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208.憎しみと憐れみ

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四肢を失い、自分の意思で動く事すら出来なくなったセヴランは、絶えず押し寄せる痛みを逃がすかのように大きく息を繰り返す。
その胸の辺りには、罅が入った黒い魔石が淀んだ光を発していた。

「おのれ………、おのれ………っ!」

これ以上ないほどに強い憎しみを湛えた灰色の双眸は、恐ろしい程に醜く見えた。

「…………無様だな、ブロンザルド王よ」

ルドヴィクは凪いだ海のような静かな声で、セヴランを見下しながら呟いた。
たった一つしかない深いエメラルド色の瞳には、憐憫の情が浮かべられていた。
しかし、ルドヴィクを下賤と呼び蔑むセヴランにとっては、軽蔑の対象であるルドヴィクから同情されること自体がこの上ない屈辱なのだろう。
既に血の気を失いつつある歯茎までを剥き出しにして怒りを顕にする。
だがルドヴィクはそんなセヴランに構わず続けた。

「結局お前は、己の欲の為に全てを失った。何よりも誇りにしていた王位も、自らを慕う臣下や国民も、財産も、そして家族も…………。魔石になど取り憑かれなければ、もっと違った人生を歩むことが出来たろう」
「黙れ!まだ私は何も失ってなどいない!貴様のような下賤の者とは違うのだ………!神は私を見捨てたりなどしない!」

唯一動かすことの出来る首を左右に振りながら、セヴランは弱々しい声で叫んだ。
動くたびにルドヴィクの剣先が首を掠め、朱い筋が出来ていくが、手足の痛みが強すぎるのか、或いはもう痛みすらも感じなくなっているのか、セヴランの表情が変わることはなかった。
しかしそれは、己の命があと数分と保たないであろうことを否定するかのような振る舞いだった。

「………神の教えに背いたお前が神に救いを求めるとは、滑稽だな。神どころか、お前に手を差し伸べるものなど何処にもいないだろう」

あまりにも都合のいい言い分に、ルドヴィクは呆れたように息を漏らす。
暴走前と後で、全く考えに変化がないセヴランに対し、説得するのを諦めたかのように見えた。
そして、ルドヴィクは黙って剣をセヴランの喉元から外したかと思うと、懐から取り出した布で付着したセヴランの血を拭い取り、それからじっと剣を見つめた後、固唾を呑んで成り行きを見守っていたパトリスに視線を向けた。

「パトリス殿」
「は、はい………っ!」

突然名前を呼ばれたパトリスは、何かに弾かれたようにびくりと身体を揺らした。
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