隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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174.王妃の裏切り

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「…………どうやら、わたくしが何も知らないと思っていらっしゃるようですね」

それまでは比較的冷静だった王妃の声音が、まるで沸々と沸き上がる怒りを抑え込んでいるかのような、静けさの中に何かを秘めているようなものに変わった。

「………一体、何が言いたい?」

長年連れ添った妻に向けたものとは凡そ思えないような、侮蔑を含んだ冷たい眼差しが、二人の仲を象徴しているようだった。

「イザイアの国王陛下の仰る通り、カヴァニス滅亡は、我が国の者達がイザイアを騙ったものだという密告を受けました。はじめのうちは信じがたいと思ったのですけれど、思い当たる事がいくつかありましたので、セヴラン様には内密に、わたくしの実家であるバルニエ公爵家の密偵を使って調べさせて頂きましたの」

まるでお茶会で世間話でもするかのような様子で語られた事実に、セヴランは顔を強張らせた。

「勿論パトリスもわたくしに協力してくれましたのよ?…………イザイア国王陛下の提示された証拠では足りないと仰るのであれば、他の証拠をお持ちいたしましょうか?………例えば、火薬を設置する場所が書き込まれたカヴァニス王城の見取り図や、作戦に参加させる兵士のリストなどもありますの」

穏やかな笑みを浮かべた王妃が優雅に歩み寄ってくると、セヴランは狼狽えてから、ぎり、と音を立てて歯を食いしばった。

「莫迦な………あれはきちんと処分したはずだ………!」
「………そうでしょうね。ですけれど、処分する前にそれらの品は、全てわたくしが回収させていただきました。今は手元で大切に保管しておりますわ。嘘だと思うならば、今すぐにここにお持ちいたしますわ」
「……………っ」

絶対の自信があるらしく、余裕の笑みを浮かべた王妃はあくまでも落ち着いた様子だったが、セヴランはいよいよ追い詰められ、言い訳すらも浮かんでこないようだった。
どうしていいのか分からずにただ押し黙り、悔しそうに唇を噛んでいる。

「………用意周到なセヴラン様にしては、少々詰めが甘かったようですわね」
「テレーゼ、貴様……………!」

妻に裏切られたという絶望よりも、真実を明かされた事による怒りのほうが強いらしく、セヴランの体は小刻みに震えていた。
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