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204.ルドヴィクの頑なさ

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そのままゆっくりと深呼吸を繰り返すと、ルドヴィクは真っ直ぐにセヴランを見据えた。
足を大きく開き腰を落とすと、剣を構え直す。
しかし彼の脇腹からはじわじわと赤い染みが広がり、床にも小さな血痕をいくつも作っていた。
その姿は百戦錬磨の騎士王の名に相応しい、気迫と威圧感に満ちたものには違いなかったが、アリーチェは傷付いた身体を酷使する彼の姿を見るのが辛くて仕方がなかった。

今すぐにでも彼に抱きついて止めたくなるくらいに心配しているというのに、当のルドヴィクは手当を受ける気持ちが全く無いらしいということは理解できた。
それに今下手に戦いの妨害をして彼の邪魔をすれば、ルドヴィクを更に危険な状況に追い込ませてしまう可能性があることを考えると、アリーチェは渋々引き下がる他はなかった。

「………申し訳ありません。我が王は、一度決めたら絶対に引かない………そういうお方なのです」

項垂れながら不安げに虹色の瞳を曇らせるアリーチェに向かって、少し呆れたように主を見つめながらクロードが呟いた。

主に命の危険が差し迫っているというのに、何を呑気な、と一瞬思ったが、クロードのルドヴィクを見守る瞳に不安も憂慮も、まるで見えなかった。
クロードは幼い頃からルドヴィクを知る、数少ない人間だ。
ルドヴィクの事を誰よりも知っていると言っても過言ではないクロードが、このような表情をしているのならば、おそらくルドヴィクが化け物と化したセヴランに負けることも、命の危険に晒されることもないのだろうと、無理矢理でも信じるしかない。

「………分かりました」

アリーチェはゆっくりと頷くと、クロードやパトリスの許へと後退る。

「………アリーチェ王女…………」

すかさずパトリスがアリーチェの隣へと歩み寄ってきて、いつの間にか目尻から零れ落ちていた涙をそっと指で拭ってくれた。

「きっと、イザイア国王………ルドヴィク殿は無事にあなたの許へ、戻ってこられますよ。この私が保証します」

優しく励ますような、けれどもどこか切なそうな微笑みを湛えたパトリスが、アリーチェを見つめた。

「………はい」

アリーチェはパトリスの言葉に静かに頷くと、胸の前でぎゅっと祈るように手を組んだのだった。
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