上 下
309 / 351

307.お強請り

しおりを挟む
「あの………ルドヴィク様」

ゆっくりと手を下ろしたルドヴィクに向かって、アリーチェは躊躇いがちに声を掛けた。

「…………何だ?」

ルドヴィクは小首を傾げ、アリーチェを真っ直ぐに見つめた。
微かに頬が赤く見えるのは、部屋を照らす蝋燭の明かりの加減のせいではないだろう。
ぶっきらぼうな返事をしたのは、アリーチェの手にキスをしたことへの照れ隠しのように感じられた。

たったあれだけの事で照れてしまうルドヴィクにこいねがうのは酷なことだと理解しながらも、アリーチェは吐息と共に、その言葉を吐き出した。

「………今度はわたくしがきちんと寝付けるように………おまじないの口吻を、して下さいませんか………?」

女性から口吻を強請るなど、どう考えてもはしたないことだが、きっとこうでもしないとルドヴィクは口吻をしてくれないだろう。
一言一言をゆっくりと紡ぐに従って、頬が熱くなっていくのがはっきりと感じられた。

「……………っ」

一旦ルドヴィクから視線を外してから、ほんの少しだけ俯き、わざと上目遣いでルドヴィクを見つめると、ルドヴィクは握っていたアリーチェの手を離し、大きな掌で口元を覆った。
彼の顔は先程とは比べ物にならないくらいに真っ赤に染まり、形の良い眉は気の毒な位に歪んでいた。

「…………口、づけ…………?」

暫くの間を空けて、ルドヴィクは言葉の意味が理解できないとでも言うように、口の中で反芻した。

改めて繰り返されると、アリーチェの方も恥ずかしくなってきて、解放された両手で、己の頬を隠すように包みこんだ。

「………ふ、深い意味はありませんの!ただ、手に口吻を頂いたのが存外に嬉しくて………。ルドヴィク様におまじないの口吻をしていただければよく眠れるような気がして…………っ」

今度は早口で、口吻を強請った理由を一気に説明する。
自分でも、自分の行動も思考回路も、訳が分からなかった。

「…………目を、閉じて欲しい」
「え…………?」

唐突に、耳元でルドヴィクの低くて甘い声が響いて、アリーチェが驚いて顔を上げると、ルドヴィクの白皙の美貌がすぐ間近に迫ってきた。
一瞬驚いて目を見開いたが、ゆっくりと近づくルドヴィクの顔を直視出来ず、アリーチェは言われるがままにぎゅっと目を瞑った。

その直後ーーー。
アリーチェの唇に、柔らかなルドヴィクの唇がそっと重ねられた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

城内別居中の国王夫妻の話

小野
恋愛
タイトル通りです。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン
ファンタジー
完結しました! 魔法使いの国に生まれた少年には、魔法を扱う才能がなかった。 無能と蔑まれ、両親にも愛されず、優秀な兄を頼りに何年も引きこもっていた。 そんなある日、国が魔物の襲撃を受け、少年の魔物を操る能力も目覚める。 能力に呼応し現れた狼は少年だけを助けた。狼は少年を息子のように愛し、少年も狼を母のように慕った。 滅びた故郷を去り、一人と一匹は様々な国を渡り歩く。 悪魔の家畜として扱われる人間、退廃的な生活を送る天使、人との共存を望む悪魔、地の底に封印された堕天使──残酷な呪いを知り、凄惨な日常を知り、少年は自らの能力を平和のために使うと決意する。 悪魔との契約や邪神との接触により少年は人間から離れていく。対価のように精神がすり減り、壊れかけた少年に狼は寄り添い続けた。次第に一人と一匹の絆は親子のようなものから夫婦のようなものに変化する。 狂いかけた少年の精神は狼によって繋ぎ止められる。 やがて少年は数多の天使を取り込んで上位存在へと変転し、出生も狼との出会いもこれまでの旅路も……全てを仕組んだ邪神と対決する。

巨根王宮騎士の妻となりまして

天災
恋愛
 巨根王宮騎士の妻となりまして

【R18】私は婚約者のことが大嫌い

みっきー・るー
恋愛
侯爵令嬢エティカ=ロクスは、王太子オブリヴィオ=ハイデの婚約者である。 彼には意中の相手が別にいて、不貞を続ける傍ら、性欲を晴らすために婚約者であるエティカを抱き続ける。 次第に心が悲鳴を上げはじめ、エティカは執事アネシス=ベルに、私の汚れた身体を、手と口を使い清めてくれるよう頼む。 そんな日々を続けていたある日、オブリヴィオの不貞を目の当たりにしたエティカだったが、その後も彼はエティカを変わらず抱いた。 ※R18回は※マーク付けます。 ※二人の男と致している描写があります。 ※ほんのり血の描写があります。 ※思い付きで書いたので、設定がゆるいです。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

処理中です...