隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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170.ティルゲルの真実

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「な、…………にを………っ」

出血のせいなのか、それとも突然剣を突きつけられたせいなのか、ティルゲルの顔は青白くなっていた。

「………腹を刺された割には、随分と喚けるな?」

ティルゲルを見据えたルドヴィクの声は、驚くほど落ち着いていた。

「………………っ!」

腹部には、確かに赤黒い染みが滲み、それが着衣を伝って床にまで流れた跡はあるのに、ティルゲルは健常時と殆ど変わらない様子だった。
その一部始終を目撃していたアリーチェ達でさえもルドヴィクが指摘しなければ忘れてしまうほどに、ティルゲルの様子はだったのだ。

の存在に、私が気が付かないとでも思っていたか?」

ルドヴィクの唇が弧を描くと同時に、剣を素早く動かした。

ガキン、と硬くて鈍い音が聞こえるのを、アリーチェはただ呆然と立ち尽くしながら聞いていた。

「…………ティルゲル!」

ティルゲルの着衣の胸元が切り裂かれた瞬間、彼の名を呼んだのは、セヴランだった。

「あ……………」

偽物のパトリスと同じ様に、ティルゲルはその場に崩れ落ちた。

「……………!」

だが、倒れたティルゲルの姿に、アリーチェも、そして他の者達も、ただ驚くしかなかった。

大怪我を負い、顔や体に無数に付いていたはずの傷は消え、………つい先程までは間違いなく金属製の義足であったはずの右足は、何事もなかったかのように存在していたのだ。

ルドヴィクが、ティルゲルの体を足蹴にして仰向けにすると、開けた胸元には、衣服の下に隠してあったらしい大きな魔石の首飾りが、真っ二つに割れていた。そして、先程セヴランによって刺されたはずの腹部の傷も、綺麗に消え去っていた。

「ティルゲル…………」

アリーチェは、信じられないというように、ティルゲルを見つめた。
彼を心から恨みたくても出来なかったのは、彼が裏切り者だと分かってもなお、彼が負った傷は消えないと思っていたからだ。
だが、それすらも嘘だったという事実を、分かっているのに理解は追いついていかなかった。

「………魔石の力を使い、傷を偽装していたのですね。さも、カヴァニス滅亡の日に、瀕死の重傷を負ったように見せかけるために…………」

誰もが驚き混乱する中、声を上げたのはパトリスだった。
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