隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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199.打開策

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ルドヴィクが戦う姿を目の当たりにするのは、初めてだった。

洗練された剣技と隙のない動きは、周囲の空気を支配するような圧倒的な威圧感。
その姿は艷やかな長い黒髪のせいか、黒豹を彷彿とさせた。
流石は『騎士王』と呼ばれるだけのことはあると納得する。

「凄い…………」

偉業の化け物と化したセヴランに怯むことなく、いや、寧ろ難敵との戦いを楽しんでいるかのようにすら見えた。

「………父は、イザイア国王の出自を嘲り、軽蔑していましたが、あの方ほど素晴らしい王を私は知りません」

感嘆の溜息を零したアリーチェに声を掛けたのは、パトリスだった。

「パトリス様………」

彼にも訊きたいことは山ほどあったが、全てが終わったら、ルドヴィクが包み隠さず全てを話してくれるという約束だ。
アリーチェは喉まで出掛かった言葉をゆっくりと嚥下すると、ゆっくりと息を吸い込んだ。

「………ブロンザルドの国王は、元に………人間に、戻ることが出来るのですか?」

ルドヴィクから目を逸らすことなく、アリーチェはパトリスに問いかけた。

別にセヴランが心配だとか、元通りになって欲しいという気持ちがあるわけではない。
ただセヴランが元に戻る方法があるとすれば、それがルドヴィクを救う手立てになるのではと思っただけだった。

徐々にルドヴィクに襲い掛かるセヴランの鞭のような手足が、斬られる度に強く、素早くなっていくような気がしていた。
それが事実だとしたら、今はまだルドヴィクにも余裕があるが、時間が経てば集中力も切れ、体力を消耗していくだろう。
その先に待つ結末を想像するだけで、寒気がした。

「…………分かりません…………」

暫しの沈黙の後、パトリスは申し訳無さそうに呟いた。
予想外の答えに、アリーチェは目を見開く。

「………すみません、あなたを落胆させるつもりは、無かったんですが………。それでも、あそこまで膨大な力を持つ魔石を見たことは無いのです………」

少し困ったように視線を彷徨わせた後、パトリスは異形の怪物に成り果てた父親を見据えた。

「ただ一つ、可能性があるとしたら、私のこの体質………でしょうか」

次いでパトリスの口から紡ぎ出された言葉に、最も強く反応したのは彼の隣に立っていた彼の母親であり、セヴランの妃であるテレーゼだった。
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