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299.過去の清算

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「確かに彼女の死については、私が責任を感じるべきではないかもしれません。………ですが私自身、ティルゲルの顔を見る度にどこか後ろめたい気持ちを抱いていたのだと思います。………そして、ティルゲルはそんな私の気持ちに気がついていた。だからこそ少しずつ、奴の中で父や私への気持ちが変わっていったのではないかと思います。………これは、あくまでも私の推測に過ぎませんけれどね」

悲しさとやるせなさと後悔を含んだアンジェロの横顔を、アリーチェは、何とも言えない気持ちで見つめることしか出来なかった。
アンジェロが人知れずずっと、心の奥でマティルデとティルゲルへの罪悪感を抱えていたと思うと、どんな励ましの言葉を掛けたとしても気休めにしかならないような気がした。

「………だが、だからと言って主君を裏切り、国を滅ぼしていい理由にはならないだろう」

少しの間を置いて、ルドヴィクがきっぱりと告げる。
それは、紛うことなき正論に違いなかった。

「………そうですね。その通りです」

苦笑に近い、空虚な笑みを零すアンジェロを、ルドヴィクは真っ直ぐに見つめる。

「………だったら、アンジェロ殿はもう充分過ぎるほどに苦しんだ。いい加減、二人の呪縛から自分自身を開放してやってもいいんじゃないか?」

ルドヴィクの言葉に、アンジェロの眼がはっとしたように大きく見開かれた。

「………私、は…………」

強い戸惑いを浮かべた、透き通ったアクアマリン色の瞳がルドヴィクに向けられる。

「兄様、ルドヴィク様の仰る通りですわ。いい加減、過去に囚われるのは止めませんこと?」

動揺を隠せない様子のアンジェロに、更に畳み掛けるかのように声を掛けた。

「………少し前まで、わたくしも同じく、カヴァニス滅亡の日のあの凄惨な光景が頭から離れず、ただ一人生き残ってしまったという罪悪感に苛まれ、それをカヴァニスを滅ぼした張本人と信じて疑わなかったルドヴィク様を恨むことで日々を生きておりました。………でも、段々と周りの様子が理解出来るようになってきて、わたくしの中の気持ちも少しずつ変わっていったのです」

アリーチェは数歩進み出たかと思うと、冷たくなったアンジェロの手を徐ろに自らの手で取り、優しく両手で包みこんだのだった。
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