隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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306.誓い

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「以前にも話したことがあったと思うが………子供の頃の私の人生は、悲惨なものだった。親には疎まれ、周囲からは軽蔑され、私自身、生きていく事に意味を見出だせす、自分は無価値なのだと思っていた」

イザイア先王の私生児として生まれたルドヴィクの幼少期がいかに悲惨だったのかは、まだ彼への好意を自覚する前に彼自身から聞いたが、その時と比べると、ルドヴィクの表情はずっと明るいように感じられた。

「そんな私を一喝したのが、兄上だった。私が自分を卑下して自分を貶めるのは悪い癖だと言って………。無価値な人間などどこにも存在しない。誰しも皆、生まれてきたというだけで意味があるのだから、胸を張って生きろと、そう言って下さったんだ」

アリーチェは押し黙ったまま、ぎゅっと唇を噛み締めて微笑んだ。
アリーチェにもシャルル王太子がルドヴィクに伝えた言葉と同じ想いがあったからだ。

「………シャルル王太子殿下は、本当にルドヴィク様の事を大切に思われていらっしゃったのですね」
「…………ああ」

シャルル王太子の弟を想う気持ちを想像するだけで、胸の奥が締め付けられるような、痛みとも苦しみともつかない感情が湧き上がってくる気がした。

思い返してみると、何よりも大切な兄の仇を討った事に関して、ルドヴィクはあの日以降語ることはなかった。
けれどもルドヴィクの表情が以前よりずっと穏やかに感じられるのは、彼自身が『兄の死の真相を突き止め、仇討ちを果たす』ことを生きる目的にしており、見事にそれを成し遂げたからなのだろう。

アリーチェが複雑そうな表情をしていることに気がついたのか、ルドヴィクはアリーチェの顔を覗き込んできた。
深いエメラルド色の瞳の中心に自分の顔が映っているのがはっきりと見えて、アリーチェは胸の鼓動が早くなるのを感じた。

「………兄上に心配をかけぬように………。………いや、それよりもあなたに心配をかけずにすむように………。これからは決して自分を卑下しないと誓おう。そうでなければあなたの隣に立つ資格がないからな」

ルドヴィクは優しく両手でアリーチェの手を持ち上げると、柔らかな笑顔を浮かべ、そのままアリーチェの手の甲へと口吻を落としたのだった。
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