隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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247.失踪事件の真相(1)

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「………失踪、事件…………」

反芻するようにアリーチェが口の中でその言葉を繰り返すと、ルドヴィクは形の良い眉を苦しそうに歪めた。

「あなたがアドニスの失踪事件に関心を示しているというのは、ジネーヴラから聞いていた。………だからこそあの時は慎重に、アドニスで何が起きているのかを調べる必要があった」

おそらく彼の表情からして、失踪事件の真相はアリーチェにとって良くない事に違いなかった。

「………アドニスの街には、カヴァニスからの避難民が多く来ていたと聞いていましたが………それはティルゲルが連れてきたのでしょう?」
「………確かにそれもある」

ルドヴィクは少し俯く。
それと同時に馬車の振動で、ルドヴィクの長い黒髪がさらりと顔に掛かり、眼帯に覆われた左目を覆い隠した。

「だが、おかしいと思わないか?アドニスの街は、カヴァニスとの国境ではなくブロンザルドに近い場所にある。それにカヴァニスからの避難民ならば敵国であるイザイアではなく、自分たちに救いの手を差し伸べてくれたブロンザルドに真っ直ぐに向かうはずだ。それなのに何故わざわざイザイアに集まっていたのか…………」

ルドヴィクの言葉に、アリーチェははっとした。
あの時はルドヴィクへの復讐のことばかりを考えていたせいで、そんな事はちっとも考えていなかったが、ルドヴィクの指摘は尤もだった。

わざわざ危険を冒してまで、ブロンザルドに来なければならない理由ーーー。
それは、イザイアの王であるルドヴィクに囚われたアリーチェを奪還する目的以外に考えられなかった。
だとすると、アドニスの街に集結してきたカヴァニス国民は、少なくともアリーチェがルドヴィクに囚われたという事実を知っていたということになる。

(あの日、あれほどの混乱の中でルドヴィク様によってわたくしが王都の外へと連れ出されたということを一般の民が知ることは出来なかったはず………。だとすると、その情報は後日出回ったということになるわ………)

「………その避難民達の中には、スザンナやアマデオも含まれていたのですか?」

眉間に深い皺を拵えながら考えていたアリーチェが、ふと顔に込めた力を抜いた。

「………そうだな。実際、いつ潜入してきたのかまでは調べていないが、それは間違いないだろう」

きっぱりと言い切ったルドヴィクが、深く頷くのを見て、アリーチェはアドニスの街で何があったのかを更に考え始めた。
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