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163.王妃の反抗

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「もしも本当に此度の騒動が、セヴラン様とパトリスの『ただの親子喧嘩』なのだと言うのならば、敢えて替え玉を使った理由も明確に示せるはずよね、ティルゲル殿?」
「…………………っ」

王妃の指摘に、あからさまに狼狽えるティルゲルに、アリーチェは王妃の肩越しに冷ややかな視線を向ける。
少し考えれば矛盾点だらけのはずなのに、それにすら気が付かないなんて愚かとしか言いようがなかった。

「テレーゼ、お前は黙っていろ!」

苛立った様子のセヴランは、王妃を怒鳴りつけた。

「嫌です」

しかし王妃の口から飛び出したのは、彼女の穏やかな印象からは想像がつかないほどにきっぱりとした、強い拒絶の言葉だった。

「わたくしの大切な息子のことなのですから、母として口を出すのは当然です。………それで、セヴラン様はパトリスに何をなさったのです?何故パトリスはあのようなやせ細った姿になっているのです?それは、わたくしがパトリスに会わせてもらえなかったことに関係あるのですか?そして、何故アリーチェ王女との婚約の場に替え玉を使う必要があったのか、ご説明いただけますか?」

王妃は矢継ぎ早にセヴランに対して質問をぶつけると、みるみるうちにセヴランの顔色が悪くなっていく。
アリーチェはその様をただ茫然と見つめていた。
それと同時に、嫋やかなのに芯の強さを持つ王妃に、強い憧れを抱かざるを得なかった。

「…………っ、くそ…………!」

セヴランは感情が抑えられなくなったらしく、亜麻色の髪をぐしゃぐしゃと掻きむしると、天を仰ぎ、絶叫した。

「一体何がいけないのだ!私は私の欲しい物を望んでいるだけなのに!!」

それは、ビリビリと空気が震えるほどの咆哮だった。
穏やかな国王という化けの皮が完全に剥がれきった欲深いけだものの姿に、一同は黙ったまま、彼の動向を見守っている。

「陛下、どうか落ち着いて…………」

今にも暴れ出しかねない雰囲気のセヴランを宥めようと、ティルゲルがセヴランに近付いた。

と。

短く、鈍い音が響いた。
一瞬何が起きたのか理解できず、アリーチェはゆっくりと周囲を見渡す。
他の者達も同じらしく、一体何事かと落ち着きなく辺りの様子を気にしていた。
しかし、セヴランとティルゲル、本物のパトリス、そしてアリーチェの隣にいるルドヴィクだけは違っていた。
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