープも残っていた。
「なんだ、食べられそうなの残ってんじゃん。いくつか持っていこう。んで、この残ってんのは食べていこう。何も食べないよりはマシ」
「でも……」
「なに?何か入っているかもって不安?」
「それもあるけど……流石にスープとかは食べたら気づかれちゃうんじゃない?」
「あー、そうかもね。ならここら辺のパンとかベーコンとか貰っていこう。毒が入っていてもオレが匂いで分かるから、入ってないやつ選んであげる」
そう言ってペルラは、持っていけそうな物と持っていけない物とを選別し始めた。そしていくつか見繕った物をルイの元に持って来る。ルイはペルラが持ってきた食料を何故か取りあげられていなかった鞄に詰めるだけ詰めると、2人はパンにベーコンを挟んで腹を満たす。
「さて、次は2階かな。一階には何も無さそうだし」
「2階には何かあるといいね」
「そうね。そろそろなんでもいいから情報が欲しい」
ペルラとルイはエントランスまで戻っていき、階段を登り始める。すると、階段の上の方から足音がし始めた。真っ先にその足音に気づいたのはやはりペルラで、咄嗟にルイを抱え込み階段脇に避け、小さく歌い始めたのだ。突然、歌い始めたペルラに質問しようとしたルイに、ペルラは自分の口元に指を当ててシィっと合図を送る。ペルラの意図が分かったルイは、息を潜め階段の上を緊張した面持ちで見つめた。
コツリコツリ。どんどん近づく足音の主人の正体があらわになる。ルイと少女を攫った人外がゆっくりと階段を降りてきた。見つかるかもしれないと身を固くしたルイに、イタズラっぽく笑いながらペルラは動かない。
2人の存在に気づいていいはずの人外は、けれども2人の存在に気づくことはなく階段を降りきり、食堂への扉に消えていった。ヴェレーノの姿が消えた事を見届けたルイは、詰めていた息を吐き出す。
「はあ。見つかったかと思った」
「ふふ、オレが歌ってるからそこまで感が鋭いやつじゃない限り気づかねぇよ」
「そっか、じゃあいいのかな?二階に行くの?」
「そうだね。あいつが居ねぇなら都合がいい。二階に行くよ」
食堂方面へ行ったヴェレーノに気づかれぬよう、静かにだが素早く階段を上がり二階へと進んでいく。階段を登り切った先にホールがあるが、一階に比べて狭く代わりにいくつかの部屋に分かれている事が分かる。
「部屋がたくさんあるよ、ぺルラ。どこから行く?」
「んー。端から調べてぇとこだけど、いつあのクソ野郎が帰ってくるか分かんねぇし……一番近いとこからいこっか」
「分かった。ねぇぺルラ、服のすそ掴んでていい?」
「そこは手じゃねぇんだ」
「手は……なんか、ふさがってたらダメな気がして。でも何かにすがってないと少し不安」
「ふは、変に遠慮してねぇでおねだりしてご覧?オレが、かぁいい真珠のお願い聞かないわけねぇじゃんね」
優しい眼差しにうながされルイはぺルラの手を弱く握る。それにペルラは強く握り返し、一番近くの部屋のドアを開いた。
叩きつけられた衝撃と、傷口の痛みで意識を失う寸前、ぺルラは細工をしていた。こんなところで死ぬつもりなどもうとう無かったから。
ぺルラの自分の領域にいるから逃げ切れるという油断、そして大事な真珠の反応が近いという焦り、その全てが合わさった結果だった。
「だからこの怪我はオレの自業自得なんだよ。あのクソ野郎がオレを閉じ込めたのは多分目の届くところに置いておきたかったからとかじゃね?」
ぺルラ自身も分からないと首を傾げながらも、ここに閉じ込められるまでをルイに教えてくれていた。あっけらかんと話すぺルラにルイは安心する。そのままぺルラが殺されていたら、ルイと再会することなど一生なかったのだから。
「よかった。ぺルラが殺されないで、もし殺されていたら僕はぺルラと再会できなかった」
ルイの安堵のため息とともに吐き出された言葉に、ぺルラは目を丸くしたのち苦笑する。優しくルイの頭を撫でながら、大丈夫だと悪戯っぽく笑う。
「オレが殺されることはないよ。意識失う前に歌って、あいつの感覚狂わしたから。人魚の歌が惑わしや魅了の効果があるのは有名でしょ」
「知ってるけど……おとぎ話や伝説だけかと思ってた」
「まぁ、素直」
ふざけるペルラにルイは笑う。ルイの笑顔を見たペルラは安心したように微笑み、ルイの頬を撫でる。
「よかった……笑ってくれた」
ぺルラの言葉にルイは気づく。確かにここに連れてこられてから笑っていないかもしれないと。笑えていたとしても、心からの笑顔では無かったはずだ。まがりなりにもヴェレーノの住処にいる事から無意識に顔がこわばっていたのだろう。
ぺルラが居て安心感を得ていたのも事実だが、慣れぬ場所。ましてや死体がある場所に閉じ込められて緊張しないでいるなどできなかった。普通に暮らしていて死体とまみえる事など無いだろうから。
「笑えるようになったなら、動いてもよさそうだね。ここ、地下みたいだからさ。とりあえず地上に出ようか」
「うん。ぺルラが一緒だから大丈夫だよ」
「当たり前でしょ?でも、上に行けばあのクソ野郎とも会うかもだし、慎重にね」
「ふふ。分かった」
ゆっくり立ち上がり、今までいた部屋から出る。ぺルラに手をひかれ、地下から地上へと続く階段を探す。今、二人がいる部屋は出口だろう扉に近いという事は、地下にあった出口は非常口と考えていいだろう。つまりは、地上に出るには非常口の反対側に階段があるはずだ。地下の出口には鍵が掛かていた。ならば、それを開けられる鍵が必ず存在するはず。この地下がヴェレーノにとっての、いらない者を捨てる場所ならば、鍵は地上にあるだろう。脱出するのに必要なら、取りに行くまで。いつまでもここに居る道理も、義理も二人にはない。
暗い道を懐中電灯の明かりだけを頼りに戻っていく。途中、強く鼻に届く血の匂いは気にしないように、ルイの負担が少しでも減る様に、ぺルラは会話をして気を反らす。コツリ、コツリと二人分の足音が響く中、ぺルラの視界の端にボゥっと懐中電灯とは違う明かりが映った。
「ん?ねぇみてルイ。あそこ、なんかあるよ」
「え?どこ」
ぺルラの声に顔を上げたルイは、薄ぼんやりと光る何かが壁に埋まっているのを見た。間違っていなければ、おそらくは地上に行くための階段である可能性が高い。この暗闇の中でほぼ一直線であったが、それはぺルラがルイを誘導したから迷わず真っすぐにこれたのだ。
少し緊張しながら、二人はゆっくりと明かりに向かって歩いていく。近づくにつれてそれは輪郭を現した。岩壁に埋まる形で足元を照らすランプの明かりは、あまり強い明かりではないらしく、うっすらと足元が分かる程度のものだった。けれども無いよりはマシで、二人は階段を上がっていく。途中、懐中電灯の明かりでヴェレーノに気づかれてはいけないと、懐中電灯の明かりを切った。
「……随分、暗いな……これ、ルイには見えてんの?大丈夫?」
「かろうじて見えているかな。足元が分かる程度だけど、無いよりはマシ」
「そっか。なら、こけそうになったら……いや、こけそうにならなくても、オレにつかまってな」
「うん。そうさせてもらう」
ぺルラの申し出に、ルイは有難くぺルラの腕に自身の腕を絡めて支えてもらう。少しもよろけることなく支えられ、階段を上がるのをエスコートしてくれる。階段を上がるだけでエスコートなんて必要ないとルイは思うが、エスコートをしているぺルラ本人が楽しそうなので黙っている事にした。
二人で階段を何事もなく上がり切ると、ぺルラはルイを背中に庇い、階段の上にあるドアの向こうに気配がないか探り始める。
「……多分、誰も居ないと思うけど。一応、オレの近くから離れないでね。ルイ」
「うん。離れないよ」
ゆっくりとドアを開け、周りに人外が居ないか確認すると地下から出る。そこはどうやら階段の下に作られた地下へのドアがあったらしく、目の前には壁。右側からは光が漏れていた。
光が漏れていた右側に行ってみれば、地下への階段があったドアはエントランスの階段の見えない部分だったらしく、吹き抜けのホールと天井からぶら下がっているシャンデリアが美しい。
一階の入り口である玄関を正面に、吹き抜けのエントランスホールがあり、両端には二階へと続く階段が。階段に沿う形で壁とその壁に1つずつ扉がある。右側の階段に沿う扉を開ければ、そこは長い廊下があり等間隔に並んだ扉とその扉へかけられたネームプレートに、そこが使用人のための部屋である事が分かった。左側の扉を開ければ、そこもまた右側と同じく使用人の為の部屋でいっぱいだ。
「……ここってエントランスだったんだね」
「そこに入り口らしき物もあるけど、出れそうにねぇな。鎖でとってがグルグルだし、その鎖に南京錠がかかってる」
「扉自体も凄く重そうな鉄扉だね」
「人間なら、よほど鍛えてないと無理じゃねぇかな」
2階の窓から注ぐ朝日が今の時間を教えてくれている。あのヴェレーノにルイが攫われてから、すでに一日が経過しているのだ。そこでペルラはふと気づく。ルイが一日、何も食べていない事に。ペルラは焦った。人間は何日も食べなければ死んでしまう。何かルイに食べさせなければいけない。その為には食料がいる。探さなければ。
「そういや、何も食べさせてなかったね。ごめんね、人間は何日も食べなかったら死んじゃうんでしょ?」
「いや、一日食べなかったくらいで死んだりはしないよ。ただひもじいだけで」
その言葉にペルラは泣きそうになる。例えそうだとしても、お腹が空いている事には変わりないだろう。フィオレを飢えさせる人外なんて、どんな甲斐性なしなんだ、と。
ペルラは一階をグルリと探索しだした。エントランスの階段を通り過ぎて中央、そこにある大きな両開きの扉を開ければ、中は食堂だったのか長いテーブルと等間隔で並べられた椅子。そして美しい装飾の施された燭台が置かれていた。
「ここが食堂なら、近くに厨房があるかも。そこに何か食べられないモノが無いか探そうか」
「そうだね。食べられるのが残っているといいけど」
食べられるモノが残っているか心配するルイに、ペルラは「あのクソ野郎が生活しているのだから、何か必ずあるはずだ」と励まし、探し当てた厨房に行く扉を開ける。そこには吊るされたベーコンの塊も、美味しそうなパンも、温めればまだ食べられそうなスープも残っていた。
「なんだ、食べられそうなの残ってんじゃん。いくつか持っていこう。んで、この残ってんのは食べていこう。何も食べないよりはマシ」
「でも……」
「なに?何か入っているかもって不安?」
「それもあるけど……流石にスープとかは食べたら気づかれちゃうんじゃない?」
「あー、そうかもね。ならここら辺のパンとかベーコンとか貰っていこう。毒が入っていてもオレが匂いで分かるから、入ってないやつ選んであげる」
そう言ってペルラは、持っていけそうな物と持っていけない物とを選別し始めた。そしていくつか見繕った物をルイの元に持って来る。ルイはペルラが持ってきた食料を何故か取りあげられていなかった鞄に詰めるだけ詰めると、2人はパンにベーコンを挟んで腹を満たす。
「さて、次は2階かな。一階には何も無さそうだし」
「2階には何かあるといいね」
「そうね。そろそろなんでもいいから情報が欲しい」
ペルラとルイはエントランスまで戻っていき、階段を登り始める。すると、階段の上の方から足音がし始めた。真っ先にその足音に気づいたのはやはりペルラで、咄嗟にルイを抱え込み階段脇に避け、小さく歌い始めたのだ。突然、歌い始めたペルラに質問しようとしたルイに、ペルラは自分の口元に指を当ててシィっと合図を送る。ペルラの意図が分かったルイは、息を潜め階段の上を緊張した面持ちで見つめた。
コツリコツリ。どんどん近づく足音の主人の正体があらわになる。ルイと少女を攫った人外がゆっくりと階段を降りてきた。見つかるかもしれないと身を固くしたルイに、イタズラっぽく笑いながらペルラは動かない。
2人の存在に気づいていいはずの人外は、けれども2人の存在に気づくことはなく階段を降りきり、食堂への扉に消えていった。ヴェレーノの姿が消えた事を見届けたルイは、詰めていた息を吐き出す。
「はあ。見つかったかと思った」
「ふふ、オレが歌ってるからそこまで感が鋭いやつじゃない限り気づかねぇよ」
「そっか、じゃあいいのかな?二階に行くの?」
「そうだね。あいつが居ねぇなら都合がいい。二階に行くよ」
食堂方面へ行ったヴェレーノに気づかれぬよう、静かにだが素早く階段を上がり二階へと進んでいく。階段を登り切った先にホールがあるが、一階に比べて狭く代わりにいくつかの部屋に分かれている事が分かる。
「部屋がたくさんあるよ、ぺルラ。どこから行く?」
「んー。端から調べてぇとこだけど、いつあのクソ野郎が帰ってくるか分かんねぇし……一番近いとこからいこっか」
「分かった。ねぇぺルラ、服のすそ掴んでていい?」
「そこは手じゃねぇんだ」
「手は……なんか、ふさがってたらダメな気がして。でも何かにすがってないと少し不安」
「ふは、変に遠慮してねぇでおねだりしてご覧?オレが、かぁいい真珠のお願い聞かないわけねぇじゃんね」
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