隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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307.お強請り

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「あの………ルドヴィク様」

ゆっくりと手を下ろしたルドヴィクに向かって、アリーチェは躊躇いがちに声を掛けた。

「…………何だ?」

ルドヴィクは小首を傾げ、アリーチェを真っ直ぐに見つめた。
微かに頬が赤く見えるのは、部屋を照らす蝋燭の明かりの加減のせいではないだろう。
ぶっきらぼうな返事をしたのは、アリーチェの手にキスをしたことへの照れ隠しのように感じられた。

たったあれだけの事で照れてしまうルドヴィクにこいねがうのは酷なことだと理解しながらも、アリーチェは吐息と共に、その言葉を吐き出した。

「………今度はわたくしがきちんと寝付けるように………おまじないの口吻を、して下さいませんか………?」

女性から口吻を強請るなど、どう考えてもはしたないことだが、きっとこうでもしないとルドヴィクは口吻をしてくれないだろう。
一言一言をゆっくりと紡ぐに従って、頬が熱くなっていくのがはっきりと感じられた。

「……………っ」

一旦ルドヴィクから視線を外してから、ほんの少しだけ俯き、わざと上目遣いでルドヴィクを見つめると、ルドヴィクは握っていたアリーチェの手を離し、大きな掌で口元を覆った。
彼の顔は先程とは比べ物にならないくらいに真っ赤に染まり、形の良い眉は気の毒な位に歪んでいた。

「…………口、づけ…………?」

暫くの間を空けて、ルドヴィクは言葉の意味が理解できないとでも言うように、口の中で反芻した。

改めて繰り返されると、アリーチェの方も恥ずかしくなってきて、解放された両手で、己の頬を隠すように包みこんだ。

「………ふ、深い意味はありませんの!ただ、手に口吻を頂いたのが存外に嬉しくて………。ルドヴィク様におまじないの口吻をしていただければよく眠れるような気がして…………っ」

今度は早口で、口吻を強請った理由を一気に説明する。
自分でも、自分の行動も思考回路も、訳が分からなかった。

「…………目を、閉じて欲しい」
「え…………?」

唐突に、耳元でルドヴィクの低くて甘い声が響いて、アリーチェが驚いて顔を上げると、ルドヴィクの白皙の美貌がすぐ間近に迫ってきた。
一瞬驚いて目を見開いたが、ゆっくりと近づくルドヴィクの顔を直視出来ず、アリーチェは言われるがままにぎゅっと目を瞑った。

その直後ーーー。
アリーチェの唇に、柔らかなルドヴィクの唇がそっと重ねられた。
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