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276.断罪

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「前カヴァニス王国宰相、マルコ・ティルゲル侯爵。国家転覆罪及び王族殺害罪、そして外患誘致罪並びに外患援助罪により、あなたを石打ちの刑に処すこととします。爵位は奪爵、貴族としての身分も剥奪します。一切の弁明も謝罪も、受け入れません」

凛とした迷いのない表情を浮かべたアリーチェはいつになく堂々としていた。

「刑の執行は明日の正午とします」

そう言い終えたアリーチェを、絶望に染まった表情のティルゲルが見上げた。
その瞬間、アリーチェは自分の心の中に喜びとも悲しみともつかない、何とも言えない感情が湧き上がるのを感じた。
それは自分自身が成し遂げなければならなかった復讐が終わったという達成感なのか、ティルゲルを自身の手で裁いた痛みなのかは分からない。
晴れやかなのに、何処か気持ちが沈むような感覚に、アリーチェはそっと目を伏せると、ティルゲルに背を向けた。
しかしそれは必然的に、背後にいたルドヴィクと向き合う格好になる。

「………よく頑張った。後のことは私に任せてくれればいい」

労りが含まれた柔らかな声が頭上から降ってきて、アリーチェははっと顔を上げた。
すると目の前に優しい微笑みを浮かべたルドヴィクの端正な顔がアリーチェを見つめていた。

「ルドヴィク様………」

真の敵はセヴランとティルゲルであったという事実を明かしても、この数ヶ月で蓄積されたイザイア王国とその君主であるルドヴィクに対する憎しみはすぐには消えないだろう。
それなのにルドヴィクが自ら矢面に立とうとするのは流石に危険ではなかろうか。

アリーチェは不安気にルドヴィクを見つめた。

「大丈夫だ。憎しみも怒りも、向けられる事には慣れている」

深いエメラルド色の隻眼が、ほんの少しだけいたずらっぽい光を帯びた。
それからアリーチェを守るように数歩前に進み出るとぐるりと観衆達を見回した。

「アリーチェ姫の決定に不服がある者がいたら私が訊こう」

低くて静かだがよく通る声が、朗々と響き渡る。

「何も無いのであれば、今日の所は帰るといい。処刑は姫が決定した通り、明日正午から執行することとする。…………それからその罪人には食事は与えるな。水も必要最低限だけしか与えてはならん」

最後にティルゲルを一瞥すると、ルドヴィクはそれだけ命じ、踵を返した。
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