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1巻
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気がついたら異世界にいたのは本当だ。何も全てが嘘ではない。聖少女になるつもりなどないんだから、俺はこの人の敵でもないはずだ。なのにどこかうしろめたい思いが消えない。
でもそれは、この人に嘘をつくうしろめたさではなく、フレンシアの人々を救えず、フレンシアの天敵に助けを求めようとしているうしろめたさだ。それでなくても、俺は嘘をつくのは苦手なのだ。けれど黒太子は、明らかに苦しい俺の嘘を聞いて、怪訝そうな表情をすぐに消した。
「では、どこから来たのかもわからないのか? どこへ行こうとしていたのかも?」
その声の色は、心から俺を案じてくれているようだった。根拠はないけれど、俺は自分が嘘をつくのが下手な代わりに人の嘘や下心には敏感だ。第一、俺に偽りの優しさを向けたところで、この人にはなんの得もない。胡散臭いと思った時点で、スパッとやってしまえるんだろうから。
そう思うとやはり少し怖くもなるが、俺は懸命にぶるぶると首を横に振った。
「何も知りません。わかりません」
少なくともこの世界については。
心の中でそう付け足すことによって、嘘をついている意識を自分から消す。そんな努力をするまでもなく、彼に疑う素振りはなかったけれども。
「それは気の毒だな。そうか……、だが、ここはフレンシアとの国境が近い。こんなところをうろうろしていては、また先刻のようなことになっていずれは殺されてしまうぞ」
「でも、行くところがなくて」
フレンシアにはもう戻れない。俺は逃げ出してしまったのだから。それを仮に許されたところで、聖少女になる気などないのだから。これからどうすればいいのか、心底途方に暮れていた。
そんな俺に、黒太子がまた涼やかな笑みを向ける。
「ならば一緒に来るか? ヴァルグランドの地にいる者は、皆私の同胞だ。君の名は? ……名も覚えていないか?」
そう言って、彼は俺に手を差し伸べてくれた。
そして今このときこの瞬間に、俺はフレンシアに戻るという選択肢を心の中から綺麗に消した。フレンシアの人々の期待に満ちた目も、リディアーヌの燃えるような赤い瞳も、全て頭から消えた。
俺はこの世界についても、フレンシアについてもヴァルグランドについても、まだ何も知らない。でも、俺をリディアーヌとしてしか見てくれない場所より、俺の名前を聞いてくれたこの人についていくと今決めた。
「咲良」
このとき、俺は初めて嫌な気分なしに、好きになれない自分の名前を名乗れたんだ。
* * *
黒太子に差し伸べられた手を取って、俺は生まれて初めて馬に乗った。あんまり凄いスピードで走るもんで、思わず悲鳴を上げそうになったが、男としてのプライドで、それはどうにか耐えた。でも気を抜けば振り落とされそうで、必死に黒太子の背にしがみついていたから、俺に余裕がないことは彼にはわかってしまっただろう。我ながら情けなかったが、ポニーくらいしか乗ったことないんだから仕方ない。それも、小さいときに係員さんと一緒にだし。
とにかく馬は素晴らしい速度で大地を駆け、やがて砦が見えてきた。フレンシアのあの砦と造り自体はそんなに変わらなかったが、規模はだいぶ大きい。あのときみたいに大歓声と共に歓迎されるわけではなかったが、黒太子が馬を下りると同時に砦から数人の兵士が出迎える。兵士達はみな黒の軍服の上から鎧を纏うといったいでたちだったが、一人は防具を着けていなかった。
「遅かったな」
そいつが兵士の一人から灯りをひったくり、一番最初に黒太子へと近づいてくる。他の兵士達が恭しく頭を垂れる中で、彼だけは小柄な黒太子を見下ろしてタメ口を吐いた。黒太子に負けず劣らず整った顔をしているが、凛々しくていかにも英雄といった感じの黒太子に比べると、大人しいというか――よく言えば知的な感じだ。因みに俺的に言えば、貧弱で偉そうで、苦手なタイプ。けれど黒太子はそうではないようで、そいつの灯りを受けた彼の顔には友好的な笑みがあった。
「ああ、ただいま、ライ。思わぬ拾いものをしてね」
そう答えながら、黒太子は俺に手を差し伸べて下りるよう促した。その言葉と行動で、ライと呼ばれたその青年が俺へと灯りを向ける。そして、俺を見るやいなや思い切り顔をゆがめた。彼だけではない。後ろにいる兵士達もまた、俺を見て「ひっ」と小さく悲鳴を上げてのけぞる。フレンシアの兵士達とはまるで真逆の反応に、もしや立場がバレたのかと、こめかみに冷や汗が伝った。そんな俺の考えを肯定するように、彼は憎々しげに俺を睨みつけながら、黒太子を怒鳴りつける。
「何を考えているんだ、エドワード! 赤い目はフレンシアの魔女だ。気付かなかったのか!?」
叫び声を聞いて、黒太子も俺を振り返ると、俺の目を覗きこんで少し驚いたような顔をした。違う、人違いだ。そう言いかけて、喉元で押し殺す。何もわからないと主張した後に人違いだなどと言っては、嘘をついているのがバレバレだ。
ようやく話を聞いてくれる人に出会えたという安堵は、驚いたような黒太子の顔を見た瞬間にガラガラと音を立てて崩れた。けど、それは早計で、彼が驚いた顔をしたのは一瞬のことだった。すぐに表情を戻して、知的青年の方へ向き直る。
「らしくないな。魔女など迷信だ」
「馬鹿な。あのフレンシアの魔女に、我が軍がどれほどの被害をこうむったのか忘れたのか!?」
「それは単なる我が国の失策だ。そして彼女が優れた軍人だった、それだけだろう? それに、リディアーヌは我が国で異端裁判にかけられ、魔女などではなく人間だと証明された。そして人々を惑わせ、女性でありながら戦場に立ったとして火刑に処された」
リディアーヌという名前が彼の口から出てどきりとするが、それよりも淡々と語る黒太子の横顔から笑顔が消え、表情を失ったことが気になった。それは知的青年も同じだったようで、彼は黒太子に詰め寄ると険呑な声を上げた。
「まさか、哀れとでも?」
「……まさか。しかし私は、死ぬなら戦場で散りたいものだ」
「馬鹿なことを――」
「おいで、咲良」
黒太子はそれ以上は取り合わず、兵士達に馬を連れていくよう手だけで示し、俺の手を引いて歩き出した。
黒太子について砦の中に入ると、俺とすれ違った人は誰も、ぎょっとしたように俺を見る。そのあとは、じっと冷たい視線を向けてきたり、悲鳴を上げてとびのいたりと様々だが、お世辞にも友好的とは言えない。黒太子が俺の手を引いているから誰も何も言えないみたいだけれど、本当にフレンシアとは真逆の待遇だ。フレンシアに戻りたいとは思わないけど、ここに俺の居場所があるとも到底思えなかった。
そんなことを考えながら居心地の悪さをかみしめていると、やがて黒太子が足を止める。顔を上げると部屋に入るよう促され、俺は彼が開けた扉から部屋の中に入った。中には上質そうな絨毯が敷かれていてとても広く、身分の高い人の部屋みたいだと思って、はっとする。
「私の部屋だ。誰も入ってくることはないから好きにくつろいでくれ。……居心地が悪かっただろう。済まないな」
自分も入室して扉を閉め、黒太子は俺を見て済まなそうな顔をする。やっぱりここは彼の部屋なのかとわかると同時に、俺みたいな不審者をあっさり自分の部屋に入れる彼に驚いた。その上謝ってくれるって、どんだけ人がいいんだろう。
という感心は、次の瞬間打ち砕かれた。
「君には私の側仕えをしてもらおうと思う。丁度、戦に少し疲れていた。一人で夜を過ごすのも寂しく思っていたんだ」
そんな言葉に、びしりと凍りつく。
いきなり見知らぬ世界に落とされて、ピンチを救ってくれたのがものすごいイケメンで、そのイケメンと急接近。俺が女だったなら、凄くよくできたストーリーだっただろう。
しかしそんなティーンズの女の子に受けそうな物語は、俺が男ってことで台なしだ。どんなに女顔でも、名前がさくらでも、哀しいかな俺は正真正銘の男なのだ。けど、そりゃそうだよな。そりゃそうだろう。
俺は十六年間、事あるごとに女と間違われてきた。この人もそうだったからってそれを責めるのは筋違いというものだろう。こちらを見る黒太子の、婦女子という婦女子が黄色い悲鳴を上げそうな整った顔を見ていたら、英雄色を好むという言葉を思い出した。不審者の俺なんか助けてくれて、親切にしてくれて、なんていい人なんだと思っていたのに。
側仕えって。一人の夜が寂しいって。
まさか、俺に、夜伽でもしろって言うのか?
「……? どうした?」
「あ、ああああの! 待って下さい。俺は――」
大いに焦っているところに黒太子に顔を近づけられ、俺は不自然なほど体を反らしてしまった。そして、誤解を解くため慌てて叫ぶ。でも、もしこの人が、男なら用はないと切り捨てるような外道だったらどうしよう。いや、このまま手籠めにされてしまうなら、即処分の方がいくらかマシかもしれない。真剣にそんなことを悩んでいると、彼は俺の様子で察してくれたようだった。
「心配せずとも変な意味ではない。最初は給仕場か洗濯場にと考えていたが、あの雰囲気の中では辛かろう。大丈夫だ、側仕えといっても話相手になってくれればそれで構わぬ」
察してくれたのは嬉しいし、心配したような事態にならなかったのもよかった。でもやっぱり、誤解は解いておくにこしたことはない。そんなわけで口を挟むタイミングを窺うのだが、それがなかなか掴めない。
「ヴァルグランドでは、赤い目は魔女の証などという戯言が飛び交っている。皆が君を冷遇するのもそのせいだ。だが私は魔女など信じてはおらぬ」
つい、と彼は目を逸らすと、窓の向こうへと視線を移した。そのため、彼がどんな表情をしているのかはわからない。けれど穏やかな声には、その穏やかさとは正反対の感情が見えた気がして、無意識に息を呑む。それは試合で強い奴と当たったときの緊張に似ていたけれど、今感じるプレッシャーはそれとは比較にならない。
この人、多分相当強い。
助けてもらったときは余裕がなくて何も考えられなかったけれど、兵士達が素直に引いていった理由がわかった。そして、今俺が、あのときの兵士達のように、彼に闘志を叩きつけられているのだということにも気付く。
「そのような迷信のために血が流れるのを私は好まぬ。だから、忘れるな咲良。君を斬るのは容易い。だが私にそのようなことはさせないでくれないか。もし少しでも、助けたことに恩を感じてくれるなら」
その言葉で、どうして彼がそんなことをしたのかも理解した。悪く言えばそれは脅しだったのだろうけれど、そう呼ぶには、振り向いた彼の顔はあまりに悲しかった。そして俺が頷くと、ほっとしたように笑う。
――やっぱり、この人いい人なんだと思う。
その直感を俺は信じることにした。ここまで気を許してくれるのは、女性だと思って油断しているのもあるだろうけど、男だと知ってもきっと悪いようにはされないだろう。そう思って再び口を開くが、唐突に開いた扉の音にその先は阻まれた。
「何をしている、エドワード。軍議の時間だぞ」
「ノックぐらいしないか、ライ」
現れたのはさっきの青年だった。ずかずかと無遠慮に部屋に入ってくる彼を見て、さすがに黒太子も温厚そうな顔を歪める。けれどやっぱり怒ることはなく、「今行く」と返した。だが行きかけて、彼は足を止めると俺の方を振り返る。
「咲良、紹介しておく。彼はライオネル、私の弟だ」
ああなるほど、偉そうだと思ったら身内だったのか。とか思っていたら、知的な青年――ライオネルに思い切り睨まれた。どうやら俺はこの弟さんに物凄く嫌われているみたいだ。いや、多分彼だけじゃなく、この砦の皆に俺は嫌われているんだろうけど。
「愛想もないし態度も悪いがいい奴なんだ。悪く思わないでやってくれ。ライ、彼女は咲良だ。私の側仕えにと思っている」
黒太子がそう続けると、ライオネルはその睨みを彼へと移した。俺が嫌われているのは間違いないが、もしかしたらこの人は誰にでもこうなのかもしれない。愛想も態度も悪い奴は俺の中ではいい奴にはならないけど、黒太子がそう言うので俺はとりあえず頷いた。それで、黒太子もほっとしたように微笑む。なんというか、対照的な兄弟だ。
しかし側仕えになどと言い出したらもっと怒るかと思ったのに、睨まれただけで終わったのは意外だった。それと同時にほっとする。敵意を向けられるのは気持ちのよいものではないから。……黒太子が俺を指す呼称に「彼女」を使ったことは突っ込まないことにしておく。うん、わかっていたさ。
「それから、私の名はエドワードだ。皆は黒太子と呼ぶが好きに呼んでくれて構わない。では軍議に行ってくるが、咲良。この部屋からは出ない方がいいだろう。なるべく早く戻る」
黒太子がそう言い残し、二人は退室していった。そして静寂だけが残される。
ようやく落ち着けると思ってほっとしたら、腹が情けない音を立てた。育ちざかりの俺にとっては一食抜くのも死活問題だ。黒太子が戻ってきたら頼んでみようかとも思ったけれど、助けてもらっておいて厚かましいのも否めない。やっぱり朝まで待ってみようかなどと考えていたが、そんな呑気なことを考えている場合ではなかった。
――俺はフレンシアを逃げ出して、それですべてから逃げられた気になっていた。だけど、それはとんだ勘違いで、本当は何ひとつ解決などしていなかったのだ。浅はかな俺を嘲笑うかのように、けれど実際はなんの感情もない冷たい声が、俺の頭の中に響き渡ったのはそのときだった。
『フレンシアを逃げ出しても、運命からは逃げられませんよ』
全てを見透かしたような言葉に、体が竦んだ。前と同じようにぐにゃりと部屋が歪み、俺と赤い瞳の少女を残して景色が溶ける。逃げ出した罪悪感が大きくなって俺にのしかかるけれど、その一方で、なんで罪悪感など持たねばならないのかと、この理不尽に憤る俺がいる。
「――俺はフレンシアには戻らない!」
その憤りのままに叫ぶ。でも、彼女が俺に要求したことはそんなことではなかった。
「こうなったのも神のお導きでしょう。これはあの憎き黒太子を討つ絶好の機会。神がお与え下さった好機です」
相変わらずリディアーヌは感情をほとんど見せなかったが、その声は興奮を隠しきれなかった。けれど俺はそれとは逆に、すっと体が冷えていく。
黒太子を討つ――俺を助けてくれたあの人を?
「……なんで……?」
「何故とは愚問。彼はヴァルグランドの英雄、即ち、我らの倒すべき宿敵です。彼を討つことこそ我らの使命といっても過言ではありません」
――そんな。
恩人に牙を剥くことが、俺の使命だって? そんな皮肉な話はない。
けれどフレンシアの人々にとっても皮肉な話だ。自分達を救うはずの聖少女が、敵国の英雄に救われるなんて。
神の導きとリディアーヌは言ったけど、本当にこれが神が仕組んだことだというなら、この世界の神はとんでもない性悪だ。
「そんなこと、できない。それに俺には、あの人がそんなに悪い人には見えな――」
「何を愚かなことを! あの者のために、どれほどの同胞が血を流し旅立ったことか! 彼こそ我らの憎むべき敵、黒の悪魔なのです!」
珍しくリディアーヌが激昂する。俺の言葉は、フレンシアの聖少女たる彼女には許せないものだったのだろう。赤い瞳が火を噴き零しそうに、激しく燃える。
「でも、それは……戦争なんだからお互い様じゃないか。あんただって戦場に行って、ヴァルグランドと戦ったんだろう?」
だからこそ、この国の人は俺を魔女だと謗る。フレンシアにとってあの人が黒い悪魔であるなら、ヴァルグランドにとってはリディアーヌこそが憎むべき、赤い目の魔女なのだ。それは第三者の俺から見れば酷く不毛だったが、そんな理屈は多分リディアーヌには通じない。
「当然です。この戦をフレンシアの勝利に導くことこそが、わたしの使命なのですから」
誇らしげに彼女は胸を張る。
「自軍を攻撃されると怒るくせに、自分がそれをすることは当然なのか?」
「ええ。正義は我らに、神も我らにあるのだから」
一分の迷いもなく言い切る彼女は、神々しくすらあった。彼女の言葉は正しいのかもしれないと、思わず考え込んでしまうほどに。そんな彼女が、今更俺なんかの言葉に揺らぐはずもない。そうでなければ、こんな俺とそう変わらない歳のうちから命を懸けて戦い、死んでなお戦い続けたりしないだろう。
俺はこの戦争の原因を知らないどころか、フレンシアという国についてもヴァルグランドという国についても何も知らない。同様に、リディアーヌのことも黒太子のことも知らない。でも知ったところで、どちらが正しいなんて決めることはできないし、決めたところで、それは俺のものさしで計ったにすぎないことだ。そんなあやふやな正義のために人を殺すほどの信念なんて、俺にはない。
「リディアーヌ、頼む。元の世界に帰してくれ。俺は何もできないよ。俺は聖少女じゃないし、戦争なんてできない。だって、俺が住んでいたところには戦争なんてなかったんだ」
「黒太子を葬るのです」
「できない!!」
全身を振り絞るように叫ぶと、またパンッと耳の奥で何かが弾けるような音がして、リディアーヌの姿は消えた。
あのときも、精いっぱいの拒絶を示すことで、彼女との対話を終わらせることができた。彼女が話しかけてくるのは唐突だけど、それを続けるかどうかはまだ俺の意志が働くみたいだ。でも、俺の中にリディアーヌがいることには変わりはない。
姿が消えても、声が聞こえなくなっても、簡単にあの冷たい声は頭によみがえる。
――黒太子を葬るのです。
そう囁く声が、何度も。
けどそれは、突然開いた扉の音に振り払われた。でもそれを素直に有難いとは思えそうにもないのは、その向こうに現れたライオネルが、ありったけの負の感情をかき集めたような憤怒の形相で立っていたからだった。殺気とでも言うのだろうか、突き刺さるような悪意をひしひしと感じる。一難去ってまた一難とはこういうことを言うのだろう。
「えっと……忘れ物ですか?」
違うっていうのは顔を見ればわかるけど。とぼけてみたら、さらに物凄い形相で睨まれた。
「忘れ物? ああ、お前に引導を渡すのを忘れていたからな、この魔女め」
上手い冗談でも言ったつもりなのか、ライオネルが口の端を上げて笑う。ただし目は全く笑っていない。そんな凄惨な表情で、彼は懐から短剣を取り出して、抜いた。抜いたよこの人。
「エドワードは貴様に誘惑されたりしない。だが、あいつは甘い。だからエドワードに手出しする者は僕が排除する」
完全に目が据わっている。所謂ブラコンってやつなんだろうか。そりゃ、誘惑されたりはしないだろうさ、だって俺男だもん。当然だけどそんなつもりは全くないし、そもそもそんな技は持っていない。リディアーヌとの会話を聞かれていたのかと内心焦ったけど、そうではなく、とんだ言いがかりだった。
しかし状況が切羽詰まっているのには変わりなく、俺が何を言ったって聞いてくれそうな気配はない。一歩ライオネルが距離を詰め、それに合わせて一歩後退する。そのとき、俺にはわかったことがあった。
この人……、弱い……
さすがに刃物を向けられると緊張するが、怖いとは感じなかった。腰が引けちゃってるし、持ち方も構えも素人だ。俺だってプロじゃないけど、そんな俺にもわかってしまうくらい、この人は戦い慣れてない。
『そう。あなたの敵ではないわ。倒しておしまいなさい』
けれど唐突に声が響いて、俺は思い切り隙を作ってしまった。それでも、短剣を持って突進してくるライオネルの攻撃を、すんでのところでかわす。本当にぎりぎりで、頬が少し切れてしまった。途端、ぴり、とした痺れが走る。――もしかして刃に何か塗っているのだろうか。そんな俺の危惧を肯定するように、ライオネルがにやりと笑った。慌てて俺は頬を拭うと、彼の方へ意識を集中する。……そうだな、戦えないことは本人が一番よく知っているはずだ。それくらいの策は立てるだろう。
少しの傷が致命傷になる。刃物を持っている相手に最初から油断はしていないけれど、さっきよりも緊張が増す。なのに。
『さあ、早く』
どく、と鼓動が強く打つ。こんなときに――
舌打ちしたい衝動に駆られながら、やみくもに振り下ろされる短剣をどうにかかわしてライオネルと距離を取る。だけどどうすればいいかわからない。
この人を取り押さえることはできるけれど、そんなことをしたらますます俺の立場は悪くなる気がする。それに、この人は恩人の弟だ。迷う俺をたきつけるように、声は響き続ける。
『戦い、葬るのです。憎きヴァルグランドの血を。そして――憎き、黒太子を』
「うわあああああああ!」
囁くように告げるリディアーヌの声が全身を駆け抜けて、俺を縛りつける。それを振り払おうとする俺の悲鳴に答えるように、荒々しく部屋のドアが開いた。
「咲良!」
天の助けのような黒太子の声が聞こえ、彼が抜いた剣が、今まさに俺を貫こうとしていた短剣を弾き飛ばす。
「何をするんだ、ライ!」
「目をさませ、エドワード。お前は魔女に惑わされているんだ!」
「落ち着かないか。仮に魔女だとして、私が籠絡されることなどあり得ない。お前ならわかるだろう」
ヒステリックに叫ぶライオネルを落ち着かせるように、黒太子が冷静な声を紡ぐ。それでライオネルも、一応は我に返ったのだろう。しばらく肩を上下させて荒い息をついていたが、それをおさめるように長く深い息を吐き出した。
「戦況も落ち着いている。軍議は朝でもいいだろう。兵にそう伝えてお前も部屋で休め」
ライオネルは不満そうに黒太子を見上げたが、有無を言わせぬ色をその声に見てとり、諦めたように顔を伏せると、のろのろと退室していった。だが去り際に俺に睨みをよこすのは忘れない。
扉が閉まる音に、ようやく俺も安堵の息をつく。本当に、この一日で何度命の危機を感じたことか。ぐったりするが、すぐ傍に気配を感じた瞬間俺の脳裏に声がよみがえった。
『黒太子を葬るのです』
それは、実際に声が響いたわけじゃなくて、単なる記憶の再生にすぎないけれど。
ビクリと肩が跳ねる。だが、頬に触れた黒太子の手の温もりに、緊張もリディアーヌの声も一緒に溶けた。
「済まない、咲良。大丈夫か」
思い出したように、微かな痛みを感じる。頬の傷だろう。もう血は止まっただろうけど。
「……本当に済まない。かつてこのヴァルグランドは、フレンシアのリディアーヌという少女が率いた軍によって大打撃を受けた。その少女が赤い瞳だったのだ。だから、この国は赤い瞳の少女に神経質になる……、そんなこと、君には納得できないだろうけど」
間近で見た黒太子の瞳は、よく見たら黒ではなく深い群青色だった。その瞳は済まなそうに伏せられたけど、俺はそれでも目を逸らさずにいられなかった。
嘘なんてついてない。俺はリディアーヌじゃない。ないのに――
俺の中には確かにリディアーヌがいる。それを嫌でも思い知らされたばかりだ。
いつか、俺はリディアーヌになるのだろうか。そうしたら、この俺を助けてくれた人を、俺は傷つけることになるのだろうか。
と、俺はかなり真剣に思い詰めていた。重ねて言うけれど、俺は本当に真剣だったんだ。本当だ。
なのに、いくらそれを強調したところで万人が信じてくれないであろう間の抜けた音を、俺の腹は鳴らしたのであった。
伏せられた黒太子の瞳が、俺の目の前で数度ぱちぱちと瞬かれる。そして、おかしそうに声を出してふふっと笑った。
「随分と食べていなかったようだな」
いや、実際は一食抜いただけなんだけど。
「今用意させよう。だがその前に着替えた方がいい。君の服、少し変わっているから」
恥ずかしくて顔を上げられない俺に、そんなことを言いながら黒太子が服を差し出してくれる。わざわざ貰ってきてくれたのだろうか。多分偉い人なのに、俺なんかのために色々してくれて申し訳ない。
確かに、学ランはこの世界で浮いていた。でも多分、この黒い学ランのお陰で俺は黒太子の軍と間違われたんだろう。それで黒太子に助けてもらったんだから、ブレザーでなくてよかった。しかしその学ランも、いきなり屋上から戦場におっこちたり、森の中を全力疾走したりしてヨレヨレだ。それにこれ以上目立ちたくないし、俺は素直に礼を言って着替えを受け取った。
「軍議もないことだし、私も着替える。それが終わったら夕食にしよう」
そう言って黒太子が奥の部屋に行ってしまったので、俺は学ランを脱ぎ捨て、貰った服を広げた。……若干、嫌な予感はしていたんだけど。その予感を裏切らず、服は女物だった。
少し悩んだけれど、タイミングとしては丁度いい。そう思って、俺は上半身裸のまま奥の扉を開けた。いや――開けてしまったのだ。
「あの、すみませ――」
俺の言葉は途中で途切れた。驚愕したように黒太子が固まったのは、「見た」からか、「見られた」からか。あるいはそのどちらもだったかもしれないが、それ以上に驚いていたのは多分……俺の方で。持っていた服が、ぼとりと手から落ちる。
頼りないランプの光は、充分に明るいとは言えなかったけれど、それでも間違いようもない。だって上着を全て脱ぎ捨てた、最悪のタイミングで入室してしまったから。
ランプに照らされたその体はどう見ても――女の子で。
『うわああああああ!?』
一拍おいて、我に返った俺達の叫び声は綺麗に重なった。
でもそれは、この人に嘘をつくうしろめたさではなく、フレンシアの人々を救えず、フレンシアの天敵に助けを求めようとしているうしろめたさだ。それでなくても、俺は嘘をつくのは苦手なのだ。けれど黒太子は、明らかに苦しい俺の嘘を聞いて、怪訝そうな表情をすぐに消した。
「では、どこから来たのかもわからないのか? どこへ行こうとしていたのかも?」
その声の色は、心から俺を案じてくれているようだった。根拠はないけれど、俺は自分が嘘をつくのが下手な代わりに人の嘘や下心には敏感だ。第一、俺に偽りの優しさを向けたところで、この人にはなんの得もない。胡散臭いと思った時点で、スパッとやってしまえるんだろうから。
そう思うとやはり少し怖くもなるが、俺は懸命にぶるぶると首を横に振った。
「何も知りません。わかりません」
少なくともこの世界については。
心の中でそう付け足すことによって、嘘をついている意識を自分から消す。そんな努力をするまでもなく、彼に疑う素振りはなかったけれども。
「それは気の毒だな。そうか……、だが、ここはフレンシアとの国境が近い。こんなところをうろうろしていては、また先刻のようなことになっていずれは殺されてしまうぞ」
「でも、行くところがなくて」
フレンシアにはもう戻れない。俺は逃げ出してしまったのだから。それを仮に許されたところで、聖少女になる気などないのだから。これからどうすればいいのか、心底途方に暮れていた。
そんな俺に、黒太子がまた涼やかな笑みを向ける。
「ならば一緒に来るか? ヴァルグランドの地にいる者は、皆私の同胞だ。君の名は? ……名も覚えていないか?」
そう言って、彼は俺に手を差し伸べてくれた。
そして今このときこの瞬間に、俺はフレンシアに戻るという選択肢を心の中から綺麗に消した。フレンシアの人々の期待に満ちた目も、リディアーヌの燃えるような赤い瞳も、全て頭から消えた。
俺はこの世界についても、フレンシアについてもヴァルグランドについても、まだ何も知らない。でも、俺をリディアーヌとしてしか見てくれない場所より、俺の名前を聞いてくれたこの人についていくと今決めた。
「咲良」
このとき、俺は初めて嫌な気分なしに、好きになれない自分の名前を名乗れたんだ。
* * *
黒太子に差し伸べられた手を取って、俺は生まれて初めて馬に乗った。あんまり凄いスピードで走るもんで、思わず悲鳴を上げそうになったが、男としてのプライドで、それはどうにか耐えた。でも気を抜けば振り落とされそうで、必死に黒太子の背にしがみついていたから、俺に余裕がないことは彼にはわかってしまっただろう。我ながら情けなかったが、ポニーくらいしか乗ったことないんだから仕方ない。それも、小さいときに係員さんと一緒にだし。
とにかく馬は素晴らしい速度で大地を駆け、やがて砦が見えてきた。フレンシアのあの砦と造り自体はそんなに変わらなかったが、規模はだいぶ大きい。あのときみたいに大歓声と共に歓迎されるわけではなかったが、黒太子が馬を下りると同時に砦から数人の兵士が出迎える。兵士達はみな黒の軍服の上から鎧を纏うといったいでたちだったが、一人は防具を着けていなかった。
「遅かったな」
そいつが兵士の一人から灯りをひったくり、一番最初に黒太子へと近づいてくる。他の兵士達が恭しく頭を垂れる中で、彼だけは小柄な黒太子を見下ろしてタメ口を吐いた。黒太子に負けず劣らず整った顔をしているが、凛々しくていかにも英雄といった感じの黒太子に比べると、大人しいというか――よく言えば知的な感じだ。因みに俺的に言えば、貧弱で偉そうで、苦手なタイプ。けれど黒太子はそうではないようで、そいつの灯りを受けた彼の顔には友好的な笑みがあった。
「ああ、ただいま、ライ。思わぬ拾いものをしてね」
そう答えながら、黒太子は俺に手を差し伸べて下りるよう促した。その言葉と行動で、ライと呼ばれたその青年が俺へと灯りを向ける。そして、俺を見るやいなや思い切り顔をゆがめた。彼だけではない。後ろにいる兵士達もまた、俺を見て「ひっ」と小さく悲鳴を上げてのけぞる。フレンシアの兵士達とはまるで真逆の反応に、もしや立場がバレたのかと、こめかみに冷や汗が伝った。そんな俺の考えを肯定するように、彼は憎々しげに俺を睨みつけながら、黒太子を怒鳴りつける。
「何を考えているんだ、エドワード! 赤い目はフレンシアの魔女だ。気付かなかったのか!?」
叫び声を聞いて、黒太子も俺を振り返ると、俺の目を覗きこんで少し驚いたような顔をした。違う、人違いだ。そう言いかけて、喉元で押し殺す。何もわからないと主張した後に人違いだなどと言っては、嘘をついているのがバレバレだ。
ようやく話を聞いてくれる人に出会えたという安堵は、驚いたような黒太子の顔を見た瞬間にガラガラと音を立てて崩れた。けど、それは早計で、彼が驚いた顔をしたのは一瞬のことだった。すぐに表情を戻して、知的青年の方へ向き直る。
「らしくないな。魔女など迷信だ」
「馬鹿な。あのフレンシアの魔女に、我が軍がどれほどの被害をこうむったのか忘れたのか!?」
「それは単なる我が国の失策だ。そして彼女が優れた軍人だった、それだけだろう? それに、リディアーヌは我が国で異端裁判にかけられ、魔女などではなく人間だと証明された。そして人々を惑わせ、女性でありながら戦場に立ったとして火刑に処された」
リディアーヌという名前が彼の口から出てどきりとするが、それよりも淡々と語る黒太子の横顔から笑顔が消え、表情を失ったことが気になった。それは知的青年も同じだったようで、彼は黒太子に詰め寄ると険呑な声を上げた。
「まさか、哀れとでも?」
「……まさか。しかし私は、死ぬなら戦場で散りたいものだ」
「馬鹿なことを――」
「おいで、咲良」
黒太子はそれ以上は取り合わず、兵士達に馬を連れていくよう手だけで示し、俺の手を引いて歩き出した。
黒太子について砦の中に入ると、俺とすれ違った人は誰も、ぎょっとしたように俺を見る。そのあとは、じっと冷たい視線を向けてきたり、悲鳴を上げてとびのいたりと様々だが、お世辞にも友好的とは言えない。黒太子が俺の手を引いているから誰も何も言えないみたいだけれど、本当にフレンシアとは真逆の待遇だ。フレンシアに戻りたいとは思わないけど、ここに俺の居場所があるとも到底思えなかった。
そんなことを考えながら居心地の悪さをかみしめていると、やがて黒太子が足を止める。顔を上げると部屋に入るよう促され、俺は彼が開けた扉から部屋の中に入った。中には上質そうな絨毯が敷かれていてとても広く、身分の高い人の部屋みたいだと思って、はっとする。
「私の部屋だ。誰も入ってくることはないから好きにくつろいでくれ。……居心地が悪かっただろう。済まないな」
自分も入室して扉を閉め、黒太子は俺を見て済まなそうな顔をする。やっぱりここは彼の部屋なのかとわかると同時に、俺みたいな不審者をあっさり自分の部屋に入れる彼に驚いた。その上謝ってくれるって、どんだけ人がいいんだろう。
という感心は、次の瞬間打ち砕かれた。
「君には私の側仕えをしてもらおうと思う。丁度、戦に少し疲れていた。一人で夜を過ごすのも寂しく思っていたんだ」
そんな言葉に、びしりと凍りつく。
いきなり見知らぬ世界に落とされて、ピンチを救ってくれたのがものすごいイケメンで、そのイケメンと急接近。俺が女だったなら、凄くよくできたストーリーだっただろう。
しかしそんなティーンズの女の子に受けそうな物語は、俺が男ってことで台なしだ。どんなに女顔でも、名前がさくらでも、哀しいかな俺は正真正銘の男なのだ。けど、そりゃそうだよな。そりゃそうだろう。
俺は十六年間、事あるごとに女と間違われてきた。この人もそうだったからってそれを責めるのは筋違いというものだろう。こちらを見る黒太子の、婦女子という婦女子が黄色い悲鳴を上げそうな整った顔を見ていたら、英雄色を好むという言葉を思い出した。不審者の俺なんか助けてくれて、親切にしてくれて、なんていい人なんだと思っていたのに。
側仕えって。一人の夜が寂しいって。
まさか、俺に、夜伽でもしろって言うのか?
「……? どうした?」
「あ、ああああの! 待って下さい。俺は――」
大いに焦っているところに黒太子に顔を近づけられ、俺は不自然なほど体を反らしてしまった。そして、誤解を解くため慌てて叫ぶ。でも、もしこの人が、男なら用はないと切り捨てるような外道だったらどうしよう。いや、このまま手籠めにされてしまうなら、即処分の方がいくらかマシかもしれない。真剣にそんなことを悩んでいると、彼は俺の様子で察してくれたようだった。
「心配せずとも変な意味ではない。最初は給仕場か洗濯場にと考えていたが、あの雰囲気の中では辛かろう。大丈夫だ、側仕えといっても話相手になってくれればそれで構わぬ」
察してくれたのは嬉しいし、心配したような事態にならなかったのもよかった。でもやっぱり、誤解は解いておくにこしたことはない。そんなわけで口を挟むタイミングを窺うのだが、それがなかなか掴めない。
「ヴァルグランドでは、赤い目は魔女の証などという戯言が飛び交っている。皆が君を冷遇するのもそのせいだ。だが私は魔女など信じてはおらぬ」
つい、と彼は目を逸らすと、窓の向こうへと視線を移した。そのため、彼がどんな表情をしているのかはわからない。けれど穏やかな声には、その穏やかさとは正反対の感情が見えた気がして、無意識に息を呑む。それは試合で強い奴と当たったときの緊張に似ていたけれど、今感じるプレッシャーはそれとは比較にならない。
この人、多分相当強い。
助けてもらったときは余裕がなくて何も考えられなかったけれど、兵士達が素直に引いていった理由がわかった。そして、今俺が、あのときの兵士達のように、彼に闘志を叩きつけられているのだということにも気付く。
「そのような迷信のために血が流れるのを私は好まぬ。だから、忘れるな咲良。君を斬るのは容易い。だが私にそのようなことはさせないでくれないか。もし少しでも、助けたことに恩を感じてくれるなら」
その言葉で、どうして彼がそんなことをしたのかも理解した。悪く言えばそれは脅しだったのだろうけれど、そう呼ぶには、振り向いた彼の顔はあまりに悲しかった。そして俺が頷くと、ほっとしたように笑う。
――やっぱり、この人いい人なんだと思う。
その直感を俺は信じることにした。ここまで気を許してくれるのは、女性だと思って油断しているのもあるだろうけど、男だと知ってもきっと悪いようにはされないだろう。そう思って再び口を開くが、唐突に開いた扉の音にその先は阻まれた。
「何をしている、エドワード。軍議の時間だぞ」
「ノックぐらいしないか、ライ」
現れたのはさっきの青年だった。ずかずかと無遠慮に部屋に入ってくる彼を見て、さすがに黒太子も温厚そうな顔を歪める。けれどやっぱり怒ることはなく、「今行く」と返した。だが行きかけて、彼は足を止めると俺の方を振り返る。
「咲良、紹介しておく。彼はライオネル、私の弟だ」
ああなるほど、偉そうだと思ったら身内だったのか。とか思っていたら、知的な青年――ライオネルに思い切り睨まれた。どうやら俺はこの弟さんに物凄く嫌われているみたいだ。いや、多分彼だけじゃなく、この砦の皆に俺は嫌われているんだろうけど。
「愛想もないし態度も悪いがいい奴なんだ。悪く思わないでやってくれ。ライ、彼女は咲良だ。私の側仕えにと思っている」
黒太子がそう続けると、ライオネルはその睨みを彼へと移した。俺が嫌われているのは間違いないが、もしかしたらこの人は誰にでもこうなのかもしれない。愛想も態度も悪い奴は俺の中ではいい奴にはならないけど、黒太子がそう言うので俺はとりあえず頷いた。それで、黒太子もほっとしたように微笑む。なんというか、対照的な兄弟だ。
しかし側仕えになどと言い出したらもっと怒るかと思ったのに、睨まれただけで終わったのは意外だった。それと同時にほっとする。敵意を向けられるのは気持ちのよいものではないから。……黒太子が俺を指す呼称に「彼女」を使ったことは突っ込まないことにしておく。うん、わかっていたさ。
「それから、私の名はエドワードだ。皆は黒太子と呼ぶが好きに呼んでくれて構わない。では軍議に行ってくるが、咲良。この部屋からは出ない方がいいだろう。なるべく早く戻る」
黒太子がそう言い残し、二人は退室していった。そして静寂だけが残される。
ようやく落ち着けると思ってほっとしたら、腹が情けない音を立てた。育ちざかりの俺にとっては一食抜くのも死活問題だ。黒太子が戻ってきたら頼んでみようかとも思ったけれど、助けてもらっておいて厚かましいのも否めない。やっぱり朝まで待ってみようかなどと考えていたが、そんな呑気なことを考えている場合ではなかった。
――俺はフレンシアを逃げ出して、それですべてから逃げられた気になっていた。だけど、それはとんだ勘違いで、本当は何ひとつ解決などしていなかったのだ。浅はかな俺を嘲笑うかのように、けれど実際はなんの感情もない冷たい声が、俺の頭の中に響き渡ったのはそのときだった。
『フレンシアを逃げ出しても、運命からは逃げられませんよ』
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「――俺はフレンシアには戻らない!」
その憤りのままに叫ぶ。でも、彼女が俺に要求したことはそんなことではなかった。
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相変わらずリディアーヌは感情をほとんど見せなかったが、その声は興奮を隠しきれなかった。けれど俺はそれとは逆に、すっと体が冷えていく。
黒太子を討つ――俺を助けてくれたあの人を?
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「何故とは愚問。彼はヴァルグランドの英雄、即ち、我らの倒すべき宿敵です。彼を討つことこそ我らの使命といっても過言ではありません」
――そんな。
恩人に牙を剥くことが、俺の使命だって? そんな皮肉な話はない。
けれどフレンシアの人々にとっても皮肉な話だ。自分達を救うはずの聖少女が、敵国の英雄に救われるなんて。
神の導きとリディアーヌは言ったけど、本当にこれが神が仕組んだことだというなら、この世界の神はとんでもない性悪だ。
「そんなこと、できない。それに俺には、あの人がそんなに悪い人には見えな――」
「何を愚かなことを! あの者のために、どれほどの同胞が血を流し旅立ったことか! 彼こそ我らの憎むべき敵、黒の悪魔なのです!」
珍しくリディアーヌが激昂する。俺の言葉は、フレンシアの聖少女たる彼女には許せないものだったのだろう。赤い瞳が火を噴き零しそうに、激しく燃える。
「でも、それは……戦争なんだからお互い様じゃないか。あんただって戦場に行って、ヴァルグランドと戦ったんだろう?」
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「当然です。この戦をフレンシアの勝利に導くことこそが、わたしの使命なのですから」
誇らしげに彼女は胸を張る。
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一分の迷いもなく言い切る彼女は、神々しくすらあった。彼女の言葉は正しいのかもしれないと、思わず考え込んでしまうほどに。そんな彼女が、今更俺なんかの言葉に揺らぐはずもない。そうでなければ、こんな俺とそう変わらない歳のうちから命を懸けて戦い、死んでなお戦い続けたりしないだろう。
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「リディアーヌ、頼む。元の世界に帰してくれ。俺は何もできないよ。俺は聖少女じゃないし、戦争なんてできない。だって、俺が住んでいたところには戦争なんてなかったんだ」
「黒太子を葬るのです」
「できない!!」
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姿が消えても、声が聞こえなくなっても、簡単にあの冷たい声は頭によみがえる。
――黒太子を葬るのです。
そう囁く声が、何度も。
けどそれは、突然開いた扉の音に振り払われた。でもそれを素直に有難いとは思えそうにもないのは、その向こうに現れたライオネルが、ありったけの負の感情をかき集めたような憤怒の形相で立っていたからだった。殺気とでも言うのだろうか、突き刺さるような悪意をひしひしと感じる。一難去ってまた一難とはこういうことを言うのだろう。
「えっと……忘れ物ですか?」
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「忘れ物? ああ、お前に引導を渡すのを忘れていたからな、この魔女め」
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「エドワードは貴様に誘惑されたりしない。だが、あいつは甘い。だからエドワードに手出しする者は僕が排除する」
完全に目が据わっている。所謂ブラコンってやつなんだろうか。そりゃ、誘惑されたりはしないだろうさ、だって俺男だもん。当然だけどそんなつもりは全くないし、そもそもそんな技は持っていない。リディアーヌとの会話を聞かれていたのかと内心焦ったけど、そうではなく、とんだ言いがかりだった。
しかし状況が切羽詰まっているのには変わりなく、俺が何を言ったって聞いてくれそうな気配はない。一歩ライオネルが距離を詰め、それに合わせて一歩後退する。そのとき、俺にはわかったことがあった。
この人……、弱い……
さすがに刃物を向けられると緊張するが、怖いとは感じなかった。腰が引けちゃってるし、持ち方も構えも素人だ。俺だってプロじゃないけど、そんな俺にもわかってしまうくらい、この人は戦い慣れてない。
『そう。あなたの敵ではないわ。倒しておしまいなさい』
けれど唐突に声が響いて、俺は思い切り隙を作ってしまった。それでも、短剣を持って突進してくるライオネルの攻撃を、すんでのところでかわす。本当にぎりぎりで、頬が少し切れてしまった。途端、ぴり、とした痺れが走る。――もしかして刃に何か塗っているのだろうか。そんな俺の危惧を肯定するように、ライオネルがにやりと笑った。慌てて俺は頬を拭うと、彼の方へ意識を集中する。……そうだな、戦えないことは本人が一番よく知っているはずだ。それくらいの策は立てるだろう。
少しの傷が致命傷になる。刃物を持っている相手に最初から油断はしていないけれど、さっきよりも緊張が増す。なのに。
『さあ、早く』
どく、と鼓動が強く打つ。こんなときに――
舌打ちしたい衝動に駆られながら、やみくもに振り下ろされる短剣をどうにかかわしてライオネルと距離を取る。だけどどうすればいいかわからない。
この人を取り押さえることはできるけれど、そんなことをしたらますます俺の立場は悪くなる気がする。それに、この人は恩人の弟だ。迷う俺をたきつけるように、声は響き続ける。
『戦い、葬るのです。憎きヴァルグランドの血を。そして――憎き、黒太子を』
「うわあああああああ!」
囁くように告げるリディアーヌの声が全身を駆け抜けて、俺を縛りつける。それを振り払おうとする俺の悲鳴に答えるように、荒々しく部屋のドアが開いた。
「咲良!」
天の助けのような黒太子の声が聞こえ、彼が抜いた剣が、今まさに俺を貫こうとしていた短剣を弾き飛ばす。
「何をするんだ、ライ!」
「目をさませ、エドワード。お前は魔女に惑わされているんだ!」
「落ち着かないか。仮に魔女だとして、私が籠絡されることなどあり得ない。お前ならわかるだろう」
ヒステリックに叫ぶライオネルを落ち着かせるように、黒太子が冷静な声を紡ぐ。それでライオネルも、一応は我に返ったのだろう。しばらく肩を上下させて荒い息をついていたが、それをおさめるように長く深い息を吐き出した。
「戦況も落ち着いている。軍議は朝でもいいだろう。兵にそう伝えてお前も部屋で休め」
ライオネルは不満そうに黒太子を見上げたが、有無を言わせぬ色をその声に見てとり、諦めたように顔を伏せると、のろのろと退室していった。だが去り際に俺に睨みをよこすのは忘れない。
扉が閉まる音に、ようやく俺も安堵の息をつく。本当に、この一日で何度命の危機を感じたことか。ぐったりするが、すぐ傍に気配を感じた瞬間俺の脳裏に声がよみがえった。
『黒太子を葬るのです』
それは、実際に声が響いたわけじゃなくて、単なる記憶の再生にすぎないけれど。
ビクリと肩が跳ねる。だが、頬に触れた黒太子の手の温もりに、緊張もリディアーヌの声も一緒に溶けた。
「済まない、咲良。大丈夫か」
思い出したように、微かな痛みを感じる。頬の傷だろう。もう血は止まっただろうけど。
「……本当に済まない。かつてこのヴァルグランドは、フレンシアのリディアーヌという少女が率いた軍によって大打撃を受けた。その少女が赤い瞳だったのだ。だから、この国は赤い瞳の少女に神経質になる……、そんなこと、君には納得できないだろうけど」
間近で見た黒太子の瞳は、よく見たら黒ではなく深い群青色だった。その瞳は済まなそうに伏せられたけど、俺はそれでも目を逸らさずにいられなかった。
嘘なんてついてない。俺はリディアーヌじゃない。ないのに――
俺の中には確かにリディアーヌがいる。それを嫌でも思い知らされたばかりだ。
いつか、俺はリディアーヌになるのだろうか。そうしたら、この俺を助けてくれた人を、俺は傷つけることになるのだろうか。
と、俺はかなり真剣に思い詰めていた。重ねて言うけれど、俺は本当に真剣だったんだ。本当だ。
なのに、いくらそれを強調したところで万人が信じてくれないであろう間の抜けた音を、俺の腹は鳴らしたのであった。
伏せられた黒太子の瞳が、俺の目の前で数度ぱちぱちと瞬かれる。そして、おかしそうに声を出してふふっと笑った。
「随分と食べていなかったようだな」
いや、実際は一食抜いただけなんだけど。
「今用意させよう。だがその前に着替えた方がいい。君の服、少し変わっているから」
恥ずかしくて顔を上げられない俺に、そんなことを言いながら黒太子が服を差し出してくれる。わざわざ貰ってきてくれたのだろうか。多分偉い人なのに、俺なんかのために色々してくれて申し訳ない。
確かに、学ランはこの世界で浮いていた。でも多分、この黒い学ランのお陰で俺は黒太子の軍と間違われたんだろう。それで黒太子に助けてもらったんだから、ブレザーでなくてよかった。しかしその学ランも、いきなり屋上から戦場におっこちたり、森の中を全力疾走したりしてヨレヨレだ。それにこれ以上目立ちたくないし、俺は素直に礼を言って着替えを受け取った。
「軍議もないことだし、私も着替える。それが終わったら夕食にしよう」
そう言って黒太子が奥の部屋に行ってしまったので、俺は学ランを脱ぎ捨て、貰った服を広げた。……若干、嫌な予感はしていたんだけど。その予感を裏切らず、服は女物だった。
少し悩んだけれど、タイミングとしては丁度いい。そう思って、俺は上半身裸のまま奥の扉を開けた。いや――開けてしまったのだ。
「あの、すみませ――」
俺の言葉は途中で途切れた。驚愕したように黒太子が固まったのは、「見た」からか、「見られた」からか。あるいはそのどちらもだったかもしれないが、それ以上に驚いていたのは多分……俺の方で。持っていた服が、ぼとりと手から落ちる。
頼りないランプの光は、充分に明るいとは言えなかったけれど、それでも間違いようもない。だって上着を全て脱ぎ捨てた、最悪のタイミングで入室してしまったから。
ランプに照らされたその体はどう見ても――女の子で。
『うわああああああ!?』
一拍おいて、我に返った俺達の叫び声は綺麗に重なった。
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