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286.王と王太子

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「………そもそもよく考えてみれば、イザイアが王都に直接攻め込む為には、いくつかの街を通過する必要がある。そうすれば必然的に進軍途中で街々に配属された兵から王都へ早馬が来る筈なのにそれは一切なかった。…………別のルートを考えるとなると、国境沿いの山脈を超えるという方法も考えられなくはなかったが、この季節に山越えをするのはよほどの命知らずでない限り、まずその手段は選ばない。………それに、そこまでの危険を冒してまで我が国を責めなければならない理由が、イザイアにはないだろう?」

微かに微笑むアンジェロだったが、アクアマリン色の瞳は全く笑っていなかった。

「…………混乱状態の中でよくそこまでの判断と推察が出来たものだな」

黙ってアンジェロの話に耳を傾けていたルドヴィクが、感心したように小さな溜息を零すと両腕を胸の前で組んだ。

「騎士王と謳われる陛下にお褒め頂けるとは………身に余る光栄でございます」

僅かに目を伏せ、アンジェロは軽くお辞儀をする。

「………それで、その後何故私の許には『カヴァニス王太子死亡』という報告が上がってきたのだ?それもそのよく回る頭で考えた作戦の一環か?」

ルドヴィクの質問に、アリーチェも頷いた。
アンジェロの死をアリーチェや国王夫妻に伝えたのはアンジェロと共に城を発った兵士だったが、まさかその男もティルゲルの配下だったのだろうか。

「………いえ。あの奇襲が実はブロンザルドによって仕掛けられたものであったのならば、兵が城を離れたことで、城にいる人間が危険に晒されると考え、私が率いていた一小隊と共に城へと引き返しました。ーーーもしもブロンザルドから我が国を攻めるのであれば、イザイアとは反対方向ーーーつまり進軍した私達の背後から城を攻めることが出来ますからね。………そして、私の予想は最悪の形で的中した。………まさか、ティルゲルがブロンザルドと通じ、敵を城内に招き入れていたとは…………」

アンジェロは心底悔しそうに、その絵画に描かれた神話世界の青年男神のように美しい顔を歪め、一旦押し黙った。
それはアリーチェも時折そうしていたのと同じように、まるで彼の中で荒れ狂う憎しみや怒りを押し留めているかのようだった。
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