婚約者の断罪

玉響

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9.やっぱり、好き

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「バイロン様………ごめんなさい………」

いつの間にか、私の目には涙が浮かんでいました。
自分でも、何に対して謝りたいと思ったのかは分かりませんが、とにかく謝りたかったのです。

「ミリー、謝ることなんてない。約束もなく体調の悪い君を訪ねてきていたのは他でもない私の方なのだから。むしろ、具合が悪いのに余計な心配をさせた私の方が謝らなければいけないね」

そう仰って、少し淋しげに笑われました。
そういう意味ではないのです。そう伝えなければいけないのに、喉のところに何かが引っかかったかのように言葉が出てきません。

「ミリーは、優しくていつも謙虚だ。でもね、具合が悪いときくらい甘えていいんだよ。だって、君は私の大切な大切な婚約者だ」

バイロン様は、覗き込むように私を見つめました。
どこまでも澄み渡る、快晴の夏空のような青い瞳で見つめられると、私は息をするのを忘れてしまいそうになりました。
………大切な、婚約者。
本当に、本当にそう思って下っているのでしょうか。
私の中で、バイロン様を信じたい気持ちと、信じられない気持ちがせめぎ合って、暴れています。
以前の私なら、無条件にバイロン様を信じられたのに、それが出来なくなってしまったのは、私の心が歪んでしまったせいなのでしょうか。

「まだ、調子が悪そうだね。こんなにも痩せてしまって………。君の家の侍女から、食事がとれていないと聞いていたのだけれど、思いの外酷いようだね。………手土産にオランジェを持ってきたんだ。さっぱりしていて、瑞々しいから食べやすいと思って、領地から取り寄せたんだ。良かったら食べてくれないかな。ミリーに早く元気になって欲しい」

いつもどおりの輝かんばかりの優しい笑顔で、可愛らしいバスケットに入った新鮮なオランジェを差し出してくださいます。
………ダメです。私はやはり、この方が………バイロン様が好きです。嫌いになることも、私から婚約を破棄してバイロン様を解放して差し上げることも、やっぱり出来そうもありません。
いずれ捨てられてしまうのでしょうけれど………その優しい笑顔で、他のご令嬢を口説いているとしても、せめて婚約破棄を言い渡されるその時まで、私はバイロン様の婚約者として、バイロン様の傍にいたいと、そう思ってしまったのです。
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