隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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261.焦り

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「間違い………?間違いは貴様の方だろう。分不相応の地位に就き、姫様に想いを寄せるなど、貴様のような下賤の者に許される訳がない。それなのに…………!」

ティルゲルは榛色の濁った眼でぎろりとルドヴィクを睨みつけた。

「………私とて、望んでこの地位にいる訳ではないが………」

ルドヴィクは小さく溜息をつくと、うんざりしたかのように目を細めた。
セヴランもティルゲルも、ルドヴィクに対して投げかける言葉はそれしかないかのように、嘲りと罵倒を繰り返すことしかしなかった。

「ルドヴィク様がどのような施政者なのかは、イザイアの民が一番良く知っているでしょう。でも、少なくともあなたや自滅した前ブロンザルド国王とは比較にならないほどに、国や国民に向き合い、民のことを考えていると思うわ」

黙っていたアリーチェが静かに口を開くと、再びざわめきが沸き起こった。
おそらくセヴランが死んだことを示唆したせいだろう。

「姫様………いい加減目を醒まして下さい。姫様はその男に騙されているのですよ?」

つい先程まで、口汚くルドヴィクを罵っていたはずのティルゲルが、今度は今にも泣き出しそうな表情を浮かべて見せた。

「………いい加減目を醒ました方がいいのはあなたの方よ、マルコ・ティルゲル」

アリーチェは虹色に輝く双眸を細め、ティルゲルを睨みつける。
するとそれを合図にするかのように、アマデオとジルベールが一人の男を連れてきた。
屈強、という程の体つきではないが、靭やかな体には無駄がなく、『暗殺者』と言っても信じてしまいそうな雰囲気を纏っているが、今は大人しく項垂れている。

「…………!」

その男を見た瞬間、それまで余裕すら感じさせたティルゲルの顔に焦りが浮かび上がった。

「この者をご存知ですよね、宰相閣下。私の記憶では、ブロンザルドの前国王とやり取りをする際のみ、この男を伝令役に使っていた筈ですから………」

するとティルゲルは、音でもしてきそうなほどに激しく、首を振った。

「し、知らん!そのような者は、私は知らんぞ!」

心なしか、先程よりもまた一層単語ルビ青ざめたようなティルゲルは、縛られたままだというのに驚くほど大きな声を張り上げたのだった。
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