隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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258.弁明

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「弁明も何も、私は何の罪も犯してなどいないのに、どう弁明しろと仰るのです?」

恐ろしいほどにはっきりとした声で、ティルゲルはアリーチェに言葉をぶつける。
取り乱す訳でもなく、懺悔する訳でも、命乞いをする訳でもないティルゲルを、アリーチェは睨みつけた。

確かに宰相を務めていた頃を振り返っても、肝だけは据わっていたように感じられるが、彼の後ろ盾であったセヴラン亡き今になっても根拠のない自信を持ち続けられるというのは、ある意味感心すべきなのかもしれない。
それでもあれだけの人が犠牲になり、国がなくなってしまったのに『それは自分の罪ではない』と言い切るティルゲルを赦せる気にはならなかった。

「あなたは宰相という立場にありながら、我が父であるカヴァニス国王の信頼を裏切り、己の私利私欲の為に祖国を犠牲にした。それが、致し方ないことだと………?」

怒りを押し殺したアリーチェの声が朗々と広場に響き渡る。
すると黙ってアリーチェとティルゲルのやり取りを見つめていた群衆の反応に変化が見られ始めた。

おそらく初めの段階では、ティルゲルが一体何者なのか、何の罪を犯した者なのか知らなかったのだろう。
いくら宰相の立場にあっても、平民である彼らがティルゲルの顔など知らないのは当然のことだ。
だが、『宰相』が何者なのかは彼らも知っている。
何故なら、国内で新たに施行される法律が全て宰相の名で発布されるからだ。

マルコ・ティルゲルという個人の名ではなく、宰相という役職をわざと口にしたのは、罪人の正体が誰なのかを明確に示す意図があったからだった。
そして、アリーチェの狙いは見事に的中したらしかった。

「宰相…………?」
「あの罪人が、宰相?だが、宰相といえば、イザイアに囚われた王女様を救い出そうとしていると………」
「一体、どういうことだ………?」

集まった人々の中からざわざわと、そんな声が聞こえてきた。

「…………」

そんな民の声が耳に届いたのか、ティルゲルは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、再び俯く。

アリーチェはティルゲルを一瞥した後、ぐるりと群衆を見回してから、再び声を上げた。

「そもそもこの男………我が国の宰相だったマルコ・ティルゲルを裁く前に、あなたがたに知って貰いたい事実があります。………あの忌まわしい夜に奇襲攻撃を仕掛けてきたのは、イザイアではないのです」

アリーチェの言葉が終わるのと同時に、ざわり、とどよめきが人々の間から湧き上がった。
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