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169.神の加護

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「布が燃えないだなんて、そんなことが…………」

あの日の光景を思い出しながら茫然と呟くアリーチェに、まるで彼女の不安を取り除こうとするかのようにルドヴィクは微笑み掛けた。

「不思議だろう?竈や暖炉に焚べても絶対に燃えないのだそうだ。………流石に私も、そこまで試したことはないがな」

得意げな様子のルドヴィクを、セヴランとティルゲルが、信じられないものを見るような表情で見つめていた。

「神の加護だと………?そんな莫迦なものが存在するわけがないだろう…………!」

混乱したように呟きながら、セヴランは頭を何度か横に向かって激しく振った。
それはまるで聞き分けのない子供のような振る舞いだった。

「そ…………、そうですとも、陛下!あれはイザイア王が私達を貶めるために細工した罠に違いありません!」

それでもまだまともな判断ができるらしいティルゲルが叫び声を上げた。
だが、それすらも全てルドヴィクは推測しているようだった。

「何と言おうと、私はその神のご加護のお陰でお前達の陰謀を暴くことが出来たという事実に変わりはない。………まあ実のところ『神の加護』とは言っても、これは神の力ではなく、我が国の大聖堂に安置された、巨大な魔石の力のほんの一部を授かっただけだがな」

ルドヴィクの説明で、アリーチェはようやく納得する。
だが、イザイアの王城にいた間に、イザイアにも、しかも大聖堂に魔石が安置されたいるなどという話は聞いたことが無かった。

「魔石の、力…………?」

ティルゲルは驚いたように眼を見開いたあとにセヴランの方を見たが、セヴランの方は憎々しげに顔を歪めただけだった。
まるで、セヴランはルドヴィクの口から語られた魔石の存在を、初めから知っていたかのように感じられ、アリーチェは注意深くセヴランを観察する。
だが、どこを見ているのか分からない、焦点の定まらない彼の薄い灰色の瞳からは虚無と野心しか見て取れなかった。

「………お前ものだから、このような細工が可能だと分かっているのだろう?」

どこか意味深な言葉を口にしたルドヴィクは、言い終えるのと同時に小さく溜息を零したかと思うと、流れるような動作で腰に下げた剣を抜き放つ。
そして次の瞬間には、己の剣の切っ先をピタリとティルゲルの胸元に突き付けていた。
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