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第七十七話 思わぬ再会
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「大体、お前は昨夜何してたんだ」
その後、私たちは宿の中にある食堂へと移動していた。その間もリエーフさんはしつこく絡んでいたが、テーブルを囲んだところでミハイルさんが耐えかねたように声を上げる。
「いやですねぇ。聞き耳たてたりしておりませんよ?」
「立てていたのでひっぺがしておいたぞ。さすがに私も引いた」
足を組みかえながら、フェオドラさんが呆れたような声を上げ、リエーフさんに向ける私とミハイルさんの視線は帝国の気温くらい冷気を帯びた。どうせ気にするようなリエーフさんではないのだが。
それは私よりも嫌と言うほどわかっていそうなミハイルさんは、さっさとリエーフさんに構うのはやめて、前髪を書き上げながらフェオドラさんに目を向けた。
「礼を言う……」
「殊勝なことだ。少しは信用してもらえただろうか」
「それとこれとは話が別だ」
「手厳しいな。ま、とりあえずは腹を満たすか。舌の越えたロセリア人の口には合わんだろうが」
フェオドラさんが手を上げて店の人を呼ぶ。「はーい」と返事があって、パタパタとウエイトレスがテーブルに近づいてくる。その姿を見て――息が止まりかけた。
そしてそれは、向こうも同じだったらしい。
「ミハイル!?」
「……、なんでお前が帝国にいる……」
悲鳴のような声を上げて、ウエイトレスの女性がのけぞる。長い亜麻色の髪はきっちりと編んで結い上げており、記憶とは少し印象が違うけれど。パチパチと何度も瞬く可愛らしい瞳、真っ白なエプロンが良く似合うその人は……紛れもなくニーナさんだ。リエーフさんがフェリニを訪れたときには会えなかったという話だけど、まさかこんなところで会うなんて。
思わずまじまじと彼女を見つめていると、その大きな瞳が私を映す。
「そんなに睨まないでよ、ミオ。わたしはちゃんと約束通り、二度とあなたたちの前に姿を現さないつもりだったわよ。そっちが勝手に現れたんですからね」
腰に手を当てて、ニーナさんが言い訳めいた声を上げる。
「別に睨んでません。少し驚いただけです」
「ふーん。で、あなたたち少しは進展したの……むぐ」
ぴく、と私の肩が動いたのを見て、リエーフさんとフェオドラさんが二人掛かりでニーナさんの口を塞いだ。
……どうして、こう、誰も彼も。
「君はロセリア人だな。知り合いのようだが、どういう関係だ」
むーむー呻くニーナさんに、フェオドラさんが問いかける。私に気を遣って話を変えてくれたのもあるのだろうが、彼女が把握しておくべきことでもあるのだろう。しかし口を塞がれたままなのでニーナさんには答えられない。仕方なさそうにミハイルさんが口を開く。
「……古い知り合いだ」
「ぼかすと逆に調べられるぞ」
「好きにしろ。調べられて困ることもないし今は無関係だ。そいつに何かされたところで俺は一切動かん」
「ちょっと。わたしを何かに巻き込もうとしてない?」
フェオドラさんを押し退けて、ニーナさんがミハイルさんに文句をつける。
「俺に関わるなと再三忠告したはずだ」
「だからわざわざロセリアを出てあげたじゃない!」
「そもそもそうなる前にだ。……だがこの際だから確認しておく」
相変わらず直情的に叫ぶニーナさんに、ミハイルさんはうるさそうに対応していたが。そう言ってすっと目を細めた。ぞくりとする表情に、ニーナさんが僅かに怯む。
「お前、ミオのことを誰かに喋ったか?」
「どういうことよ」
「フェリニから帰った直後に狙われた。そいつらはミオを『プリヴィデーニ伯爵夫人』と言っていたそうだが、あの時点でそれを知る者は限られている」
「……つまりわたしを疑ってるの? 貴方に近付いたのは帝国のスパイだからだとでも?」
「いや。レイラ……、ライサはそう思っていたようだが」
ずばり核心をついてきたニーナさんに、ミハイルさんは腕組みすると思いの外否定の言葉を口にした。
「お前にスパイなど勤まるか。俺を欺けるような能力があるとも思わん」
「な、なんですってぇ!?」
「ただ、誰かに利用されてペラペラ俺のことを喋らされた可能性は高いと踏んで、リエーフをフェリニに飛ばした。遅かったが」
俯いたニーナさんの肩がふるふると震えている。フェオドラさんが半眼で溜め息をついた。
「そんなに馬鹿にしなくていいじゃない!」
顔を上げ、ニーナさんが涙目で手を振り上げる。……仕方ない。
立ち上がると、私はその腕を掴んで止めた。
「……ミオ」
「口下手なのは知ってますが、少しは言い方を考えて下さい。逆上させてどうするんですか」
背中で意外そうな声がして、そちらを見ないまま苦言を呈する。まぁ、私もこんな風に率直な言い方しかできないから、人のことは言えないのだけど……、押し黙ったミハイルさんに代わって口を開く。
「それで、本当のところはどうなんですか」
「……あなたに危害を加えるつもりはなかったわ」
「どっちだったとしても、別にそれは責めていません。だから早く問いに答えてくれませんか。リエーフさんたちの見せ物にされたくないので」
二対の視線を感じながら、淡々と告げる。絶対「元カノvs今カノ」みたいなノリで見られてるんだろうなぁ……。
「すまん。配慮が足りなかった」
ミハイルさんが私の肩を掴み、それを見たニーナさんが私の手を振り払う。
「……フラれた話をペラペラ喋りたい女なんかいないわよ。でも、心当たりはあるわ」
珍しく、ニーナさんが可愛らしい顔を曇らせる。
「あなたとミオのことを帝国に漏らした人間がいるとしたら、恐らく元フェリニ領主ね」
「そうではないかと思っていたが……、元だと?」
「あれから領主を解任されて帝国に戻ったわ。そして今はわたしの夫」
ミハイルさんが、少し意表を突かれた顔をする。……これで、ニーナさんが帝国にいる理由はわかったけれど。
「あなたと夫との取引に、ミオのことはなかったわよね?」
「詭弁だ。そのせいでミオは帝国に付け狙われることになった」
抑揚のない声でミハイルさんが呻き、右の手袋を外して投げ捨てた。
「覚悟はいいな?」
「ミハイルさん!? 何を……」
「フェリニ領主はニーナに近付いて話を聞き出し、ミオを狙えば俺を従えられると確信を得て皇帝に情報を流した。事実それで俺は腰を上げた。その見返りで昇進でもして帝国に戻ったんだろう。田舎領主なぞやりたいものでもなさそうだしな」
つまらなそうにミハイルさんが吐き捨てる。
「でも、ニーナさんに悪気は……」
「どうだか。気を引きたくて俺達を売ったかもしれん」
だとしても。
ニーナさんにその報いを受けて欲しいという気にはならない。そりゃどちらかといえば彼女のことは苦手だけれど、憎いとまでは思わないし。何より――ミハイルさんがニーナさんを傷つけるところなんて見たくない。
しかし慌てているのは私だけで、嫌いな呪印を見せられても、ニーナさんは毅然としていた。前はあんなに脅えていたのに。
「何と思われてもいいわ。ミオを危険にさらしたのは事実だし、私はどんな罰でも受ける。でもお願い。彼には手を出さないで」
平気なわけではないんだろう。呪印を前にして、ニーナさんの顔色は傍目にわかるほど蒼白になっている。それでも、彼女は決して目をそらさなかった。
食堂にいる客は私たちだけじゃない。ただ事でない空気に気が付いたのだろう。チラチラと視線を感じ始めて、ミハイルさんは大きく息をついた。
「……幸せなんだな」
「ええ。幸せよ」
顔色を失いながらも、胸を張ってニーナさんは即答した。同時にミハイルさんが手を下ろす。
「ならもういい。今度こそ二度と俺に関わるな」
「ミハイル……」
踵を返した彼の背に、ニーナさんが呟く。
「わかった。さよなら」
呆気なく、ニーナさんもまた踵を返す。そしてエプロンを外すとその場に投げ捨て、厨房に向かって元気よく「やめまぁす!」と叫んだ。そ、そんな、何も今すぐ目の前から消えなくとも。
「お店……大丈夫でしょうか」
「辞めてもらった方が助かるんじゃないか」
私の呟きに、ミハイルさんが半眼で答える。だがすぐに真顔になってこちらに向き直る。
「すまない。勝手に見逃してしまって」
「いえ、良かったです。貴方が一度は好きになった相手に、酷いことができる人じゃなくて」
これは強がりでなく、率直な気持ち。
でも本当は少しだけ、本当に少しだけ、羨ましいとも思った。
あのとき私も、一瞬……ニーナさんがスパイだったんじゃないかと考えた。でもミハイルさんは違った。
幸せかとの問いにニーナさんが頷いたとき、一瞬だけ……優しい目をした。
「ふぁっ!?」
急に抱き寄せられて、変な声が出た。
「は、離し……」
「断る。フェオドラ、悪いが今見聞きしたことは忘れて欲しい」
「素直に帝都まで来てくれるなら、君の要求は全部飲むよ。ミハイル」
「……馴れ合うつもりはないんだが」
「君と馴れ合えると思わんよ。ただ、年下の坊やに呼び捨てられて黙っていられる気性でなくてね」
「ふん……」
不機嫌そうに鼻を鳴らしながらも、フェオドラさんへの態度は少し軟化した気がする。
良かった。甘いのかもしれないけど、せめて皇帝に会うまでは、あまりいがみ合って欲しくはない。
「さて、朝食に――」
フェオドラさんが、そう仕切り直した時だった。
ガシャン、と派手な音がして、どこかのテーブルからグラスが落ちる。遅れて人の悲鳴と複数の足音が、ようやく和んだ場を引き裂いた。
その後、私たちは宿の中にある食堂へと移動していた。その間もリエーフさんはしつこく絡んでいたが、テーブルを囲んだところでミハイルさんが耐えかねたように声を上げる。
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足を組みかえながら、フェオドラさんが呆れたような声を上げ、リエーフさんに向ける私とミハイルさんの視線は帝国の気温くらい冷気を帯びた。どうせ気にするようなリエーフさんではないのだが。
それは私よりも嫌と言うほどわかっていそうなミハイルさんは、さっさとリエーフさんに構うのはやめて、前髪を書き上げながらフェオドラさんに目を向けた。
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そしてそれは、向こうも同じだったらしい。
「ミハイル!?」
「……、なんでお前が帝国にいる……」
悲鳴のような声を上げて、ウエイトレスの女性がのけぞる。長い亜麻色の髪はきっちりと編んで結い上げており、記憶とは少し印象が違うけれど。パチパチと何度も瞬く可愛らしい瞳、真っ白なエプロンが良く似合うその人は……紛れもなくニーナさんだ。リエーフさんがフェリニを訪れたときには会えなかったという話だけど、まさかこんなところで会うなんて。
思わずまじまじと彼女を見つめていると、その大きな瞳が私を映す。
「そんなに睨まないでよ、ミオ。わたしはちゃんと約束通り、二度とあなたたちの前に姿を現さないつもりだったわよ。そっちが勝手に現れたんですからね」
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「別に睨んでません。少し驚いただけです」
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ぴく、と私の肩が動いたのを見て、リエーフさんとフェオドラさんが二人掛かりでニーナさんの口を塞いだ。
……どうして、こう、誰も彼も。
「君はロセリア人だな。知り合いのようだが、どういう関係だ」
むーむー呻くニーナさんに、フェオドラさんが問いかける。私に気を遣って話を変えてくれたのもあるのだろうが、彼女が把握しておくべきことでもあるのだろう。しかし口を塞がれたままなのでニーナさんには答えられない。仕方なさそうにミハイルさんが口を開く。
「……古い知り合いだ」
「ぼかすと逆に調べられるぞ」
「好きにしろ。調べられて困ることもないし今は無関係だ。そいつに何かされたところで俺は一切動かん」
「ちょっと。わたしを何かに巻き込もうとしてない?」
フェオドラさんを押し退けて、ニーナさんがミハイルさんに文句をつける。
「俺に関わるなと再三忠告したはずだ」
「だからわざわざロセリアを出てあげたじゃない!」
「そもそもそうなる前にだ。……だがこの際だから確認しておく」
相変わらず直情的に叫ぶニーナさんに、ミハイルさんはうるさそうに対応していたが。そう言ってすっと目を細めた。ぞくりとする表情に、ニーナさんが僅かに怯む。
「お前、ミオのことを誰かに喋ったか?」
「どういうことよ」
「フェリニから帰った直後に狙われた。そいつらはミオを『プリヴィデーニ伯爵夫人』と言っていたそうだが、あの時点でそれを知る者は限られている」
「……つまりわたしを疑ってるの? 貴方に近付いたのは帝国のスパイだからだとでも?」
「いや。レイラ……、ライサはそう思っていたようだが」
ずばり核心をついてきたニーナさんに、ミハイルさんは腕組みすると思いの外否定の言葉を口にした。
「お前にスパイなど勤まるか。俺を欺けるような能力があるとも思わん」
「な、なんですってぇ!?」
「ただ、誰かに利用されてペラペラ俺のことを喋らされた可能性は高いと踏んで、リエーフをフェリニに飛ばした。遅かったが」
俯いたニーナさんの肩がふるふると震えている。フェオドラさんが半眼で溜め息をついた。
「そんなに馬鹿にしなくていいじゃない!」
顔を上げ、ニーナさんが涙目で手を振り上げる。……仕方ない。
立ち上がると、私はその腕を掴んで止めた。
「……ミオ」
「口下手なのは知ってますが、少しは言い方を考えて下さい。逆上させてどうするんですか」
背中で意外そうな声がして、そちらを見ないまま苦言を呈する。まぁ、私もこんな風に率直な言い方しかできないから、人のことは言えないのだけど……、押し黙ったミハイルさんに代わって口を開く。
「それで、本当のところはどうなんですか」
「……あなたに危害を加えるつもりはなかったわ」
「どっちだったとしても、別にそれは責めていません。だから早く問いに答えてくれませんか。リエーフさんたちの見せ物にされたくないので」
二対の視線を感じながら、淡々と告げる。絶対「元カノvs今カノ」みたいなノリで見られてるんだろうなぁ……。
「すまん。配慮が足りなかった」
ミハイルさんが私の肩を掴み、それを見たニーナさんが私の手を振り払う。
「……フラれた話をペラペラ喋りたい女なんかいないわよ。でも、心当たりはあるわ」
珍しく、ニーナさんが可愛らしい顔を曇らせる。
「あなたとミオのことを帝国に漏らした人間がいるとしたら、恐らく元フェリニ領主ね」
「そうではないかと思っていたが……、元だと?」
「あれから領主を解任されて帝国に戻ったわ。そして今はわたしの夫」
ミハイルさんが、少し意表を突かれた顔をする。……これで、ニーナさんが帝国にいる理由はわかったけれど。
「あなたと夫との取引に、ミオのことはなかったわよね?」
「詭弁だ。そのせいでミオは帝国に付け狙われることになった」
抑揚のない声でミハイルさんが呻き、右の手袋を外して投げ捨てた。
「覚悟はいいな?」
「ミハイルさん!? 何を……」
「フェリニ領主はニーナに近付いて話を聞き出し、ミオを狙えば俺を従えられると確信を得て皇帝に情報を流した。事実それで俺は腰を上げた。その見返りで昇進でもして帝国に戻ったんだろう。田舎領主なぞやりたいものでもなさそうだしな」
つまらなそうにミハイルさんが吐き捨てる。
「でも、ニーナさんに悪気は……」
「どうだか。気を引きたくて俺達を売ったかもしれん」
だとしても。
ニーナさんにその報いを受けて欲しいという気にはならない。そりゃどちらかといえば彼女のことは苦手だけれど、憎いとまでは思わないし。何より――ミハイルさんがニーナさんを傷つけるところなんて見たくない。
しかし慌てているのは私だけで、嫌いな呪印を見せられても、ニーナさんは毅然としていた。前はあんなに脅えていたのに。
「何と思われてもいいわ。ミオを危険にさらしたのは事実だし、私はどんな罰でも受ける。でもお願い。彼には手を出さないで」
平気なわけではないんだろう。呪印を前にして、ニーナさんの顔色は傍目にわかるほど蒼白になっている。それでも、彼女は決して目をそらさなかった。
食堂にいる客は私たちだけじゃない。ただ事でない空気に気が付いたのだろう。チラチラと視線を感じ始めて、ミハイルさんは大きく息をついた。
「……幸せなんだな」
「ええ。幸せよ」
顔色を失いながらも、胸を張ってニーナさんは即答した。同時にミハイルさんが手を下ろす。
「ならもういい。今度こそ二度と俺に関わるな」
「ミハイル……」
踵を返した彼の背に、ニーナさんが呟く。
「わかった。さよなら」
呆気なく、ニーナさんもまた踵を返す。そしてエプロンを外すとその場に投げ捨て、厨房に向かって元気よく「やめまぁす!」と叫んだ。そ、そんな、何も今すぐ目の前から消えなくとも。
「お店……大丈夫でしょうか」
「辞めてもらった方が助かるんじゃないか」
私の呟きに、ミハイルさんが半眼で答える。だがすぐに真顔になってこちらに向き直る。
「すまない。勝手に見逃してしまって」
「いえ、良かったです。貴方が一度は好きになった相手に、酷いことができる人じゃなくて」
これは強がりでなく、率直な気持ち。
でも本当は少しだけ、本当に少しだけ、羨ましいとも思った。
あのとき私も、一瞬……ニーナさんがスパイだったんじゃないかと考えた。でもミハイルさんは違った。
幸せかとの問いにニーナさんが頷いたとき、一瞬だけ……優しい目をした。
「ふぁっ!?」
急に抱き寄せられて、変な声が出た。
「は、離し……」
「断る。フェオドラ、悪いが今見聞きしたことは忘れて欲しい」
「素直に帝都まで来てくれるなら、君の要求は全部飲むよ。ミハイル」
「……馴れ合うつもりはないんだが」
「君と馴れ合えると思わんよ。ただ、年下の坊やに呼び捨てられて黙っていられる気性でなくてね」
「ふん……」
不機嫌そうに鼻を鳴らしながらも、フェオドラさんへの態度は少し軟化した気がする。
良かった。甘いのかもしれないけど、せめて皇帝に会うまでは、あまりいがみ合って欲しくはない。
「さて、朝食に――」
フェオドラさんが、そう仕切り直した時だった。
ガシャン、と派手な音がして、どこかのテーブルからグラスが落ちる。遅れて人の悲鳴と複数の足音が、ようやく和んだ場を引き裂いた。
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