隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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256.到着の知らせ

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ティルゲル到着の知らせが来るまで、ルドヴィクはずっとアリーチェの部屋で取り留めのない話に付き合ってくれた。

アリーチェの両親や兄の話。幼い頃の思い出話。毎日王城で何をしていたのかなどをゆっくりと語ることで、アリーチェの心は次第に落ち着いてきた。

「ご歓談中失礼致します。陛下、マルコ・ティルゲルが到着致しました」

扉を叩く音とほぼ同時に、扉の外からそんな報告が聞こえてきて、アリーチェははっと顔を上げた。

「…………そうか」

ルドヴィクは低い声で呻くと、アリーチェの方へと視線を向けた。
心配そうに眉を顰めて、アリーチェが何か言うのを待っているようだった。

「正直、ティルゲルあの男に会うのは怖いです。………ブロンザルドでの出来事を思い出しますもの。………それでも…………」

アリーチェはまるでオーロラのように輝く美しい虹色のアースアイに強い意思を込めた。

「あの男が正式に裁きを受け、地獄に落ちるのを見届けなければ、わたくしは前に進めませんから」

ルドヴィクに向かってはっきりと意思表示をすると、不思議なことに自然と笑みが零れた。
するとルドヴィクは少し驚いたようにエメラルド色の隻眼を軽く見開き、それからゆっくりと微笑みを浮かべると、アリーチェの方へと腕を伸ばした。

「では参ろうか、我が婚約者殿」
「…………はい」

ルドヴィクの低くて甘い声が、体に染み込んで隅々まで行き渡って、アリーチェに勇気を与えてくれるようだった。
アリーチェは唇の端を持ち上げながら、差し出されたルドヴィクの手に己の手を重ねる。
そしてもう一度顔を見合わせると、同時に頷き、そしてそのまま頷きあい、手を取り合うと部屋の入り口へと歩いていったのだった。


※※※※※※※※※※※


ティルゲルの公開処刑の場として選ばれたのは、旧カヴァニス王国の王都にのほぼ中央に位置する広場だった。
アリーチェ達が泊まった屋敷からは丁度王城を挟んで反対側にある、かつては人々の活気のある歓声に包まれていたその場所には既に多くの人が集まっていた。

その広場の端のほうで、アリーチェ達の乗る馬車は静かに止まった。
アリーチェは目を閉じて大きく息を吸い込むと、天井を仰ぎながら息を吐き出しーーーまるで人形に魂が宿るかのようにゆっくりと目を開き、立ち上がった。
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