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243.ルドヴィクの優しさ

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ルドヴィクとアリーチェを乗せた馬車は、ブロンザルドの王城を出発してから順調に進んでいった。
周囲をジルベールらイザイアの騎士団とパトリスが警護し、後方からクロードとスザンナを乗せた馬車が走る。

だが、やはり国境までは一日では辿り着くことは出来ず、途中で宿に泊まりながら国境へと向かっていった。

アドニスの街からクスターの城に転移した時は魔石の力を存分に使ったのだから当然として、おそらくはクスターからブロンザルドの王城に向かう際も魔石を使って移動速度を上げていたのだろう。
あの時とは時間の掛かり方が全く違っていた。

早急にイザイアへ帰るのであれば、魔石を使うのが最も効果的だろう。
頼めばパトリスが魔石を提供してくれた筈だし、必要であればルドヴィクが贈ってくれた首飾りの魔石もある。
それなのに敢えて魔石を使わないのは、魔石のせいでカヴァニスが滅んでしまったことを気にしてくれているからなのだろうか。

「あの………魔石は、使わないのですか?」

アリーチェは躊躇いがちに、ルドヴィクに疑問をぶつけた。
するとルドヴィクはふっと口元だけを僅かに歪め、微笑んだ。

「………魔石による移動は肉体的にも精神的にもかなりの負荷がかかる。日夜鍛錬をしている我々と違い、あなたには害になるだろう。………あなたに負担をかけてまで、早く帰る必要はない」

まるで宝物に触れるように丁重な手付きでアリーチェの顔に手を伸ばすと、指の腹でそっとアリーチェの頬を撫ぜた。
その表情はどこまでも優しく、心底アリーチェの事を気遣ってくれていることが伺えた。

「それに、イザイアに戻る前に行っておきたい場所もあるからな」
「え…………?」

言われている意味が分からず、アリーチェが目を瞬くと、ルドヴィクがはっきりと微笑んだ。

「そろそろ、国境を超えるはずだ」

出発地がブロンザルドの王城なだけに位置関係がいまいち把握できていないが、ルドヴィクの口ぶりからはイザイアとは別の場所に向かっているということだけは読み取れた。

おそらくこの方角で、ブロンザルドと国境を接している国はイザイアの他に一つだけしかなかった。

「………行き先は、カヴァニスなのですか………?」

信じられない、というようにアリーチェが小さな声で呟くと、ルドヴィクは優しい笑顔を浮かべながらゆっくりと、頷いた。
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