隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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259.ティルゲルの狡猾さ

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だが、そんな民の様子を見ても、ティルゲルは慌てもせずに不気味な笑みを浮かべていた。

「あの日王都に攻め込んできたのは、イザイア軍ではなく、イザイアの騎士を装ったブロンザルドの兵だったのです。………そして、我が国の機密情報をブロンザルドの先王セヴランに渡し、我が国を裏切った罪で捕らえているのです」

アリーチェの言葉に、ざわめきは更に大きくなる。
誰もが皆信じられないといった表情を浮かべながら首を振り、アリーチェとティルゲルを交互に見ているようだった。

「……ろこの男は己の欲望を満たすために主であるわたくしの父を裏切り、結果的に国を滅ぼした。ーーーこの男一人のためにどれだけの人の命が犠牲になったことでしょう」

ティルゲルは朗々とした声を上げ続けるアリーチェを黙って見つめていたが、少しずつ笑みが深くなり、そしてアリーチェが話し終わる頃になると、アリーチェにしか聞こえないほどに小さな、くつくつと低くて気味の悪い笑い声を上げ始めた。

「………何が可笑しいのですか?」

実に不愉快だ、ということをアリーチェは表情と声音で表現した。
しかしティルゲルが、そのことを気に留めた様子は少しもなかった。

「姫様。いくらなんでもそれは無理がありすぎるでしょう。あなたはそこにいるイザイア王に魔石で心を操られ、ありもしない事実が真実であると信じ込まされているのです。………こうして懸命に訴えても、あなたの耳には届かないのでしょうが………」

先程までとは打って変わって、今度は実に悲しげな顔で、アリーチェを見つめてきた。

そんなティルゲルの様子に、アリーチェは一気に血が頭の方に吸い上げられていくような感覚を覚えた。
ティルゲルは己の罪を償う気など一切なく、どこまでも狡猾で、どこまでも自分の利益しか考えていないのだと思うと、この男のせいで死んだ者達が憐れでならなかった。

「…………おい…………」

アリーチェが湧き上がる怒りを抑えていると、民の一人が何かに気が付き、声を上げた。

「王女殿下の背後にいるあの男ーーーイザイアの隻眼の騎士王じゃないのか?」

途端にざわり、とどよめきが湧き上がり、アリーチェは頭から冷水を浴びせられたような気持ちになった。
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