227 / 351
226.理由
しおりを挟む
「………しかしそれでは、ブロンザルドは…………」
アリーチェは不安そうにパトリスを見る。
イザイアの汚名を晴らしたいとは思うが、今度は国王となったばかりのパトリスが人々から非難されると思うと、素直に喜べなかったからだ。
勿論悪いのは全てセヴランとティルゲルなのだが、セヴランが死んだことで怒りの矛先が息子であり新国王となったパトリスに向く可能性は大いにあり得ることだからだ。
「事実は事実として、明かす必要がある筈です。ブロンザルドの………私の未来は決して明るいものとは言い難いかもしれませんが、私は国のためにこの身を捧げる覚悟です」
薄い灰色の瞳には何の迷いも無く、強い意志が宿っていた。
極限まで痩せ細った体は昨日と何ら変わりはないのに、彼が纏う雰囲気はまさに王者の風格に違いなかった。
「…………このような立派な王が立ったのであれば、ブロンザルドは安泰だろうな」
それまで黙っていたルドヴィクが、ふっと頬を緩ませて微笑んだ。
「かの高名な『隻眼の騎士王』にお褒め頂けるとは、光栄ですね」
パトリスも心底楽しそうに、声を上げて笑っている。
こうして見ていると、二人は信頼関係で結ばれた親友か幼馴染みのようにすら見える。
そんな様子を見守っていたアリーチェはふと、昨日のルドヴィクの話の中で感じた疑問を思い出す。
「あの、お伺いしたいことがあるのですが…………。パトリス様は何故、必ず動いてくれるかも不確かなルドヴィク様宛に私的な書簡を送ったのですか?」
徐ろに口を開いたアリーチェに、パトリスは「あぁ」と納得したように呻いた。
それからちらりとルドヴィクの方に視線を移す。
「ルドヴィク殿………。アリーチェ王女に、ようやく全てを話したのですね?」
「………ああ、その通りだ」
ルドヴィクが低い声で肯定すると同時に小さく頷くと、彼の絹糸のような長い黒髪が肩から滑り落ちた。
その様子を眺めながらパトリスは小さく溜息を漏らすと、再びアリーチェに視線を戻す。
「………私がルドヴィク殿に書簡を送ったのは、ルドヴィク殿に強い憧れを抱いていたからかもしれません」
「憧れ…………?」
アリーチェが首を傾げると、パトリスは柔らかな笑顔を浮かべてゆっくりと頷いたのだった。
アリーチェは不安そうにパトリスを見る。
イザイアの汚名を晴らしたいとは思うが、今度は国王となったばかりのパトリスが人々から非難されると思うと、素直に喜べなかったからだ。
勿論悪いのは全てセヴランとティルゲルなのだが、セヴランが死んだことで怒りの矛先が息子であり新国王となったパトリスに向く可能性は大いにあり得ることだからだ。
「事実は事実として、明かす必要がある筈です。ブロンザルドの………私の未来は決して明るいものとは言い難いかもしれませんが、私は国のためにこの身を捧げる覚悟です」
薄い灰色の瞳には何の迷いも無く、強い意志が宿っていた。
極限まで痩せ細った体は昨日と何ら変わりはないのに、彼が纏う雰囲気はまさに王者の風格に違いなかった。
「…………このような立派な王が立ったのであれば、ブロンザルドは安泰だろうな」
それまで黙っていたルドヴィクが、ふっと頬を緩ませて微笑んだ。
「かの高名な『隻眼の騎士王』にお褒め頂けるとは、光栄ですね」
パトリスも心底楽しそうに、声を上げて笑っている。
こうして見ていると、二人は信頼関係で結ばれた親友か幼馴染みのようにすら見える。
そんな様子を見守っていたアリーチェはふと、昨日のルドヴィクの話の中で感じた疑問を思い出す。
「あの、お伺いしたいことがあるのですが…………。パトリス様は何故、必ず動いてくれるかも不確かなルドヴィク様宛に私的な書簡を送ったのですか?」
徐ろに口を開いたアリーチェに、パトリスは「あぁ」と納得したように呻いた。
それからちらりとルドヴィクの方に視線を移す。
「ルドヴィク殿………。アリーチェ王女に、ようやく全てを話したのですね?」
「………ああ、その通りだ」
ルドヴィクが低い声で肯定すると同時に小さく頷くと、彼の絹糸のような長い黒髪が肩から滑り落ちた。
その様子を眺めながらパトリスは小さく溜息を漏らすと、再びアリーチェに視線を戻す。
「………私がルドヴィク殿に書簡を送ったのは、ルドヴィク殿に強い憧れを抱いていたからかもしれません」
「憧れ…………?」
アリーチェが首を傾げると、パトリスは柔らかな笑顔を浮かべてゆっくりと頷いたのだった。
0
お気に入りに追加
449
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」


【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる