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本編(アルフォンシーナ視点)
305.思い遣り
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「パニーニを食べるのは初めてか?………こうして、口を大きく開けて齧り付くんだ」
手にしたパニーニを見て戸惑っているアルフォンシーナに、ベルナルドはお手本を見せてくれた。
大きく口を開いて齧り付く、と言われても、淑女教育が骨の髄まで染み込んでいるアルフォンシーナにとって、それは容易なことではない。
大口を開くことも、パンに齧り付くということも、はしたない行為に違いなかったからだ。
だが、このパニーニという食べ物の正式な食べ方が『齧りつく』なのだとしたら、いつものように指で摘んで食べることの方が、マナー違反なのだ。
そんなことを考えながら、ベルナルドとパニーニを交互に見つめていたが、やがて覚悟を決めたかのように、アルフォンシーナは大きく口を開け、思い切ってパンに齧り付いた。
「……………っ!」
一口
齧った途端、アルフォンシーナは思わず息を呑んだ。
ベルナルドが太鼓判を押すだけあって、初めて口にしたパニーニはとても美味しかったのだ。
「どうだ?気に入ったか?」
無言のままで目を輝かせるアルフォンシーナに、ベルナルドが尋ねた。
アルフォンシーナは無意識のうちに、何度も何度も頷いていた。
「とても、美味しいです…………!プロシュットの塩味と、パンの旨味が合わさって、シンプルなのに深い味わいが、堪りませんね」
プロシュットとチーズとパンという、本当にシンプルな材料しか使われていないのに、その質素さからは想像も出来ないほどの味わいが、たちまちアルフォンシーナを虜にした。
「そうか」
一口、また一口とパニーニを食べるアルフォンシーナを、ベルナルドは嬉しそうに見守ってくれている。
しかし、あまりにも熱心な視線に、アルフォンシーナは申し訳なさそうにベルナルドを見た。
「あの………食べているところをそんなに見られていると、恥ずかしいです………」
アルフォンシーナの指摘に我に返ったのか、ベルナルドは慌てて視線を逸らした。
「あ………いや、すまない。悪気はないんだ。………ただ、あなたが夢中で食べてくれていることが、嬉しくて…………」
綺麗に整えられた金髪をぐしゃぐしゃと左手で掻き乱しながら、ベルナルドは口の中でもごもごと呟いた。
それを聞いてアルフォンシーナははっと気がついた。
ベルナルドは痩せ細ってしまった自分の事を心配し、こうして気分転換に連れ出し、普段は彼女が口にしないような食べ物を食べさせてくれたのだろう。
少し不器用だけれど温かい、彼の愛情を感じ、アルフォンシーナは胸の奥に、春の陽が差し込んだかのように温かくなっていくを感じた。
手にしたパニーニを見て戸惑っているアルフォンシーナに、ベルナルドはお手本を見せてくれた。
大きく口を開いて齧り付く、と言われても、淑女教育が骨の髄まで染み込んでいるアルフォンシーナにとって、それは容易なことではない。
大口を開くことも、パンに齧り付くということも、はしたない行為に違いなかったからだ。
だが、このパニーニという食べ物の正式な食べ方が『齧りつく』なのだとしたら、いつものように指で摘んで食べることの方が、マナー違反なのだ。
そんなことを考えながら、ベルナルドとパニーニを交互に見つめていたが、やがて覚悟を決めたかのように、アルフォンシーナは大きく口を開け、思い切ってパンに齧り付いた。
「……………っ!」
一口
齧った途端、アルフォンシーナは思わず息を呑んだ。
ベルナルドが太鼓判を押すだけあって、初めて口にしたパニーニはとても美味しかったのだ。
「どうだ?気に入ったか?」
無言のままで目を輝かせるアルフォンシーナに、ベルナルドが尋ねた。
アルフォンシーナは無意識のうちに、何度も何度も頷いていた。
「とても、美味しいです…………!プロシュットの塩味と、パンの旨味が合わさって、シンプルなのに深い味わいが、堪りませんね」
プロシュットとチーズとパンという、本当にシンプルな材料しか使われていないのに、その質素さからは想像も出来ないほどの味わいが、たちまちアルフォンシーナを虜にした。
「そうか」
一口、また一口とパニーニを食べるアルフォンシーナを、ベルナルドは嬉しそうに見守ってくれている。
しかし、あまりにも熱心な視線に、アルフォンシーナは申し訳なさそうにベルナルドを見た。
「あの………食べているところをそんなに見られていると、恥ずかしいです………」
アルフォンシーナの指摘に我に返ったのか、ベルナルドは慌てて視線を逸らした。
「あ………いや、すまない。悪気はないんだ。………ただ、あなたが夢中で食べてくれていることが、嬉しくて…………」
綺麗に整えられた金髪をぐしゃぐしゃと左手で掻き乱しながら、ベルナルドは口の中でもごもごと呟いた。
それを聞いてアルフォンシーナははっと気がついた。
ベルナルドは痩せ細ってしまった自分の事を心配し、こうして気分転換に連れ出し、普段は彼女が口にしないような食べ物を食べさせてくれたのだろう。
少し不器用だけれど温かい、彼の愛情を感じ、アルフォンシーナは胸の奥に、春の陽が差し込んだかのように温かくなっていくを感じた。
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