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228.思い描く未来

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いかにもルドヴィクらしい、素っ気ない態度にパトリスは微かな笑みを零した。
おそらくルドヴィクは謙遜などではなく、本心からそう言っているのだろう。

実の親に愛されず、疎まれて生きてきたという同じ過去を持っているパトリスにはルドヴィクの気持ちが痛いほど理解できたからだ。

「そのように正直に気持ちを吐露出来る強さもまた、私があなたに憧れる一因です」

更に追い打ちを掛けるようなパトリスの言葉に、ルドヴィクは困ったように眉を顰めると、長い黒髪を搔き上げた。

「………私もいつか………、ルドヴィク殿のような強く、誠実な王になれるでしょうか?」

パトリスはふと真顔になる。
彼の薄い灰色の瞳には、期待と不安が入り交じっていた。
そんなパトリスを、ルドヴィクの深いエメラルド色の隻眼が捉える。
頭のてっぺんから足の先までをゆっくり辿るように、パトリスを観察しているようだった。

「………私が強く、誠実かどうかはさておき、パトリス殿ならばきっと、誰よりも立派な王になれるだろう」

暫しの間を置いてから、はにかみを含んだ笑みが、ルドヴィクの顔に浮かび上がる。
ルドヴィクのその言葉に、アリーチェは心の中で深く同意した。

パトリス自身気がついていないようだが、どんなに罵られても決して屈せず、肉体的にも精神的にも極限まで追い詰められてもなお自らの信念を貫き、最後まで抗い続けた彼を『強い』と言わずに何と言おうか。
セヴランの手により、崩壊寸前となったブロンザルドがパトリスの力で蘇ることを願わずにはいられなかった。

「ありがとう、ございます…………!」

パトリスは気恥かしそうに微笑んだ。
全く飾り気のない素直な表情は彼の実直さを表わしているようだった。
それを見たルドヴィクもまた、微笑んだままゆっくりと頷く。
向かい合った二人は、姿や纏う雰囲気は異なるのに何処か似ていて、まるで兄と弟のようだとアリーチェは感じた。

どれほどの時間が掛かるかは分からないが、ブロンザルドが国としての威信を取り戻し、セヴランによって滅ぼされたカヴァニスと、セヴランに陥れられたイザイアの民がブロンザルドを赦したとしたら、今度は不可侵協定などではなく、同盟国として手を取り合うことが出来るのではないだろうか。
アリーチェは心の中で密かに、そんな未来を思い描いていたのだった。
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