隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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「アリーチェ、姫…………」

ルドヴィクは頬を赤らめながら、じっと彼女にされるがままにしていたが、戸惑いながら視線を彷徨わせ、それからゆっくりと背中に手を触れた。

「皆が、見ている…………」

アリーチェの耳元で、こっそりと囁くルドヴィクに、アリーチェは微笑みかけた。

「ええ、知っておりますわ」
「だが………それではあなたまで批判の対象になってしまう………」

アリーチェを心配し、気遣うような優しい視線を送るルドヴィクに、アリーチェは笑顔のまま、首を振った。

「喩えそうなったとしても、構いません」

きっぱりと言い切るアリーチェの言葉に、揺らぎはなかった。

「それは…………」

アリーチェの返答に、ルドヴィクはさらなる戸惑いを見せた。
深いエメラルド色の隻眼が大きく見開かれ、ルドヴィクの大きな手がアリーチェのか細い肩をがっちりと掴んだ。

「…………っ!」
「駄目だ。あなたが犠牲になる必要は…………」

ルドヴィクがそこまで言いかけたところで、アリーチェが背伸びをし、そっとルドヴィクの肉厚な唇に指を押し当てた。

「…………犠牲になどなりません」

虹色に煌めく瞳で真っ直ぐにルドヴィクを見つめた。

「わたくしはルドヴィク様と共に生きていく、と覚悟を決めました。ですから、逃げも隠れもしませんわ」

今度はにっこりと満面の笑みを浮かべ、再びルドヴィクの背中にしっかりと手を回した。

すると、二人の様子を見ていた人々の間から、少しずつ拍手が起こり始めた。

「…………これは…………」

ルドヴィクが戸惑いながら周囲を見渡すと、カヴァニスの民が、温かな笑顔を浮かべながら自分たちに拍手をする姿が目に入った。

「………皆…………っ?」

想定外の出来事に、当のアリーチェも驚いて顔を上げる。
すると彼女のすぐ近くにいた青年が、顔をクシャクシャにしているのが見えた。
それだけではない。その場に集まった人々は皆、ルドヴィクとアリーチェを温かい、優しい表情で見つめ、拍手を送っていた。

「………………っ」 

自然に沸き起こった拍手は、気がつくと全体に広がりを見せ始めていた。 
アリーチェはその光景に、胸の中が満たされていくのを感じた。
それと同時に、彼女の視界が少しずつ涙で滲んでいった。
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