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185.命令

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「違う!これは…………っ!」

否定こそすれども、言い訳すらも浮かんでこないらしく、セヴランは言葉に詰まった。

「何が違う?何も違わないだろう」

ルドヴィクの声が、また更に低く、冷たくなっていく。

「そこまで否定するならば、これが事実ではないと証明できるのか?」

憔悴したセヴランをルドヴィクは更に追い詰める。
荒い呼吸を繰り返しながら、セヴランは視線を彷徨わせると、衛兵や宰相達に助けを求めるかのように叫んだ。

「これは、罠だ!こんなものが真実ではないと、皆ならば解っているだろう………?此奴は私を王位から引きずり下ろそうとしてこのような真似を…………っ」

これほどまでに追い詰められた状況においても、まだしらを切り通そうという辺りには気概を感じられるが、セヴランの言葉にはまるで説得力というものが感じられなかった。
しかし、その事実に気がついていないのは、セヴランだけだった。

「そもそも、此奴は偉大なるブロンザルドの国王たる私に刃を向けているではないか!他国の王を名乗ってこそいるが、此奴はただの私生児に過ぎん!即刻捕えよ!」

剣先をつきつけられたのはもう随分と前のことなのに、今さらそれを指摘するのは滑稽にすら思えたが、自分にとって都合が悪いこの状況を何とか打開しようという、セヴランの考えなのだろう。

だが、セヴランの鋭い声が響き渡った後、その場は水を打ったように静まり返り、セヴランの命令に従おうとする者は誰一人としていなかった。

「何をしている!これは命令だぞ!」

微動だにしない衛兵達に向かって、セヴランは更に捲し立てるが、状況は変わらなかった。
衛兵達も貴族達も、セヴランを穢らわしいものを見るように眉を顰めるか、視線を合わせないように顔を背けているかのどちらかで、セヴランの声などまるで聞こえていないかのように振る舞っている。

「何故命令を聞かない!私は国王だぞ?!私の命令は絶対………」
「父上」

自分がさも被害者であるかのように叫び続けるセヴランを静止したのは、パトリスだった。

「皆、父上の言い訳にはうんざりしていることに、気が付きませんか?」

微笑む訳でも、嘲る訳でもない、静かな声で語り掛けるパトリスは、惨めな姿を曝す父親とは正反対で、堂々としていた。
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