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338.憧れ

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ルドヴィクの婚約者としてイザイアに来たアリーチェは、自分が想像していたよりも遥かにイザイア国内で歓迎されている事に驚いていた。

宰相のアリーチェへの態度もそうだったが、まだ婚約の段階であり、ある意味イザイアの城には居候状態とは思えないほどに自然にアリーチェを受け入れてくれているのを肌で感じる。
それは、極秘とはいえ以前イザイアの城にいたことがあったから、という理由も考えられたが、どうやらそうではないらしかった。

「そういえばご存知ですか?最近、王都では陛下とアリーチェ様をモデルにしたお芝居が上演されていて、大人気なのだそうですよ」

いつもの通り、アリーチェの朝の支度を手伝いに来てくれたジネーヴラがそんな事を話し始めた。

「お芝居?」

アリーチェが怪訝そうに眉を顰めるが、ジネーヴラは気にすることになったらしかった。

「ええ。王族に生まれた男女が『仇』として出会い、数々の障害を乗り越えながら互いに心を通わせて、愛し合うーーーという内容のものらしいんですけれど、困難に打ち勝ち、結ばれるはずのなかった二人が、深い絆で結ばれるという、今までになかったタイプの物が人気の理由のようですよ。お陰で、アリーチェ様に憧れる貴婦人も多いのだとか。やはり、悲劇のヒロインが素敵な殿方に愛されるという成り上がりの物語は、乙女の憧れですものね!」

確かに話の筋書きは、ルドヴィクとアリーチェをモデルにしたと言える内容だが、それが人気だとは俄には信じがたかった。

「………お芝居だなんて………何だか気恥ずかしいわ」

自分がモデルの物語など、アリーチェには全く想像がつかなかった。
そもそも、自分とルドヴィクの場合は出会い方も最悪だったし、その後も心ときめくような要素はほぼ感じられないだろうと思ってしまう。

「恥ずかしがる事など何もありません!アリーチェ様はアリーチェ様らしく、堂々となさっていれば良いのです」

ジネーヴラが力いっぱい力説すると、隣にいたスザンナが同意するかのように深く頷く。

アリーチェの出奔を計画したスザンナに対して、最初のうちこそ警戒心を抱いていたジネーヴラだったが、どうやらここ数日でかなり親密度は上がったようだった。

「姫様はお美しいだけでなく、とてもお優しいですもの。皆に愛されて当然なのですわ!」

スザンナは、まるで自分のことのように目を輝かやかせるのだった。
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