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339.未来

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それから間もなくすると、結婚式の準備が始まった。

イザイアはともかくとして、カヴァニスはまだ再興直後で不安定だということも考慮しながら、関係者に配る招待状を作ったり、当日の段取りの確認をしたりと、アリーチェのやることは一気に増えた。
そんな中でも、式で着用するドレスのデザイン決めが始まると、いよいよルドヴィクと結婚するのだ、という実感が湧いてくる気がした。

「………随分と楽しそうだな」

多忙な中でも、政務の合間を縫って顔を出してくれたルドヴィクが、無意識のうちに鼻歌を歌っているらしいアリーチェに声を掛けた。

「ええ。こうして準備を進める毎に結婚式が近づいてくると思うと、嬉しくて…………」

アリーチェははにかみながら答える。
結婚式はまだ半年も先だというのに、浮かれてしまっているというのは、アリーチェ自身も自覚していた。

結婚式を挙げれば、アリーチェは正式にイザイア王妃となり、国政にも関わるようになる。
そうすればアンジェロから言われた通り、ルドヴィクを支えることも可能になるだろう。

少しでもルドヴィクの力になりたい。
少しでもルドヴィクと共に過ごしたい。
小さな欲望が、次から次へと湧き上がってくるようだった。

だがそれと同時に、ルドヴィクはどう思っているのだろうかと不安にもなる。
ルドヴィクがアリーチェを深く愛してくれていることは、分かっている。
しかし、ルドヴィクは自分と同じような気持ちでいてくれるのだろうか。
彼の心の中に深く根を張る、『家族』というものへの不信感。
それを完全に払拭するには、相当な時間が必要だろう。

(ルドヴィク様を支えろというのは、きっとそういう部分も含めて兄様は仰ったのだわ………)

不意に兄の意図するところを感じ取り、アリーチェは軽く唇を噛み締めた。

「そうか」

低くて穏やかな声が、アリーチェのすぐ近くで響いた。
いつの間にかルドヴィクが眼の前まで近づいて来ていることに気付かなかったアリーチェは驚く。
そんな彼女を一瞥すると、ルドヴィクはゆっくりと息を吐いた。

「………私は物心ついた頃からずっと一人で、王という立場に着いてからも常に孤独を感じていた。だからずっと独りで生き、王位も世襲制でなくせば良いと思っていたが………。あなたと出会ってから、私は随分と欲張りになったようだ。あなたとの未来も、あなたと家族になることも、そして我が子に王位を譲りたいとも思ってしまう」

ルドヴィクの口から零れ落ちた思わぬ告白に、アリーチェは更に驚いた。
彼はいつの間にそんなことまで考えていたのだろう。
虹色の瞳でじっとルドヴィクを見つめると、ルドヴィクは少し照れながら微笑んだ。

窓から差し込む光が、優しく二人を包み込む。
まるで二人の行く末を温かに照らしているようだった。
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