隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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237.赦し

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「姫様………申し訳ございませんでした………!」

 スザンナの口から真っ先に飛び出してきたのは、再会を喜ぶ言葉でも、互いの無事を確認できた安堵の言葉でもなく、謝罪の言葉だった。
 同時に深く頭を下げると、隣のアマデオも同じ位に深く頭を下げた。

「………全て、クロード卿とジルベール卿から話は聞きました。いくら知らぬ事だったとは言え、宰相閣下………いえ、ティルゲルの言葉を鵜呑みにし、姫様の身を危険に晒してしまったこと、後悔してもしきれません…………」

 腹の底から絞り出すようにして紡がれたアマデオの言葉は、微かに震えていた。

「謝罪して済むような事ではないと、自覚しております。どのような処分もお受けする覚悟は出来ておりますから………」

 スザンナは身に着けた質素なスカートの裾をぎゅっと握りしめた。

 そんな二人の様子を黙って見つめていたアリーチェは、ゆっくりと二人に歩み寄る。

「二人共、どうか顔を上げてちょうだい」

 緊張のためか、冷たくなったスザンナの手と、力を込めすぎて白くなったアマデオの手にそっと触れると、二人は同時にびくりと肩を揺らした。

「謝る必要なんてないわ。この通り私は無事だし、黒幕セヴランは死を迎え、裏切り者ティルゲルは捕らえられたのだもの。これで問題ないでしょう?」

 アリーチェは今にも泣き出してしまいそうな気がして、それを隠すためにわざと明るい表情を浮かべながら微笑んで見せた。

 確かにブロンザルドにアリーチェを連れてきたのはスザンナだったし、アマデオも同じ目的を持ってイザイアの城に密偵として忍び込んでいた。
 だがスザンナもアマデオも、セヴランやティルゲルのような邪心があったわけではなく、純粋にアリーチェを救うためという大義名分の元、イザイアの城の中まで忍び込んでくれたのだ。
 責めるどころか、二人の忠誠心の厚さは褒められて然るべきだろう。

 赦す、というよりも初めから彼らを責めたり恨んだりする気持ちなど、アリーチェの中には存在していなかった。
 それを分かって欲しくて、アリーチェは二人の手に重ねた己の手にそっと力を込めた。

「姫様…………っ」

 アリーチェの言葉を聞き、ゆっくりと顔を上げたスザンナの両眼にはうっすらと涙が浮かんでいた。
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