隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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173.王として

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「………それは違いますわ、セヴラン様」

突然、凛とした女性の声が響いて、アリーチェははっと王妃の方を見た。
王妃は真っ直ぐに背筋を伸ばしたまま、己の夫を見据えていた。

「テレーゼ………」

思わぬ人物からの発言に、セヴランは動揺したらしく、灰色の瞳が大きく揺らいだ。

「魔石など使えなくとも、パトリスは、素晴らしい王太子です。…………少なくとも魔石などにうつつを抜かし、王としての責務を果たさないあなたなどより余程王に相応しい程のね」
「な、何だと…………っ!?」

セヴランの顔が一気に赤く染まったのは、怒りのためだろう。
だが王妃はそんな夫を気に留める様子もなく、更に続けた。

「あなたが魔石にのめり込んで以来、殆どの政務を宰相と共に熟していたのは一体誰なのか分かっているのですか?」

王妃の眼差しは、穏やかなのにとてつもない冷気を含んでいるように見えた。

「国の財源を生み出しているのは他でもない魔石だ!たかがサインをするだけの仕事ならば王たる私がしなくても良いだろう!」

全く悪びれる様子もなくそう叫ぶセヴランに、アリーチェは呆れることしか出来なかった。同時に、こんな男を王としなければならないブロンザルド国民を憐れに思った。

「でしたら、この国の最高権力者であるセヴラン様が、わざわざ特産品のうちの一つに過ぎない魔石の取引に直接関与する必要もないのではないですか?」
「…………っ、お前が魔石の価値を分かっていないから、あのような不良品が生まれたのだ!」

反論の余地がない、全くの正論を突きつけられると、セヴランは口汚く王妃を罵り始めた。
だが、王妃はそれを全く気にしていないようだった。

王妃の口振りからは、おそらくパトリスと宰相、そして王妃がこの国を回してきたということが伺い知れた。
そして、狡いセヴランは、さも自分が善政を敷いているように見せかけていたのだろう。
セヴランは、そしてティルゲルどこで道を誤ったのだろう。
どちらも最初は真剣に国の繁栄を願っていたはずだ。
その手段のうちの一つだったはずの魔石に、いつの間にか魅入られてしまったのが、全ての始まりだったのだろうか。

アリーチェは言い争うブロンザルド国王夫妻をぼんやりと眺めながらそんなことを考えた。
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