隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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216.語られる真実(4)

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「………刈り取られてしまった命は、もう元に戻りませんが…………」

暫しの沈黙の後、アリーチェは少し迷いながらも口を開いた。
全てはセヴランとティルゲルが仕組んだ事で、ルドヴィクは寧ろ被害者であるのに、それでもなお強い自責の念に駆られている辺りが、父が彼を信頼した理由の一つなのだろう。

「…………それでもわたくしは、あなたに救われました」

凛とした、迷いのない声だった。
ただ、事実を事実として告げただけの言葉だったが、アリーチェは精一杯の気持ちを込めた。
それが伝わったのかは分からないが、アリーチェの言葉に、ルドヴィクはたった一つだけの深いエメラルド色の瞳を軽く見開き、それから僅かに顔を歪めた。
何故だか今にも泣き出しそうな表情に見えて、アリーチェは胸がきゅっと締め付けられるような疼きを感じる。

「…………あなたは、私を憎んでいないのか…………?」

何かを恐れるように、ぽつりとルドヴィクが呟く。
だが、アリーチェは即座に首を振ってそれを否定した。

「確かに、イザイアの城にいた頃は何も知らぬまま、あなたを祖国の仇だと思い込み、憎んでいました。………でも、それが間違いだと知り………その事実に気が付かなかった自分の愚かさを恥じておりす」

イザイアがカヴァニスを襲ったように偽装し、信じ込ませることーーー。
それこそがセヴラン達の狙いだったに違いない。
その思惑通りに、アリーチェはルドヴィクに激しい憎悪の感情を向け、彼を罵り続けた。
それなのに彼はそれが自分の所業ではないと否定することもせず、それどころか自分を憎むように懇願してきた。

真実を知った今、改めて振り返ってみると、おかしなことだらけだった。
本当にルドヴィクがカヴァニスを攻め滅ぼしたのであれば、火種にしかなりえない王家唯一の生き残りであるアリーチェを助けたりしないだろうし、知らずに助けたとしても、分かった時点で殺すだろう。
あの幽閉だってそうだ。
本気で幽閉するのなら、アリーチェを一歩も外に出さず、辛うじて生き延びられるようにさえしていれば良かった筈だ。
それなのに彼は出来うる限り、アリーチェの希望を叶え、アリーチェが少しでも快適に過ごせるよう心を砕いてくれていた。
それに気が付かなかったのは、自分が真実を見ようとしていなかったせいだろう。
アリーチェは愚かな自分自身を、心底恥じた。
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