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305.互いの心

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こんなにも身体が冷えていた理由があまりにもルドヴィクらしくて、アリーチェは呆れたように溜息を零した。

「ルドヴィク様。あなたはイザイアの国王なのですから見回りなどする必要はないのではありませんか?」

溜息混じりで、ルドヴィクはわざとらしく、肩を竦めてみせた。

「………私は国王である以前に、騎士だからな。見回りくらいしても問題はないだろう」

少し戯けたように、ルドヴィクは呟く。
当然のように言ってのけたということは、もしかしたらルドヴィクは自分の城にいた時もずっとこのように過ごしてきていたのかもしれない。

そもそも考えてみると、ルドヴィクについてアリーチェが知っていることはごく僅かしかない。
しかし、逆に考えればこれから二人で過ごす中で、彼について少しずつ知り、自分の事も知って貰えるのだ。
アリーチェはそんな未来を思い描き、それからゆっくりと微笑んだ。

「………あなたは、何故こんな時間に起きていたんだ?」

少しだけ視線を彷徨わせた後、ルドヴィクは唐突に尋ねてきた。

「…………何となく、眠れなかったのです」

アリーチェが部屋の明かりがついていた理由を告げると、ルドヴィクの顔が心配そうに歪む。

「…………今日は色々な事があったからな。気持ちが昂ぶっているのだろう。そういう時は、無理矢理眠ろうとすればするほど、目が冴えてしまうものだ」

まさに先程のアリーチェの状態を、ルドヴィクは言い当てた。
アリーチェは驚いて目を見開いた。

「………今日はあなたを随分と混乱させてしまったのだから、原因の一つは私に責任があるな」

申し訳無さそうに目を細めると、ルドヴィクはひんやりとした手でアリーチェの手を包み込む。

「そうやってすぐにご自身を卑下するのは、ルドヴィク様の悪い癖ですわね」

青白い自身の手を包む、無骨だが優しい、大きな手に視線を落としてアリーチェは笑った。
そんなアリーチェを見て、ルドヴィクは小さく咳払いをした。
そして、ふと何かを思い出したかのように、徐ろに口を開いた。

「………そういえば昔、同じことを兄上に言われたな」
「お兄様、というとシャルル王太子殿下ですか…………?」

アリーチェの問い掛けに、ルドヴィクは懐かしそうに口元を緩め、深く頷いた。



✽✽お詫び✽✽

本業の関係で二日も更新が出来ず申し訳ございませんでした。
明日からは通常どおり更新する予定です。
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