隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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164.仲間割れ(※少し残酷な場面があります)

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「へ、いか……………?」

ティルゲルの嗄れた声が、ゆっくりとセヴランを呼ぶ。
それと同時に、ティルゲルが身につけた衣服の脇腹あたりが、じわりと赤いものに染め上げられていく様が目に入った。

驚いてセヴランのほうを見ると、血走った目をティルゲルへと向けながら、口元に薄っすらと笑みを浮かべていた。
そしてその手には、近くにいた衛兵の腰から引き抜いたと思われる、立派な剣が握られていた。

「…………まさか、ティルゲルを…………?」

あまりにも信じがたい展開に、アリーチェはただそれだけ呟くのが精一杯だった。
ティルゲルの左足を、静かに血が伝っているのだろう。
じわじわ、という表現がもっとも似合う速度で、ゆっくりと赤の領域がひろがっていった。

「お前がきちんと計画を立てないから、何もかもが台無しになったではないか!」

完全に責任転嫁としかいいようのない、自分勝手な台詞を口にしながら、セヴランは手にした剣をずるりと引き抜いた。
すると、傷口から血液が吹き出すのが見えた。

「あ…………」

ティルゲルが、その場にがくりと膝をついた。
傷の深さも去ることながら、ある意味での『同士』とも言えるセヴランに刺さ裏切られたことが何よりもティルゲルにとっては大きなダメージだろう。
未だにあの忌まわしい日の記憶を蘇らせる生々しい傷痕の残る顔は、蒼白になっていた。

思いもよらない展開に、その場は大きくざわつき始める。
だが、冷静にその状況を見極めている者たちは、

「…………そうではないでしょう、父上?」

狼狽する貴族達を制するように、静かだが力強いパトリスの声が響き渡った。
一体か細い彼の体のどこに、そんな力があるのだろうと思えるほどの力のある声だった。

「…………何だと?」

セヴランは手にした剣の柄を握り直すと、地を這うような低い声でパトリスを威嚇した。
だが、パトリスはそんな父に対して、一歩も引く様子は見せなかった。

「もう隠し通すことなど不可能なのですから、いい加減全てを明かしてしまったらどうですか?…………あなたが、あなたの底しれない欲望を満たすためだけに行ってきた全ての悪事と、そしてこれから実行しようとしていた恐ろしい計画を…………」

パトリスは薄い灰色の目で、セヴランを冷ややかに見つめた。
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