隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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264.闇の駒

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「ああ………先に名乗っておかないとな。俺はガイオ。孤児院育ちだから姓はない」

 ピリピリとした空気の中、ガイオと名乗った男は堂々と名乗る。

「十歳になるまで地方の孤児院にいたが、ある日突然、領主様が俺を引き取りたいと申し出てきたらしい。………ま、その領主様がティルゲル《そっちのおっさん》で、引き取った理由は、いわゆる『汚れ仕事』を請け負わせるのに都合の良い存在が欲しかっただけなんだけどな」

 はは、と乾いた笑いがガイオの唇から漏れ出る。
 それと同時に、彼は骨ばった肩を窄めて見せた。

「汚れ仕事?」

 珍しくルドヴィクが顔をしかめっ面をしながら聞き返した。

「そうさ。そのおっさんが俺に初めて仕事をさせたのは、十四になった頃だった。………はじめのうちは、おっさんの政敵の監視をする程度だった。それが、俺がきちんと仕事を熟すことが分かると、段々と『本来やらせるつもりだった仕事』を指示するようになり始めた」
「本来の仕事………とは、ブロンザルドへの密書を届ける役目のことなのですか?」

ずる賢いティルゲルのことなのだから、おそらくそんなことのためだけにガイオを引き取ったわけではないということくらいは分かっていた。しかし、アリーチェは敢えてガイオの口から説明を聴く事に意味があるのだと考え、抑揚のない声でそっと尋ねた。

「………まさか。そのおっさんは自分の欲望を満たすため、自分の意のままに動く『闇の駒』のような存在が欲しかった。俺を手に入れた事でその計画がうまく進められるようになり、俺に政敵の始末や、自分の悪事が発覚しないよう証拠の隠滅なんかをやらせたって訳さ」  

目ではティルゲルを追いかけながらも、ガイオの表情はどこか他人事のようだった。

「な、何を証拠に…………っ!デタラメを言うのも大概にしろっ!」

目を血走らせながら、ティルゲルが物凄い形相で捲し立てる。

「………どう足掻いたところで、言い逃れなんか出来ないっていうのに………。そもそもブロンザルドあっちで捕縛された時点で、あんたは罪人なんだよ。………本当に、あんたの諦めの悪さも大概だな」

やれやれ、というように再び肩を竦めたガイオは大袈裟なほどに深い溜息をついた。
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