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閑話 ルドヴィクの苦悶(口吻の後のお話です)

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アリーチェの部屋を後にしたルドヴィクは尋常ではない速さで自室へと戻った。

全身が心臓になってしまったかのように鼓動が大きく感じられるのは、早足で歩いているせいではないのは分かっていた。
しかしあまりにも煩く心臓が脈打つのが気になって、それを押さえつけるかのようにシャツの胸元を乱暴に掴む。
そしてようやく自室へ辿り着くと、扉を力任せに閉めた。

「く…………」

胸が疼くなどという表現では収まらない程に、ルドヴィクは自身の中で暴れまわる感情に翻弄されていた。

アリーチェの柔らかい唇を、ふわりと香る花のような彼女の纏う香りを、服越しに感じる彼女の体温を思い浮かべるだけで、どうにかなってしまいそうだった。

自身の心が、彼女を渇望している。
彼女の全身くまなく口吻をして、何もかも奪ってしまいたいーーー。
そんな自分勝手で野蛮な欲望が、次々と湧いてきた。

「く…………っ」

アリーチェに淡い恋心を抱いた時も、彼女に恋い焦がれた時も、彼女と想いが通じた時ですらこんな気持ちになったことなど、ただの一度もなかった。
それなのに何故今になってこのような事が起こるのだろうか。
ルドヴィクは溜息をつくと、壁に凭れ掛かった。

「…………陛、下?」

隣の部屋で控えていたクロードが、ルドヴィクの様子の異変に気がついたらしく、顔を覗かせた。

「クロード、か…………」

苦しそうに呻くルドヴィクに、クロードは驚き、そして、慌てて駆け寄ってきた。

「陛下…………っ、一体何が…………?」

クロードが、明らかに体調の悪そうなルドヴィクの背に触れようとした瞬間、ルドヴィクの手に振り払われた。

「…………っ、陛下…………?」

耳の先端まで、暗闇でもわかるほどに真っ赤に染め上げたルドヴィクは、たった一つしかない深いエメラルド色の眼で、クロードを睨みつけた。

「…………姫が…………」
「姫?アリーチェ王女様が何か………?」

苦しげにルドヴィクが口走った言葉に、クロードが怪訝そうな顔をする

「………何でもない」
「何でもない訳ないでしょう!そのような…………!」
「煩い。………出ていってくれ………」

囁くような、けれども有無を言わせない強さを秘めた口調で、ルドヴィクはクロードを突き放した。
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