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327.婚約式
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当人達に婚約式の日取りが伝えられてから僅か二日後。
イザイア王国国王ルドヴィク・イザイアと旧カヴァニス王国王女アリーチェ・カヴァニスの婚約式は、アリーチェ達が滞在している屋敷の応接室でひっそりと行われた。
同席者はアリーチェの後見役であるアンジェロと、新郎となるルドヴィクの付添人であるクロードとジルベール、そしてアマデオだけだった。
上質な羊皮紙にびっしりと書かれた、婚約における誓約を隅から隅まで目を通し、確認しているアンジェロの横で、アリーチェがそわそわとしていると、同じくアンジェロの様子を見守っていたルドヴィクがふと声をかけてきた。
「…………緊張しているのか?」
低くて心地よい声の主にアリーチェが視線を会わせると、ルドヴィクは少しだけ首を傾げた。
彼の動きに合わせて、燭台の明かりに照らされた漆黒の長い髪がさらりと流れ落ちる。
その髪を鬱陶しそうに軽く払い除けるルドヴィクに、アリーチェは微かに微笑んだ。
「はい、緊張………しておりますわ。ルドヴィク様は如何です?」
虹色の双眸を真っ直ぐにルドヴィクに向けると、ルドヴィクは困ったように笑みを浮かべた。
「………そうだな。私も、緊張している」
口ではそう言うが、表情からは何も読み取ることは出来なかった。
しかし、僅かに口元が強張って見えるのは気の所為ではないのだろう。
一国の、それも大国の王とは思えない仕草が妙に可愛らしくて、アリーチェは小さく笑い声を零した。
「それでは、誓約内容を確認し、こちらにサインをしていただければ…………」
「……分かった」
全てを確認し終わったアンジェロが、羊皮紙とペンをルドヴィクに差し出す。
ルドヴィクはそれを無言のまま受け取り、たった一つしかない瞳で、誓約を一つ一つ丁寧に辿っていく。
「………………」
暫しの間を置いて、ルドヴィクが手にしたペンが、羊皮紙の上を滑った。
「………これで、いいのだろうか?」
ペンを置いたルドヴィクは、徐ろに羊皮紙をアンジェロに差し出した。
婚約式、婚姻を結ぶ男女両家の家長がサインをすることで成立することになっている。
つまりルドヴィクとアリーチェの場合は新婦側の家長であるアンジェロと新郎のサインが記されることで、婚約が成立したということになるのだ。
「こうして実際にやってみると、あっけないものなのだな」
少しだけ拍子抜けしたようにルドヴィクが呟くと、その場にいた全員から、柔らかな笑いが沸き起こった。
イザイア王国国王ルドヴィク・イザイアと旧カヴァニス王国王女アリーチェ・カヴァニスの婚約式は、アリーチェ達が滞在している屋敷の応接室でひっそりと行われた。
同席者はアリーチェの後見役であるアンジェロと、新郎となるルドヴィクの付添人であるクロードとジルベール、そしてアマデオだけだった。
上質な羊皮紙にびっしりと書かれた、婚約における誓約を隅から隅まで目を通し、確認しているアンジェロの横で、アリーチェがそわそわとしていると、同じくアンジェロの様子を見守っていたルドヴィクがふと声をかけてきた。
「…………緊張しているのか?」
低くて心地よい声の主にアリーチェが視線を会わせると、ルドヴィクは少しだけ首を傾げた。
彼の動きに合わせて、燭台の明かりに照らされた漆黒の長い髪がさらりと流れ落ちる。
その髪を鬱陶しそうに軽く払い除けるルドヴィクに、アリーチェは微かに微笑んだ。
「はい、緊張………しておりますわ。ルドヴィク様は如何です?」
虹色の双眸を真っ直ぐにルドヴィクに向けると、ルドヴィクは困ったように笑みを浮かべた。
「………そうだな。私も、緊張している」
口ではそう言うが、表情からは何も読み取ることは出来なかった。
しかし、僅かに口元が強張って見えるのは気の所為ではないのだろう。
一国の、それも大国の王とは思えない仕草が妙に可愛らしくて、アリーチェは小さく笑い声を零した。
「それでは、誓約内容を確認し、こちらにサインをしていただければ…………」
「……分かった」
全てを確認し終わったアンジェロが、羊皮紙とペンをルドヴィクに差し出す。
ルドヴィクはそれを無言のまま受け取り、たった一つしかない瞳で、誓約を一つ一つ丁寧に辿っていく。
「………………」
暫しの間を置いて、ルドヴィクが手にしたペンが、羊皮紙の上を滑った。
「………これで、いいのだろうか?」
ペンを置いたルドヴィクは、徐ろに羊皮紙をアンジェロに差し出した。
婚約式、婚姻を結ぶ男女両家の家長がサインをすることで成立することになっている。
つまりルドヴィクとアリーチェの場合は新婦側の家長であるアンジェロと新郎のサインが記されることで、婚約が成立したということになるのだ。
「こうして実際にやってみると、あっけないものなのだな」
少しだけ拍子抜けしたようにルドヴィクが呟くと、その場にいた全員から、柔らかな笑いが沸き起こった。
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