隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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303.理由

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アリーチェはどうしたら良いのか分からずに、戸惑いながらルドヴィクを見つめるが、ルドヴィクはその場に立ち尽くしたまま、部屋に入ろうとはしなかった。

「あの、廊下は寒いですから………」

身体を扉側に寄せ、大柄なルドヴィクが中に入りやすいように道を開けてみるが、状況は全く変わらなかった。

「ルドヴィク様………?」
「………………」

アリーチェの呼びかけに、今度は気不味そうに顔を顰めるルドヴィクの顔をアリーチェは下から覗き込んだ。

「………どうか、なさいましたか?…………もしかしてわたくし、何かご気分を害するような事でも…………?」

扉の前から微動だにしないルドヴィクの態度に不安が込み上げてきて、アリーチェは堪えられず、思い切って訊ねてみた。

「…………そうではないんだ…………」

暫くの間を置いて、聞こえるか聞こえないかというくらいの小さな声でルドヴィクが呟いた。

「え…………っ?」
「………その、このような夜更けに、レディの部屋に立ち入るのは如何なものかと…………っ」

真っ赤になったルドヴィクが、今度は喉の奥から声を振り絞る。

思いがけない返答に、アリーチェは一瞬何を言われているのか理解が出来なかった。
そして、数回瞬きをしながらその言葉の意味をようやく理解する。

いくら想いが通じ合った、そして将来を約束し合った恋人同士であっても、人気のない夜更けに、それも女性の部屋に男が忍び込む形で密会をするのは外聞がよろしくない、という事を言いたいのだろう。

確かにルドヴィクの言うことも一理あるが、アリーチェにとっては今更、という気持ちのほうが強かった。
イザイアの城に軟禁ーーーもとい保護されていたときも、夜更けに密室で二人きりで過ごしたことはあったし、自分達は口吻まで交わしたのだから、部屋で話をするくらいはどうということはないだろう。

「………ルドヴィク様は存外可愛らしい面がおありなのですわね」

尚も廊下で仁王立ちを続けるルドヴィクに、アリーチェは思わず忍び笑いをする。

「…………むぅ」

気恥ずかしかったのか、ルドヴィクは小さな唸り声を上げたかと思うと、アリーチェから目を逸らす。
その様子が何とも言えず可愛らしくて、アリーチェは堪えられずに声を上げて笑い出したのだった。
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