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263.暴露

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男は長い前髪の隙間からアリーチェとルドヴィクを見、それからティルゲルを見た。
口元に浮かんだ笑みはそのままだったが、微かに薄い唇が開く。

「………俺に何を言わせたいんだ?」

相手が王族だと分かっているだろうに、男の口から出てきたのは随分と乱暴な言葉だった。

「言わせたい訳ではないわ。ただ、あなたがティルゲルについて知っていることについて聞きたいだけよ」

男の無礼な態度に腹を立てるわけでもなく、アリーチェは穏やかな口調で告げる。
この男の素性が分からないからこそ、慎重に言葉を選び、相手の出方を待つしかなかった。

「………ふうん。中々賢い姫さんじゃないか」

男は笑みを深めると、顔を上げた。
歳はルドヴィクとそう変わらないくらいだろうか。
だが、やはり彼の纏う空気は鋭い刃のように感じられた。

「なぁ、姫さん。俺がそのおっさんのしてきたことを暴露したら、あんたは何をしてくれる?」

男は首を傾げた。その目は瞳孔が開ききっていて、アリーチェの方を見ているのに、視線が合わないような不思議な感覚に囚われる。

「………あなたがどんな情報を齎してくれるかによるわ」
「なるほどね。手の内を明かさない、とは姫さんも手強そうだな」

男ははは、と小さく笑い声を上げると、鬱陶しそうに前髪を掻き上げた。

「いいよ、俺は姫さんの事気に入ったから、姫さんの頼みだったら話してやるよ。そんな老い先短い極悪人のジジイに付いていても良いことなんて報酬位だからな」

男はティルゲルを莫迦にしたように鼻で笑う。

「貴様…………っ!」

途端にティルゲルの顔色が変わったのを、ルドヴィクは見逃さなかった。
瞬時に剣の柄に手を掛けたかと思うと、警戒態勢にはいる。
だがそんなルドヴィクの気配を感じ取ったアリーチェは、すっと右手をルドヴィクの前に出して彼を牽制した。
そしてゆっくりと首を横に振った。

「アリーチェ姫…………」
「この男を簡単に殺してはいけません。自分のしたことの罪を知り、その分の苦痛を味わわなければ、死ぬことなど許されませんもの」
「………そうか」

ルドヴィクは低い声でそれでけ返すが、警戒態勢は解こうとしなかった。
今のティルゲルに何かができるとは到底思えなかったが、それでも万が一この場に集まった民に何かあってからでは遅いと思い直し、アリーチェはそれ以上ルドヴィクを止めるのはやめた。
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