国一番の淑女結婚事情〜政略結婚は波乱の始まり〜

玉響

文字の大きさ
296 / 390
本編(アルフォンシーナ視点)

305.思い遣り

しおりを挟む
「パニーニを食べるのは初めてか?………こうして、口を大きく開けて齧り付くんだ」

 手にしたパニーニを見て戸惑っているアルフォンシーナに、ベルナルドはお手本を見せてくれた。

 大きく口を開いて齧り付く、と言われても、淑女教育が骨の髄まで染み込んでいるアルフォンシーナにとって、それは容易なことではない。
 大口を開くことも、パンに齧り付くということも、はしたない行為に違いなかったからだ。

 だが、このパニーニという食べ物の正式な食べ方が『齧りつく』なのだとしたら、いつものように指で摘んで食べることの方が、マナー違反なのだ。
 そんなことを考えながら、ベルナルドとパニーニを交互に見つめていたが、やがて覚悟を決めたかのように、アルフォンシーナは大きく口を開け、思い切ってパンに齧り付いた。

「……………っ!」

 一口
 齧った途端、アルフォンシーナは思わず息を呑んだ。
 ベルナルドが太鼓判を押すだけあって、初めて口にしたパニーニはとても美味しかったのだ。

「どうだ?気に入ったか?」

 無言のままで目を輝かせるアルフォンシーナに、ベルナルドが尋ねた。
 アルフォンシーナは無意識のうちに、何度も何度も頷いていた。

「とても、美味しいです…………!プロシュットの塩味と、パンの旨味が合わさって、シンプルなのに深い味わいが、堪りませんね」

 プロシュットとチーズとパンという、本当にシンプルな材料しか使われていないのに、その質素さからは想像も出来ないほどの味わいが、たちまちアルフォンシーナを虜にした。

「そうか」

 一口、また一口とパニーニを食べるアルフォンシーナを、ベルナルドは嬉しそうに見守ってくれている。
 しかし、あまりにも熱心な視線に、アルフォンシーナは申し訳なさそうにベルナルドを見た。

「あの………食べているところをそんなに見られていると、恥ずかしいです………」

 アルフォンシーナの指摘に我に返ったのか、ベルナルドは慌てて視線を逸らした。

「あ………いや、すまない。悪気はないんだ。………ただ、あなたが夢中で食べてくれていることが、嬉しくて…………」

 綺麗に整えられた金髪をぐしゃぐしゃと左手で掻き乱しながら、ベルナルドは口の中でもごもごと呟いた。
 それを聞いてアルフォンシーナははっと気がついた。
 ベルナルドは痩せ細ってしまった自分の事を心配し、こうして気分転換に連れ出し、普段は彼女が口にしないような食べ物を食べさせてくれたのだろう。
 少し不器用だけれど温かい、彼の愛情を感じ、アルフォンシーナは胸の奥に、春の陽が差し込んだかのように温かくなっていくを感じた。
しおりを挟む
感想 98

あなたにおすすめの小説

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。

大森 樹
恋愛
【短編】 公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。 「アメリア様、ご無事ですか!」 真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。 助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。 穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで…… あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。 ★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...